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留学ドキュメンタリー

思い出と絆を抱いて新たな幕開けへ
――「心連心」第11期生帰国前報告会&歓送レセプション

 2017年7月14日、東京にて、「心連心:中国高校生長期招へい事業」第11期生帰国前報告会及び歓送レセプションが開催された。今年も31名の中国人高校生たちが日本各地での留学を終え巣立っていく。会場の様子をレポートした。

弓道初段、美術展入選、弁論大会出場……それぞれの活躍


  歓送レセプション会場は、温かい笑顔と涙で包まれていた。翌日には帰国する11期生たちと、彼らを見送るホストファミリーや学校関係者などの来賓たちが別れを惜しんでいる。彼らの留学生活とその活躍ぶりの一端は、レセプション前の帰国報告会で放映されたビデオで垣間見ることができた。


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弓道部に入りいきなり初段を取ってしまったという張霆宇君(左)と、会場で仲良く話をしていた日本人学生。

  和歌山県立那賀須高等学校に留学した福建省出身の陳溢晹(ちん・いつよう)君はホームステイ先が農家で、玉ねぎの収穫と田植えを体験した。何が大変だったかとたずねると、「苗箱に入った稲の苗がとっても重かった!」と体験者ならではのコメント。
  弓道部に入り、いきなり初段を取ってしまったという張霆宇(ちょう・ていう)君は、ビデオの中で、弓をひく姿が凛々しかった。「矢が的に当たる瞬間が一番面白くて楽しくて、どんどん好きになってしまった」と語る張君。中国では弓道をする機会はあまりないかもしれないが、大学で日本に留学したら、またやりたいと話す。


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第61回全日本学生美術展で特選を受賞した自身の作品の前で記念写真を撮影する孫瑞雪さん。

  他にも、才能が花開いた学生がいる。それは孫瑞雪(そん・ずいせつ)さんだ。留学先の横浜市立横須賀総合高等学校は美術部が有名で、小さいころから絵が好きだった孫さんは留学後さっそく入部した。中国にいたときには勉強が忙しくてあまり絵が描けなかったそうだが、日本では1週間毎日部活の日々だった。そこで制作した作品は11枚が、第61回全日本学生美術展で特選入賞、もう1枚が第18回高校生国際美術展で佳作入選という快挙だった。


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帰国前報告会の『生徒の活動報告」で代表の1人を務めた寇主銘君。ホームステイ先でできた「妹」さんと。

  また、広島市立舟入高等学校に留学した陳傲(ちん・ごう)さんは、「第58回 外国人による日本語弁論大会」で、応募者87名の中から壇上に上がる12名のうちの1人に選ばれた。この弁論大会の様子は、2017年7月、NHKで放映された。陳さんのテーマは『魔法の「甘いタイム」』。ホストファミリーのお兄さんが受験生で、夜遅くまで塾に行く毎日だった。そこで、家族全員での対話の時間をもうけるためにホストファミリーがケーキやお菓子を用意して、「甘いタイム」をつくってくれたという話だ。

日本の家族、学校の仲間と育んだ絆


  実は今回の取材では、留学生たちと、ホストファミリーや学校の仲間との絆を感じるシーンが多かった。


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本文には登場しなかったが、劉冠龍君(左)もホームステイ先の「弟」にずいぶん慕われていた。劉君とは学校で同級生だった「弟」の実兄(右)によれば、「最初はほとんど話さないくらい内気だった」そうだが、今はこの笑顔である。

  歓送レセプションの間、帰国前報告会の「生徒の活動報告」で代表の1人を務めた寇主銘(こう・しゅめい)君には、ずっと小さな女の子が離れようとしなかった。お世話になったホームステイ先の娘さんだそうだ。「生徒の活動報告」の際、ノリのよい寇君くんが大阪弁を駆使して「息子のように接してくれてありがとうございました」とメッセージを読み上げたときには、ホストファミリーも思わず涙していた。

  鹿児島県の神村学園高等部に留学した姜慧玲(きょう・けいれい)さんは、ホストファミリーのお母さんとお姉さんがわざわざ鹿児島から見送りに東京まで来てくれた。別れが寂しくて毎日泣いていると涙ぐむお母さん。それを笑顔で見守っていた姜さんだが、彼女もまた、レセプションの終わりの代表挨拶でホストファミリーの話をすると、涙で言葉を詰まらせた。


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レセプションで代表挨拶をつとめた姜慧玲さん(右)。鹿児島から見送りにきてくださったホストファミリーのお母さん(左から2番目)と娘さん(左端)と一緒に。

  周躍(しゅう・やく)さんも、ホストファミリーのお父さんが鹿児島から東京まで見送りにきてくれた。心連心の留学生の受け入れは周躍さんで7人目になるというお父さん。周さんにとってはなんでも相談できる「父親」で、「恋の話から学校生活、政治のことまで、本当にいろいろな意見を出してもらいました」と話す。

  東京学芸大学附付属国際中等教育学校に留学した張義澤(ちょう・ぎたく)君には、バスケットボール部の仲間が見送りにきてくれた。「張君は非常に頭が良くて、一緒に先生に質問しに行ったりして楽しかった」と部員の1人が言うと、別の部員も「背も高くて、バスケもうまかった」と話す。


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まるで本当の親子かのようだった周躍さんとホストファミリーのお父さん・松木場さん。「中国人の高校生も日本人の高校生も、特に何もかわらない」。

  張君が帰国前報告会の代表挨拶で語った話を思い出す。はじめのうちは、自分の言いたいことを日本語で言うのが精いっぱいで、相手のことをあまり考えられなかったそうだ。しかし、わからない言葉を聞いたり、相手の話を先に聞くように意識することで、交流が上手くいくようになったという。今、張君がすっかり打ち解けているように見えるのは、彼自身の努力のたまものではないだろうか。

  バスケ部のマネージャーに、外国人のお世話は大変だったかと問えば、「日本人の彼らよりよっぽど手がかからなかった!」とのこと。部員たちは一斉に「おいおいおい」とつっこみながら大爆笑。それを照れたように見ている張君。まさに青春の一幕である。

旅立ち、そして次のステージへ


  レセプションの締めくくりには、第11期の留学生31名からメッセージと歌が来賓達に贈られた。メッセージは、2~3人が1組になってワンフレーズを語り、それをリレー方式でつないでいくというスタイルだ。


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バスケ部の仲間に囲まれる張義澤君(左から2番目)。

  「いろいろな思い出が詰まったこの旅は、明日で終わろうとしています」と1組が言うと、次の組が「そして、これから新しいステージの幕開けです」と言葉をつなぐ。最後に心連心テーマソング『対面――君と向き合って――』で元気な歌声を披露し終えると、会場はわれんばかりの拍手で幸せな空気に包まれた。こうして今年も31名の小さな輝く星たちは、日本での留学生活を無事に終えた。思い出と絆を胸に抱いた彼らの旅立ちは、そのメッセージの通り、新たな幕開けとなるに違いない。

【取材を終えて】


  帰国前報告会で毎年、心にしみる場面がある。それは修了証書の授賞式で、阿南惟茂・日中交流センター所長が留学生一人一人に声をかけるシーンだ。みな、原稿なしで突然の日本語の会話に戸惑うこともなく、積極的に言葉を返す。中にはウィットのきいたコメントで会場を沸かす学生もいる。今回も、留学生たちの成長ぶりに触れる一幕だった。

  取材・文:田中 奈美 取材日:2017年7月14日

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