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- 第14期生――第14期生、来日3カ月で見つけた日本の不思議、そして新たな目標。
留学ドキュメンタリー
9月に来日した第14期生が、全国各地で留学生活を始めて3カ月。この時期、生徒たちは日本の生活に慣れつつも、なかなか友達の輪に入れない、親しい友達ができないなどの悩みも抱え始める。
12月3~7日に開催された研修では、14期生26名全員が東京近郊に集合、それぞれの課題に向き合い、新たに留学中の目標を設定した。
中国ではできない体験を大切に
広々とした緑の敷地の中、どこまでも続きそうな空を背景に、茶と白の校舎がそびえたつ。スライドに映し出された学校風景に、教室から「お~」と声が上がった。研修中の個人発表の一幕だ。
「学校が広すぎて、正門がどこにあるかわかりません」
ユーモアまじりにそう話すのは、北海道の酪農学園大学附属とわの森三愛高等学校に通う史錦超(しきんちょう)君。毎日飲んでいる牛乳は、校内の牛舎でその日にとれたものだと言う。生徒たちがまた、「うらやまし~」と声を上げた。
彼らの発表から、留学先で充実した日々を過ごしている様子が伝わってくる。
大分県の岩田中学校・高等学校で、APU・立命館コースというグローバル人材を育成するカリキュラムで学ぶ何心鈺(かしんぎょく)さん。
「欧米からの留学生も多く、英語と日本語を学べます。イベントもたくさんあります」と、実に流暢な日本語で学校の紹介をする。
唐錦麗(とうきんれい)さんが通う愛媛県立南宇和高等学校は、今回、初めて留学生を受け入れた。最初は不安だったという唐さん。しかし、先生も同級生も本当に温かく迎えてくれた。「学園祭では「きんちゃんの餃子屋さん」をやって、とても楽しかったです」と満面の笑顔で話す。
毎朝の朝礼で般若心経を読経しているという徐欣然(じょきんぜん)さんは、大阪府の清風南海中学校・高等学校という仏教系学校に通っている。
「中国では体験できないことなので大事にしています」と、徐さんは言う。
彼女以外にも、キリスト教の学校で賛美歌を覚えた生徒や、聖歌隊に入隊した生徒もいる。いずれも留学生活ならではの得難い経験だ。
男子で茶道部、女子で剣道、それぞれの部活体験
部活動もまた、日本留学ならでの楽しみの一つである。友達作りにも欠かせない。
邦楽部に入部し、来年1月のコンクールを目指すという兪騫澍(ゆけんじゅ)さん。
家庭科部で料理を習う王怡安(おういあん)さんや、美術部で京劇の絵を描いて中国文化を紹介したと話す孟沁培(もうしんばい)さん。
美術部と華道部を兼部する竜楚騫(りゅうそけん)さんは、「生け花を学ぶと季節を感じられて、本当によかった」と語る。
あるいは「男子ですけど、茶道部で男性のお点前を学んでいます」という谷子毅(たにしき)君や、「みんな女子力高い部活だけど、私は剣道です」と、激しい打ち込みの練習風景を動画で紹介する徐欣然さん。それぞれの部活の紹介に、生徒たちはくすくす笑ったり、どよめいたりしていた。
どの生徒の発表を聞いても、留学生活はなかなか順調そうだ。実際、この3カ月間、みな大きな問題もなく無事に過ごしてきたとスタッフは言う。ただ、中には、留学先であまり積極的に周囲と関われない生徒もいるようだ。
確かに14期生の全体的なイメージは「いい子」でおとなしい。表面的にはわかりにくい生徒もいるかもしれない。しかし実は、本当によく日本のことを見て、いろいろなことを考えているのではないか。「日本で不思議に感じたこと」の発表を聞くと、そんなことを思う。
日本の「ここ」が不思議
和歌山県立橋本高等学校に通う張卓寧(ちょうたくねい)さんは、留学当初、電車の車内アナウンスが車掌さんによる生放送であることを不思議に感じたそうだ。
「次は橋本、橋本です。高野山極楽橋方面はお乗り換えください」と、実に見事にアナウンスを再現する張さん。なぜ録音ではないのかと考えて、気づいたことがあった。
「朝は寝ている人もいるので小さい声で放送し、難波や大阪に着くと声が大きくなってみんなを起こすんです」
生放送は車内の雰囲気を暖かくすると、張さんは感じている。
「日本にはいろんな信号機があります」
そう話すのは福建省出身で大阪府立三島高等学校に通う彭子航(ほうしこう)君だ。初めて押しボタン式の信号を見たときはよくわからず、人に教えてもらうまでずっと立っていたそうだ。
「他にも時差式や夜間感応式、音が出る信号機などいろいろあって面白いです」
なぜいろいろあるのか、彭君なりに考えてみた。
「日本は中国より細い道も多く、いろいろな信号機が欠かせないのではないでしょうか」
もう1つ、車が自転車に道を譲ってくれることにも驚いた。中国にいたときは、自転車が車に道を譲っていた。
「車が道を譲るのは礼儀正しいからだけでなく、そうやってお互いに助け合うことが大切だからだと思いました」
他にも何人かの生徒が、交通マナーの違いを挙げた。
三重県の高校に通う胡軼睿(こいつえい)君は毎朝、ホームステイ先の家から最寄り駅まで、ホストファミリーのお母さんに車で送ってもらっている。
「ママは道をゆずられたら会釈するし、いつも安全運転です。寝坊して遅刻しそうな日でも、前をゆっくり走るトラックを無理に追い越したりしません。それで結局、遅刻しました」
生徒たちがげらげら笑う。胡君も苦笑しながら、「そんな風にみんながいい気分で運転したら、事故も少なくなると思います」としめくくった。
王籽陸(おうしろく)君は、留学先でLINEを交換した友人に、中国流にどんどんメッセージを送っていたら、とうとう返信が来なくなり、困惑したそうだ。それがきっかけで、友達づくりの距離感が中国とは違うことに気づいた。
東亦菲(とうえきひ)さんは、日本に戸建てが多いことを不思議に思い、その理由をホストファミリーにたずねたり、ネットで調べたりしたという。
肖筠(しょうきん)さんは、入部したバトミントン部で、みんなが「がんば!」と声を掛け合う光景を不思議に思った。先生に理由をたずねると、回答は「そうすれば、自分一人ではないと感じられ、もっとがんばって練習できるから」。その言葉が、肖さんの心に強く響いた。
「違い」の交流、「共通点」の交流
研修ではさらに、コミュニケーション能力向上のワークや、留学中に起こりやすい問題に対処するケーススタディのグループ討論にのぞみ、最後に留学生活をより充実させるための「私の目標」をまとめた。
男子で茶道部に入部した谷子毅君は「茶道のお点前はとても静かで繊細な行為です」と述べ、その気持ちを日常生活の中でも持ち続けたいと言う。
LINEの返信に戸惑った王籽陸君は、「この3カ月間は友達を作ることが一番難しかった」と言いつつ、「これからは放課後に友達と、少なくとも30分のおしゃべり時間を持つ」と決意を語った。
日本語能力試験の最高レベルN1合格を目標の一つに掲げる生徒もいた。その一人、高夢月(こうむげつ)さんは「自分の言葉は豊かでないので、気持ちをはっきり言えない」と留学生活を振り返り、日本語をもっと勉強していくと気持ちを新たにした。
沖縄県立向陽高等学校に通う王小禾(おうしょうか)さんは、毎月、日本語か中国語の小論文を書き、日本語は学校の友人や先生に、中国語は親に見てもらって、自分の考え方を磨いていきたいと言う。
さらに入部したギター部についても、毎日、基礎練習を5分、曲の練習を40分以上すると、とても熱心だ。実は彼女はなかなかの多趣味。
留学早々、沖縄県の中国語大会で司会をつとめた際、小さいころから習っている昆曲を披露した。「すごくほめられてうれしかった」と王さん。
ドイツの歌も好きで、留学先で一番仲良くなったのは、ドイツ留学帰りの生徒だと言う。
「ドイツ語の歌詞を日本語に訳してもらったり、中国と日本とドイツの違いを話したりしているうちに親しくなりました」
そんな王さんの話を聞いていると、異文化交流は、「違い」からだけでなく、「共通点」からも生まれることを、改めて思う。
特に、最近の中国の高校生は、豊かな社会で育ち、さまざまな文化や考え方に触れてきた。ここ数年、小さいころから絵や音楽を習っている生徒も増え、美術部や音楽部で活躍している。映画好きの生徒の話も聞くようになった。
これから先、お互いの「似たもの」でつながる、そんな交流も生まれてくるかもしれない。ただ、今はまだ、友達づくりの模索段階だ。
研修を終え、留学先に戻った14期生たちは、新たに掲げた目標に向け、再び歩き始めている。
取材・文:田中奈美 取材日:2019年12月4日