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留学ドキュメンタリー

留学ドキュメンタリー 第39話 =つぼみの季節=

春の足音が聞こえはじめた3月半ば。熊本市中心部から電車で約15分の宇土の町へ、侯天妍さんをふたたび訪ねた。熊本県立宇土高等学校への留学から半年を過ぎ、学校やホームステイ先での生活はどのような様子だろうか。まずは高校の教室へと向かう。

すっかり溶け込んで


  「こんにちは!」「こんにちは!」すれ違う生徒たちが、みんな気持ちのいい挨拶をしてくれる。

ウトウトタイム
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ウトウトタイム

  高校で心連心プログラムを担当する吉永先生によれば、宇土には「外から来た人もおおらかに受け入れ、たとえ目下であっても優れている者は尊重する」という気風があるのだそう。教育への意識も高いこの地で、大正9年(1920年)からの歴史に加え、SSH(スーパー・サイエンス・ハイスクール)事業でも多くの実績をあげている宇土高等学校。海外研修にも積極的に取り組んでいることから、留学生への対応もスムーズなようだ。

授業中の侯さん
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授業中の侯さん

  ちょうどお昼休み。「侯さんはあの席なのですが…」と案内されたが、クラスの全員が机に突っ伏しているので、さすがに見分けがつかない。宇土高校名物(?)の「ウトウトタイム」。ひととき頭を休めて午後の授業の集中力を高めようという、ユニークな試みだ。

玄関では華道部の花とくまモンが出迎えてくれる
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玄関では華道部の花とくまモンが出迎えてくれる

  侯さんもしっかり「ウトウト」して、英語、数学の授業に臨んでいた。中学から日本語を勉強しているという侯さんだが、授業中のちょっとした笑いにも遅れることはない。この半年の生活によって、単なる語学としての日本語だけでなく、場の雰囲気やニュアンスを読み取るレベルにまで達していることが感じられた。

花を生けながら


「なかなか個性的なのよ」と侯さんの作品を評する先生
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「なかなか個性的なのよ」と侯さんの作品を評する先生

  放課後はクラブ活動。来日当初はバレー部に入部していたが、休みの日の練習も多く、自分の時間が持てないことへの戸惑いがあったとか。日本文化を知り、より留学生活を実りあるものにするため、11月からは華道部に入っている。玄関をはじめ、校内の様々な場所や卒業式などの行事で飾られる花は、華道部の部員が生けている。

  「元々お花が好きで、家でもよく飾っていました。日本の生け花は初めてですが、とっても楽しいです」と侯さん。指導されている村田先生によれば「なかなか素敵な花を生けられますよ。中国の方だからでしょうか、原色のような鮮やかなお花を選ばれるんです。色の感覚がいいですね」とのこと。

楽しみながら生ける
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楽しみながら生ける

  この日の花材は、大きなゼンマイやおもしろい形の葉もの、ガーベラなど。おなじものでも部員それぞれ、構成も生けるスピードもまったく違う。侯さんは、3本のゼンマイの位置をじっくり悩んで何度も生けなおしていたが、それが決まってからは、先生のアドバイスもあり、ボリュームと華やかさのある作品へと仕上がっていった。ほかの部員からも「いいね~」と声が上がる。

上手くできたときは中国の友だちにメールで送るそう
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上手くできたときは中国の友だちにメールで送るそう

  内に秘めたものが、いまあふれ出そうとしている…侯さん自身の印象とも重なる花を前に、宇土での生活のこと、将来のことを聞く。

  「もうすっかり慣れました。友だちもたくさんできたし、大好きな漫画の本もたくさん貸してくれます(笑)。授業は、最初は国語、特に古文はいまでも少しわかりませんが、現代文ならだいぶわかるようになりました」「将来は…いまは建築関係がいいかなと思っています。父がその方面の仕事をしているので、興味があります。大学は、北京外国語大学に入りたいですが、また日本に来たい気持ちもありますので、大学院で建築を勉強するとか、そういうことも考えています」

  花を生ける静かな時間の中で、これからの自分とも向き合っているのだろう。

糧となる日々


ジョギングをしている近所のグランド
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ジョギングをしている近所のグランド

  侯さんがよくジョギングをしているという公園で、ホストファミリーの川畑由美さんにもお話を伺った。侯さんとおなじ高校1年生の娘さん、高校2年生の息子さんとも打ち解け、日常生活の中での国際交流ができているのでは、とのこと。家族それぞれが忙しい合間を見て、サッカー観戦や観光などにも出かけている。この先も、福岡への野球観戦、そして侯さんが大好きなアニメのイベント参加なども予定しているとか。

  「侯さんは勉強熱心だし、インターナショナルな人になるんじゃないでしょうか。それだけの思いと覚悟を持って来られているでしょうからね。もうすぐお別れかと思うと寂しいです。たくさん思い出を作ってあげたいですね」

ホストファミリー宅にて
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ホストファミリー宅にて

  学校でも、ホームステイ先でも、侯さんがあたたかく受け入れられ、見守られていることを感じた。自分から多くを語るタイプでは決してない侯さんだが、この留学生活で多くのことを学び、確実に力を付けて、将来へ向かって歩んでいることが、ひとつひとつの言葉を選びながら話す姿から伝わってきた。まわりの方のサポートも、そんな侯さんの姿が自然と引き出しているのだろう。毎日の暮らしが充実していることは、私が「宇土での生活は、あと3ヶ月くらいですね」と言ったときの、驚きと寂しさが混じった表情が物語っていた。

  宇土での、日本での日々を糧にして、きっと大きく花開いてくれるに違いない。

取材/文:下妻みどり 取材日:2016年3月16日


先日の熊本地震発生の際には、日中交流センター宛に、日本中国の多くの方々からご心配の連絡・お見舞いメッセージを頂戴しました。誠にありがとうございます。
また、熊本、大分で被災された方には、心からお見舞い申し上げます。

2016年5月2日 日中交流センター

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