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留学ドキュメンタリー

留学ドキュメンタリー 第2話 「来日当初の目標」

留学生ドキュメンタリーでは、留学生の一年間の留学生活を追いかけ、様々な経験を通じて、成長していく様子やその背景を、取材を通じて描いていきます。第二回は、来日直後の彼らの目標や思い、来日から3ヶ月たった現在の彼らの様子をアンケートや日記から探っていきます。

日本の長所を学び、中国を知ってもらう

来日して3ヶ月が過ぎる頃になると、初めての日本での生活や学業を通じて、第七期生達に様々な変化が出始めてくるようだ。日本での留学生活をスタートする事になる以前、彼らが抱いていた目標やイメージと、現実のものとしてスタートした今では、どのようなギャップが出てきているのだろうか。来日直後の研修の際に行ったアンケートから、彼らの当初の目標や日本へのイメージをひろってみた。

多くの学生が掲げていた目標は「日本語1級をとりたい」というもので、その他では、現在の日中関係を意識したのか、「中日の交流」というのも多く見られた。

「日本のいいところを学んで中国に帰ってから周りに伝える」(劉佳妍)
「日本人の考え方を理解して、中国と比べてそれぞれの長所を勉強したい」(鐘冰雯)
「周りの人に中国についてもっと知ってもらいたい」(李博涵)

日本と中国、お互いの長所を学び合いたいと考えていたようだ。短所ではなく、長所を見つめ合おうというところは、短所に注意が行きがちな日本人との違いがあるところで面白い。

本当の日本を知る

それでは、来日以前に彼らが日本の長所として考えていたものは何だろうか。
来日直後のアンケートでは、「時間厳守」「仕事の効率がよい」「礼儀正しく規則をちゃんと守る」「道や風景がきれい」「緑が多い」などが比較的多かった。その他、長所というわけではないかも知れないが、「(エネルギーを)節約」、「思いやり」、「ハイテクノロジー」なども日本の良い部分をイメージさせるキーワードとして挙げられていた。

その反面、日本人に対するイメージとして、「表現が婉曲で、率直に意見を述べない」や「都会のサラリーマンは表情が厳しく大変そう」など、日本人には少し耳が痛い話もあった。しかし、日本で生活を始める前に抱いていた一般的なイメージが、本当にそうなのだろうかという気持ちは強くあるようで、

「本当の日本を自分の目で見てみたい」(満雪陽)
「日本の家庭について知りたい」(王暢)
「中国人としての偏見をなくしたい」(李博涵)

など、今回の留学における日本人家庭へのホームステイや学校生活というリアルな日本や日本人と接する貴重な経験を通して、メディアから得る事が難しい本当の日本を知りたいと多くの七期生たちが述べている。

もちろん、日中の事だけではなく、初めて親元を離れる子も多いため、

「自立心を育みたい」(劉佳妍、周潔如、黄麗薇、秦瑞廷ほか)
「部活を続けたい(一つのことを続けたい)」(胡玥)
「人見知りなので、積極的に交流して明るい性格になりたい」(李博涵)
「視野を広げたい」(張文寧)

など、成長期における貴重な体験を、1人の人間として成長する足がかりにしたいという思いもあるようだ。日本を知るという事だけではなく、自分自身を知る良い機会だと捉えている。他にも料理や旅行、茶道や華道など文化体験も多くの留学生が体験してみたいと意欲的に述べている。

つらくない、気にしていないって言えばウソになる

また、「たくさん日本の友達を作る」(楊賛ほか)という事を目標として挙げている子も多くいた。高校時代の友達は一生続く関係だとよく言われるが、国籍を超えて、果たして、そのような友達を作ることが出来るだろうか。学校で、もしくは、ホームステイ先の家庭でお互いに信頼しあえる関係を築くことができるかどうかという事は、期待と共に大きな不安があるだろうし、実際には多くの困難があるかも知れない。

来日から3ヶ月が経った現在、それぞれの留学先で、まさにその信頼関係を育むステップを彼らがなんとか格闘しながらも歩んでいる様子が、第七期生の日記から読み取れる。

鐘冰雯さんは、普通科クラスから中高一貫の高等部クラスに変わった当初、なかなか輪の中に入る事が出来ず苦戦し、心のうちを次のように綴っている。

つらくない、気にしていないって言えばウソになるけれど。まあ、4月にお互い知り合ったばかりの普通科に比べれば、高等部の人たちはみんな中学からいっしょなので、中国の外国語少人数クラスみたいに、なかなかその三年間で培われた関係の中に入っていくのはかんたんじゃあない。

(9月19日の日記より)

日本人であっても、既に出来上がった人間関係の中に加わっていくのは容易な事ではない。ましてや、国籍が異なるのだから本当に難しい。しかし鐘さんの場合、良き相談者の力を得て、徐々に前向きに気持ちを切り替えだした様子が1ヵ月後の日記から伺えた。

最近はすっかりこっちにも馴染んできたよ。もちろん前が馴染めてなかったっていうわけではないんだけど。慣れるっていうのには、生活面と、精神面の2種類があると思うんだ。(~中略)
こっちで新しいクラスに入ったとき周りが全員日本人になっちゃった上に、クラスのみんなは最初からずっと一緒だから、中々その輪の中に入れなかったとき;試験前あまりに科目が多くて(しかもわからないのばっかり)どこから手を出したらいいか途方にくれていたとき;よくわからないけど無性にイライラしているとき;それから、色々どうしたらいいかわからなくなったとき......〈先輩は〉 いつでも時間を見つけてはわたしの話を聞いてくれて、的確なアドバイスをたくさんしてくれた。

(10月27日の日記より)

ここで1年間過ごすなんて、来た早々この悲劇、泣きたいよ

富山県に留学した陳穌僥さんは、今時の若者らしく、スケートボードや音楽に興味を持つ都会的な男の子だ。留学先に着いた当初、初めて見る日本の田舎をこんな風に嘆いていた。

富山二日目、なにもかもが悲劇だ。街には人は少ないし、まさに農村。でも寄宿先には中国人のおばあちゃんがいて、息子さんの中国語は素晴らしい。これはよかったんだけれど、他は悲劇としか言いようがない。寂しいところで、ここで1年間過ごすなんて、来た早々この悲劇、泣きたいよ。

(9月2日の日記より)

ところがわずか20日後には、学校に慣れ、周りの様子が少しづつ分かってくると気持ちに余裕が出てきたようで、与えられた環境の中でポジティブに楽しもうとする姿勢に変化している。

だいぶここでの生活にも慣れてきたよ。学校にも慣れてきたし、生活のリズムが出来てきた。それに今では、都会だとか田舎だとかって思う気持ちもなくなった。神様もいろいろ考えてくれてるんだよね。この小さな町でもそれがいろいろあるってわかったよ。日本の特色、日本人の考え方、ここは東京じゃないけれど、だからかえって、本当の日本があるって気がするよ。ここにも慣れて時間ができるようになったら、自分のこれからを考えよう。自転車であちこちをまわって、写真もたくさん撮って、近くの金沢とか、行くところもすばらしいものもたくさんある。欲張りすぎずに、このあたりの三県だけでもタイヘンなことだよ。ハハハ

(9月20日の日記より)

一番好きな日本語はなに?

北海道に留学している杜天佑さんは、来日当初のアンケートにも中国語で答えるなど、第七期生の中でも、日本語能力が秀でているとは言い難いほうだったのだが、日々、様々な経験をして成長しているようだ。先日、弁論大会に参加した様子を10月20日の日記に日本語で書いていた。元々、日記の更新頻度も多くはなく、日本語もまだまだ拙く、短い文章ではあるのだけども、心と心がつながった瞬間が描かれていて、慣れない環境の中、頑張っている様子が心を打つ。

昨日、私は第56回全道高等学校弁論大会に参加しました。弁論の選手じゃなくて、大会の最後で学校のほかの3人の留学生と一緒に挨拶して、皆さんからの私たちについての聞きたいことをこたえすることです。会場はほんとに素晴しかった。一番面白かった問題は「一番好きな日本語はなに?」。ドイツの留学生の答えは「ミルク」(実はただミルク飲むのがすきです)。みんな笑いました。それから、わたしの答えは、「”なに?”が好きです。はじめて習った日本語ですから」。驚いた皆さんは楽しくて笑いました。その時、私、ほんとに幸せでした。

(10月20日の日記より)

それぞれの場所で、第七期生たちは奮闘している。「中国人留学生」と一言で括ってしまうのは簡単だが、中国での生まれも、日本語力も、留学先も異なり、それぞれの成長速度も違う一人ひとりのストーリーがある。それぞれの目標を胸に抱き、母国とは違う新しい環境に一人でやってきて、その環境の長所を見つけ、楽しみながらチャレンジする精神を持って前に進んでいる。当然、良い事ばかりではなかったと思うが、この3ヶ月の経験で留学生活の目標の達成に少し近づき、日本を知り、中国を知ってもらい、周りにも少なからずの影響を与えながら、日本での生活に対応していっているようだ。

次回予告 留学ドキュメンタリー第3話

次回からは、各地で活躍中の留学生1人ひとりに焦点を当て、本人はもちろんホストファミリーや友人、先生にも取材を重ね、彼らの”今”の姿を追っていきます。

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