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- 第37話 =秋田の人と自然に包まれて=
留学ドキュメンタリー
文化祭、スキー、着物、秋田名物の稲庭うどん作り――。たくさんの“人生初体験”を重ねながら、心連心第十期生の吉磊さんは明桜高等学校(秋田県)での留学生活を満喫中だ。来日から半年過ぎた3月上旬に学校を訪ねると、クラスメートに「ライちゃん」と呼ばれ、すっかり学校になじんでいる彼女の姿があった。
全員の名前を覚えて
吉さんが所属するのは特別進学コースの1年生のクラス。全24人で、6人しかいない女子はみんな仲がいい。自分の名前の中国語読みを吉さんに教わったり、ドラマの話をしたり、学校帰りにおいしいスイーツを食べに行ったりして交流を深めている。
学年の途中から留学生を迎えたことについて吉さんのクラスメートに感想を聞いてみた。佐藤稔子さんは「外国人とかかわることが少ないので楽しみでした」と話す。「同年代の外国人に会うのは初めてだけど、話していても違和感がない」と言うのは小松丈流君。三浦千歳さんは列車に遅れそうなときに「走ろうと言われて手をつながれたのにはびっくり」と、中国では友だち同士が当たり前のように行うスキンシップにドッキリした様子だった。
取材に協力してくれたクラスメートの名前を尋ねると、吉さんが全員のフルネームを正確に書いてくれた。クラスが決まってすぐに一生懸命覚えたのだという。早い段階からクラスになじんだのは、天性の人懐っこい性格に加え、積極的にクラスにとけ込もうとする努力があったからなのだろう。
きっかけは日本製アニメ
吉さんは高い日本語会話力を身につけて来日した。担任の皆方紀夫先生も「最初から言葉の壁がなく、困ることがなかった」と絶賛する。その自然なイントネーションと豊富な語彙の秘密は、日本のアニメーションだった。
「小学6年生のときに友だちにすすめられて見た日本のアニメがとても面白かった。それからアニメは日本のものしか見ないようになりました。ほかの外国語に比べ、日本語は聞いていると気持ちいい」(吉さん)。アニメを教材にして学んだ会話に比べ、読み書きは少々苦手だと感じているが、初めて学ぶ科目への関心も広がっている。特に世界史や国語は先生の話が面白く、授業の日を楽しみにしている。
アニメやドラマを通して日本の高校生活の知識はあったが、実際に放課後の課外活動を目にして感動したという。部活をしていない吉さんは授業が終われば帰途につくが、夜遅くまで学校で勉強していた中国の高校生活との違いを実感している。
国際交流の橋渡し役も
明桜高等学校は台湾・新北市の高校と提携し、短期留学生を派遣し合っている。吉さんは、台湾から来ている短期留学生には日本語について、4月から台湾に行く生徒には中国語について聞かれることが多い。昨年12月に台湾の生徒32人が2泊3日の日程で明桜高校を訪れたときは通訳として大活躍した。同高の国際交流にも、吉さんはかけがえのない存在となっている。
ホスト家族は受け入れ17年のベテラン
吉さんのホストファミリーの大友浩さん・祐子さん夫妻は、1999年から留学生を受入れている。心連心:中国高校生長期招へい事業には2年目の2007年から参加し、吉さんで9人目だ。「娘が4年間ニュージーランドに留学しホームステイしていたので、お返しの気持ちもあって」(祐子さん)受入れを始め、17年間で約100人の留学生の面倒をみた。国籍は欧州、南米、東アジア、東南アジアと幅広く、もはや「何カ国なのか数えきれない」(浩さん)という。
心連心プログラムで秋田に来た留学生がのちに東京の大学に合格し、入学式に駆けつけたこともある。帰国した留学生が手紙やLINEで近況を知らせてくれるのが、大友夫妻にとっては何よりうれしい。長年留学生の受入れを続けられる秘けつは「特別扱いせず、家族と同じように接すること」だと浩さんは言う。
帰国した留学生たちが懐かしむのが、祐子さんの手作り弁当。吉さんも大好きな甘い卵焼きは、特に忘れられない「日本のおふくろの味」だ。
将来は日本との架け橋に
吉さんの出身高校の蘇州外国語学校は、海外の大学への進学を目標にしている。近い将来の目標、大学入試について聞いてみると「父は英語圏の大学を勧めるけれど、日本で勉強したことを生かしたいし……」と決めかねている様子だ。
将来は日本関係の仕事に就きたいという夢を持つ吉さん。残り4カ月間の留学生活のなかで、夢を少しずつ具体化していくのだろう。
取材/文:芳賀 恵 取材日:2016年3月3日