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- 第10話 =帰国へ=
留学ドキュメンタリー
第七期生達の一年間の留学生活がとうとう終わりを迎える。各地で友人や先生、ホストファミリーとの別れをすませ、再び東京で顔を合わせた彼ら。明日には一年ぶりに母国で家族と会える興奮でいっぱいだ。彼らの一年を、歓送会当日の様子とともに日記や作文集からも振り返りたい。
一年間の成果を発表
7月19日金曜日。第七期生たちがとうとう帰国の途につく前日、彼らが一年間の成果を発表し、それを見送る歓送会が開かれた。会では島根県に留学した黄麗薇さんが、島根の民族舞踊である銭太鼓を披露。ほかにも剣道やよさこい踊りなど、七期生達が各々学んだ文化や踊りが披露されにぎやかな会となった。
第一期生よりホストファミリーを務める藤本さんはそんな彼らを笑みとともに眺めながらこのように話してくれた。「帰国の2ヶ月前にくらいになってくると、どんどん留学生達もテンションが上がってくるんです。すごく真面目で大人しい子でも毎日のようにお友達と出かけては、あれやこれや買ってきたり」そんなテンションの最高潮にいるのが今日なのだ。皆一年間の留学を終え、母国へ帰る興奮を湛え、ホストファミリーや先生、それから七期生同士でも別れを惜しんでいる。さて、彼らはどんな一年を過ごしたのだろうか。
自立への一歩
留学ドキュメンタリーで取り上げた愛知県桜丘高等学校の鐘冰雯さんは、最初は大人しく少々優柔不断な印象だったが、寮生活を送るなかで徐々に自立心が芽生えていった様子がうかがえた。当初は自己決定が苦手だと一人っ子らしく話していたが、自分が動かなければ何も変わらないと気付き行動したことも大きかったと思う。そんな一所懸命な鐘さんの姿に影響を受け、クラスメートの中には留学を志す者も現れるほどだった。
親元を離れ、身の回りのことを自分でこなすことは自立への第一歩。同じく留学ドキュメンタリーに取り上げた周潔如さんも、母国の両親に対して感謝の気持ちを持ち始め、より客観的に自分を見つめることが出来る大人へと成長している様子が見て取れた。
また、中国では主として勉強一筋の高校生活を送っている彼らが、スポーツや文化活動に触れられる貴重な時間として楽しみにしていた部活動も大きく彼らの成長に影響したようだ。先輩後輩の厳しい上下関係やハードな練習に、途中で根をあげそうになっている姿は日記からもうかがえた。ましてや彼らは受験に向けての勉強に加え、留学生としての日本語の勉強も怠らずに取り組まなければならないのだから。前述したホストファミリーの藤本さんはこう話す。
「優秀な子であればあるほど、自分の留学生活はこうだろうなと、より具体的な夢をもち留学にやってくる。でも現実はそううまくいかないことも多くて、そこで落ち込んでしまったりホームシックになってしまうんですね。どんな子でも必ずその波はありますよ」
岡山県共生高等学校の奉煜坤くんは、2月14日の日記で新しく入部する剣道部について、こう決意を述べている。
「練習を始めたばかりのころは何でも新鮮に感じられるけれど、初日が終わったら、ゼッタイに筋肉痛になってしまうんだとか。(中略)練習はキツイらしい。朝はみんながまだ寝ている時間から、剣道部の練習はもう始まっているんだ。夜も遅くまでやっているしね。たいへんなのも、ツラいのもナンのその、だ。自分で選んだ道なんだから、絶対にやり通すぞ」
多くの七期生たちが、人間関係やその練習の厳しさに耐えられず辞めたいと思い、実際に辞めてしまった者もいる。しかし辞めないと決意し、自分が選んだ道だからと淡々と述べる奉くんの日記からは、一種すがすがしさが感じられる。
「てか、今の生活は、授業と部活だけ 。昔は全然想像できない生活は、今慣れています。朝誰かの目覚まし時計が鳴らして、眠くても道場へ行く。放課後三時間練習も、苦しくは思ってない。自分が選んだ道やから、時間少なくても前の半年のような 時間の無駄にならないように」(4月8日の日記より)
歓送会で高松第一高等学校の徐寧馨さんが代表として行ったスピーチを思いだす。
「一年間どうでしたか?とよく聞かれるのですが、私は答えられません。普通の高校生として、毎日平凡な暮らしをしていたから。学校の帰りに夕方自転車で友達と走ったこと、ホストファミリーのお母さんのおいしい手料理、商店街のかわいい雑貨。日々の暮らしに幸せを感じていました」
授業、部活、そして寝るだけの平凡な毎日。このような毎日が単調に思えることもあったかもしれない。そんな時奉くんや徐さんのようにポジティブな姿勢を保つことはとても重要なことだ。それを半年、一年と続けることで、少々のことではへこたれない強い自律心がきっと育まれたに違いない。そして奉くんは、7月1日の日記で見事に試合で勝利を収めたことを報告している。
積極的に交流すること
来日当初日本と中国との間に存在した解決が難しい問題もあり、今回の七期生達は中国人としての自分を強く意識したのではないだろうか。敦賀気比高等学校に留学した秦瑞廷くんは、「日本に行ったら悪い目に遭わないかとちょっと心配していた」と率直に述べている。他の留学生達も恐らく多かれ少なかれこのような不安を抱いていただろう。
このような状況の中、より積極的に交流することが大事だという思いが特にこの七期生たちにはあったように思う。
留学ドキュメンタリーでも取材した、愛知県光ヶ丘女子高等学校に通った周潔如さん。周さんは一年間でホストファミリー計5軒の家庭にお邪魔し、その出会いを「一期一会」の心をもって大切にしたい、と語った。
沖縄県立向陽高等学校に通った郭雅菲さんは、本当の中国を伝えようと努力した、と作文で述べている。「ガヒに会えて中国のイメージが良い方向に変わったな」という言葉を友人からかけられうれしかったと綴っている。皆それぞれが、自分の置かれた環境の中で周囲の人間との良い関係を築くことに心を砕き、奮闘した一年だった。
また彼らを受け止める日本人の生徒達はどうだったのか。今回の取材を通じて感じたのは、受け止める側の日本人生徒も留学体験者だと、より積極的に七期生達に関わろうとしていたということだ。
例えば留学ドキュメンタリーで取材した雒雪婷さんが在籍した立命館高等学校のように、生徒の多数が短期、長期に関わらず海外に一度は足を運んだことのある生徒が多い環境では、比較的友達作りが容易であるように見受けられた。ずっと同じコミュニティの中にいたのでは、外からやってきた者の疎外感や孤独感など想像できないのかもしれない。しかし一度それを経験することにより、外部からやってきた者への思いやりの気持ちや共感が生まれるのだろう。日本の若者達もどんどん外へ出て、自分の力で道を切り開く体験をすべきだと強く思った。
しかし翻って言えば、今度は七期生たちが、中国で留学生を温かく迎える側の人間になってくれるということだ。”もし彼らのクラスに留学生がやってきたら”、”もし街中で困っている旅行者がいたとしたら”、そのようなシチュエーションでは、きっと七期生たちが今度は温かく手を差し伸べる側になるはずだ。
周さんが言ったように出会いは「一期一会」。限られた時間の中で、七期生達は日本で精一杯日中交流の種をまき続けた。そして今後も彼らの母国、中国でもその種をまき続けてくれると信じている。