心連心ウェブサイトは日本と中国の若者が
未来を共に創る架け橋となります。

JAPAN FOUNDATION 国際交流基金[心連心]

日本と中国の若者が未来を共に創る

留学ドキュメンタリー

留学ドキュメンタリー 第10話 =未来を信じて=

  前回の取材時に、残り半年の目標として蔡蘊多(さい うんた)さんが掲げたのは「茶道と日本語のさらなる上達」。無事に目標を達成し充実した1年を送る事が出来たのか、期待と不安を抱きつつ最後の取材に岐阜を訪れた。

主役のお茶会を控えて



落ち着いた表情で、お手前の練習に精を出す蔡さん

  4月末から新しいホストファミリーの家へ移り、2時間かけて名古屋から岐阜まで通学している蔡さん。朝6時に起き6時20分には家を出発し、電車やバスを乗り継いで学校に着くと教室で朝食のパンを食べる毎日だ。

  「他にも教室でパンを食べている子はいますから、恥ずかしくないですよ。通学に時間がかかる分、家でのんびりする時間や睡眠時間が少なくなってしまったから、出来るだけ寝る時間を確保したくて朝ごはんは学校で食べることにしました」

  通学時間はほぼ“寝ている”か、頭の中で「茶道」のお手前の手順をおさらいしつつ過ごしている。あと2週間後に迫った、蔡さんがお手前を披露するお茶会のためだ。茶道部の顧問の先生達が、帰国前に成果を発表する場として企画してくれたものだ。

  「最初のホストファミリーの近本さんご夫婦が来てくれるんです。近本さんは知っている人だしあんまり緊張はしていないんですが、完璧にやりたいと思って取り組んでいます」

  茶道部の活動は週に2回と限られているので、部活のある日には4回もお手前の練習を繰り返し、その熱心さで先生を驚かせたこともある。おかげで「基礎はもうバッチリですよ」と部長の坂井田さんも太鼓判を押す。その上頼もしいことに、茶道部の同級生である松原さんが当日サポート役として参加したいと手を挙げてくれた。蔡さんが一人じゃ大変だろうと気遣っての発言だった。自然と皆がフォローしてくれるのも、蔡さんのキャラクターによるところが大きい。

  「とても明るくて一緒にいて楽しい」、「人懐っこくてそばにくっついてくるのがかわいい」と口々に語ってくれた茶道部の友人達。「もうすぐお別れだけど心境は?」と彼女達に問いかけると、「上海まで絶対遊びに行きます」と笑顔で答えてくれた。

目標を達成するために


  「最初は真面目すぎるなぁ、と思ってちょっと心配していました」

  と話すのは蔡さんが所属する茶道部顧問の藤嵜先生。


茶道部の友人達に囲まれて

  「でもホストファミリーの方たちや友人など環境に恵まれて、良い留学生活を送れたんじゃないかな。もちろん本人の努力もあったと思いますし。やっぱり言葉って大事。意思疎通が出来るだけの語学力が彼女にあったのは大きい」

  担任の篠田先生は蔡さんをこう評価する。

  「“国語表現”の授業で、自己紹介をテーマに作文を書いてもらったのですが、蔡さんはとてもいい日本語を書くんです。今の高校生が使わないような日本語だったので、学校生活で学ぶというよりも本を読んだり自分で勉強しているんだな、と感じました」

  「茶道」も「日本語」も自分で立てた目標を達成するためにはしっかり努力する。もしや途中で投げ出してしまっていないだろうかと、実は取材前には不安に思っていたが全くの杞憂に過ぎなかった。淡々と努力を積み重ね、有言実行を成し遂げた蔡さんを心から称えたい。

自分の思いを伝えて



この日は学校の研修でUSJへ。仲の良いクラスメート達と

  やるべき事はきちんとやり、しかし努力する姿は人前ではあまり見せない。どちらかというと自分を主張するより周囲に合わせる優等生タイプ。そんな印象を今までの取材を通して感じていたが、今回はのびのびとした表情と自分の言葉で話そうとする姿が印象的だった。

  「留学生活中、知らないうちに相手を怒らせてしまったこともありました。でもそんな時もアドバイスにはできるだけ耳を傾けたいと思っていますが、もしそれが自分の考えとは違う、受け入れるのが無理だなと思ったら、はっきり自分の考えを言えるようになりました」

  以前は萎縮してしまい言いたい事をうまく言えなかった時もあったが、親元から離れたこの留学生活を通し、自己主張の方法を少しずつ身につけてきた。

  「今までは困った事があったら、全て両親に相談したり友人に愚痴を言ったりして自分で考えて解決するって事がなかったんです。でも日本では、悩みがあっても一人で解決できるようになりました。それに以前はすごく小さなこと、例えば席替えをして仲の良い友人と離れてしまったらどうしよう、なんてことを心配する性格だったんですけど、今は『小さいことを心配してもしょうがない。今までも何とかなってきたんだから、最後はなんとかなる』と開き直れるようになりました」

  自分を信じて、自分の考えをしっかり持つこと。それに未来へ向けて楽天的になれたのもこの1年の大きな変化だ。生活面でも留学するまでは両親や祖母に甘えっぱなしだったのが、日本での生活を経て変わってきた。

  「今まではご飯を食べたら食器はそのまま、部屋が汚くなるとおばあちゃんが黙って掃除をしておいてくれるなど本当に甘えていました。もしこの一年間日本に留学しないでいきなり一人暮らしをスタートさせていたら、とても大変だったと思います」


西村さんが開いてくれたホームパーティーで記念の1枚

  「今まではやってもらえるのが当たり前だと思っていたけど、中国に帰ってからも掃除を手伝おうと思います」と蔡さん。そんな風に考えられるようになったのも、この留学生活のおかげだ。

  「そんなに教えるってほどでもないですけど、例えばシャツはこう干すんだよ、と一緒にやってみたことがありました」と話す、現在ホストを務める西村さん。

  蔡さんのプロフィールから誕生日を知った西村さんが、友人とのホームパーティーを兼ねて誕生日を祝ってくれた事がとてもうれしかったと蔡さんが話してくれた。

  「西村さんが手作りのケーキを焼いてくれて、中1のお兄ちゃんがピアノを弾き、小学5年生の弟さんがバースデーソングを歌ってくれました。私もいつか子どもをそんな環境で育てたいな」

  帰国まであと1ヵ月。今は日本の友人や生活に別れを告げる実感はあまりないようで、1年ぶりに母国の両親や友人に会える喜びのほうが大きいよう。

  「今は帰るのが楽しみ。早く中華料理を食べたくて。帰国したら1週間は毎日外食しようねってお母さんと話しています」

  と屈託ない様子を見せる。なぜなら高校卒業後また日本へ戻り、日本の大学へ進学する意思を固めたからだ。

  「以前は同時通訳を目指して北京の大学へ進学するつもりでした。でもせっかく1年間日本で勉強したんだから続けないともったいないと思って、日本の大学へ進学したいと父に話したんです」

  お父さんは「しばらく考えさせて欲しい」と話したそうだが、日本の大学へ進むことが蔡さんにとってより良い将来へつながると判断されたのだろう。後日、賛成してくれたそうだ。

  「大学名は内緒ですけど、東京に行きたいと思っています。将来は上海で日系企業に勤めるのもいいかな」

  日本での1年間を通し、自立への一歩を踏み出した蔡さん。ようやく自分とその本当の思いに向き合い始めたばかり。自分とその未来を信じる力を身につけた今、より大きなチャレンジに挑み、新たな目標を達成する姿を楽しみにしている。(文責 真崎直子)

ページTOPへ

  • 国際交流基金 JAPAN FOUNDATION
  • 通过《艾琳》学日语
  • 日本国际交流基金会|北京日本文化センター
  • 日本国际交流基金会|北京日本文化センター[微博]Weibo