参加者インタビュー
日中国交正常化50周年を記念して開催されたショートショート創作コンテストで、盧聖苗さんの「飴の温かさを持ちたい石」と、浅井香帆さんの「雨の日見えない先輩」が最優秀賞を受賞しました。
盧さんは山東師範大学の3年生、浅井さんは中京大学の3年生です。2人に作品や大学生活について、オンラインでうかがいました。
思いがけない受賞の知らせに大興奮
――このたびは最優秀賞の受賞、おめでとうございます。受賞についていかがでしたか?
盧さん 本当に思いがけなくて、びっくりしました。ちょうど、大学の寮で動画を見ているときにメールが届き、飛び上がるほど興奮して、「受賞した!」と何度も叫びました。ルームメイトたちも喜んでくれました。
少し落ちついたあと、日本語学科の先生方に報告しました。これまでずっと私の日本語の文章を添削してくださって、応募作品も手直ししていただきました。受賞をほめてくださって、本当にうれしかったです。
両親や姉にも報告したら、姉は「本当?!」とびっくりしていましたが、とても喜んでくれました。
浅井さん 私も、受賞するとは思っていなかったので、受賞の連絡が来た時は、びっくりして、理解するまでちょっと時間がかかりました。でもとてもうれしかったです。
――大学では、どんなことを学んでいますか?
盧さん 私は日本語を専攻しています。1日10時間くらい日本語を勉強し、それ以外にも日本語のコンテストなどに追われ、大学生活は充実していますが、とても疲れます。ストレス解消のため、週3回、ジムに通ったりしています。
浅井さん 私は文学部で中国文学、特に志怪・伝奇を専門としています。中国の志怪・伝奇は、キツネが化ける話などファンタジーのような伝説が、日本の昔話とも似ていて、興味を持ちました。また、第二外国語で中国語を選択し、面白そうだなと思ったことも、中国文学を勉強するきっかけとなりました。
――盧さんが日本に、浅井さんが中国に興味をもったきっかけは何ですか? また、日常生活で日本人、中国人との関わりはありますか?
盧さん 私が日本に興味を持ったのは、中学1年生のときでした。家に、最新型のテレビが来て、よくテレビを見るようになったのですが、そのときたまたま、アニメの「ワンピース」を見る機会がありました。
あまりに面白くて、その日の夜に20回も見てしまいました。その後、日本のアニメやドラマを見たり、本を読んだりするようになりました。日本語の勉強を始めたのは大学からで、ちょうど2年くらいになります。
山東師範大学には、「済南ふれあいの場」があってたくさんの日本人の友達と交流する機会があります。その他にも、講座やコンテストなどで、日本人と話すことも多いです。でも、日本には行ったことがないので、日本に行く機会があったら、北海道に行ってみたいと思います。岩井俊二監督の映画「Love Letter」で小樽が舞台になっていてとてもきれいでした。
浅井さん 私は中学と高校の国語の授業で漢文にふれて、面白いなと思ったことがきっかけです。また、中国語は漢字なので、意味がわかるのではないかと、少し打算的な気持ちもあって、中国語の勉強を始めました。読むことは比較的順調にできるようになったのですが、聞き取りはなかなか難しく、今は、読むほうに特化してしまっているかなと思います。
また、以前、大学からのメールで、国際交流基金が主催する大学生交流事業があることを知りました。コロナ禍で留学生もあまり日本に来られなかったですし、海外とつながる機会も少なかったので、交流事業に興味を持つようになりました。
実は、大学には、中国からの留学生もいるそうなのですが、なかなか知り合う機会がなく、中国の方と直接、交流するのは、盧さんが初めてです。
ショートショートの書き方講座でヒントを得る
――今回、お二人とも、コンテスト前にオンラインで開催された日本語ショートショートの書き方講座を受講されました。もともと小説を書くことには興味がありましたか?
盧さん 私は、読書が趣味で、実は、授業中もこっそり本を読んだりしています。小説は書いたことはないのですが、大学1年のとき、よく日本語の作文を書いて、日本語学科の先生にたくさんなおしてもらいました。
書き方講座の日は他の勉強があったので、最初は、参加するつもりはありませんでした。でも、私の作文をずっとなおしてくださっていた先生が、「君には書く能力がある! ぜひ参加しなさい!」と励ましてくださいました。それで、勇気を出して参加することにしたのです。
浅井さん 私は物語を考えることと、絵を描くことが趣味で、そのような部活やサークルに所属しています。小説は以前から書いていて、実は以前から、ショートショートの作品賞の応募要項を見たりもしていました。
ただ、書き始めるとどうしても長くなってしまいます。これまで書き上げた小説も何万字という長編です。ショートショートで、話を収める方法がわからず、応募を断念していました。それで今回、交流事業でショートショートの書き方講座があるのを知って、参加してみようと思いました。
――講座の講師は、ショートショート作家の田丸雅智先生で、コンテストの審査もされました。田丸先生の講座はいかがでしたか?
盧さん 実は、講義は日本語だったので、聞き取れないところもありました。でも、とても面白くて勉強になりました。特に、田丸先生の小説の書き方は独特で、普通の名詞や形容詞から連想して話を膨らませるという方法がすごく参考になりました。
講座では実際に小説を書いてみる機会があって、私は「異世界の本」という小説を書きました。本が異世界の入り口になっていて、読書が嫌いな子供でも、本の中に入るとロールプレイでキャラクターの生活を体験できるという内容です。でもこれは発表せず、コンテストでは別の作品を投稿しました。
浅井さん 私も講座はとても参考になりました。盧さんもおっしゃっているように、田丸先生からはまず、思い付いた名詞をいくつか書いてみて、その中から1つ選び、関連する修飾語を考えて、別の名詞とつなぎ合わせるというアドバイスをいただきました。
その通りにやってみると、文章をどう書けばよいか、すんなり考えることができ、非常に有意義でした。
盧さん 実は、講座の中で、浅井さんが発表した作品がとても面白くて、印象に残っていました。全部、聞き取れたわけではなかったのですが、あとで浅井さんの受賞作を読んだとき、それが講座で発表した作品だったことに気づいて、「こういうオチだったのか!」と、もう一度感動しました。
私は、東野圭吾の本が好きなのですが、浅井さんの作品は最後に「種明かし」があって、すごく面白かったです。特に印象的だったのは、「先輩が働いてくれなきゃ、僕はただの鉄の塊でしかないのに」というくだりの「鉄の塊」という表現です。
先輩がいないと、心が鉄のようになるという比喩表現だと思っていたら、最後にどんでん返しがあって、思わず笑ってしまいました。ですから今日、浅井さんと交流ができて本当にうれしいです。
浅井さん そんなふうにほめていただくと、すごく照れてしまうのですけれど、ありがとうございます。私の書いた作品を深く読んでくださっていることも伝わってきて、とてもうれしいです。
私も盧さんの作品を拝読して、詩的な表現にすごく引き込まれました。それに感情を抑えた表現が、逆に読者の想像力をかきたてるようで、とても秀逸な作品だと思いました。
書くことへの想い
――作品を書くにあたって、難しかったことなどありますか?
盧さん 最初はなかなかアイデアがわかず、何日か考えていました。あるとき、音楽を聴いていてひらめきました。それは稜鏡楽隊というバンドの「石头想有糖的温度(飴の温かさを持ちたい石)」というアルバムです。男女の感情をテーマとしたアルバムだったので、それにヒントを得て、私の個人的な経験も交えて、小説にしました。
ショートショートなので、小さな点から人生観や価値観を語りたいと考え、「小さなこと」をテーマとしました。でも、文中に登場する3つのキャラクターの関連をどうつなげるか一番悩みました。最初は全部、違うキャラクターにしようと思ったのですが、なかなか書けなくて難しいので、結局、同じキャラクターにすることにしました。
浅井さん 私は、発想自体は講座で教えていただいたように、連想ゲーム的に比較的すんなりできたと思います。ただ、ショートショートは、長編のように、設定を複雑にしたり、心情を具体的に述べたりすることが難しいので、そのバランスを考慮しつつ、短い文章でも内容がきちんと伝わるように構成するには、どうしたらよいか考えました。
――卒業後の進路はいかがでしょう? これからも小説を書きたいと思いますか?
盧さん 今年(2022年)12月に、日本語能力試験のN1を受験するつもりです。N1に合格したら、今後、日本語に関係した仕事につけると思うので、人生の基礎となるはずです。
また、卒業後は大学院に進学し、日本語や日本文学の勉強を続けたいとも考えています。もし、大学院の試験に受からなければ、2年間ほど仕事をしたあと、日本の大学院を受験しようと思っています。いずれにしても日本語に関係した仕事をしたいですし、日本語教師の仕事もいいなと思っています。
また、小説を書くというのとは少し違うかもしれませんが、日常の暮らしのなかで、美しいものを見つけたら、それを文章で記録することで、多くの人にシェアすることができると思います。それが文字の持つ力ですし、とても好きです。そんなふうに文章で表現していきたいです。
浅井さん 私は公務員を目指して勉強しています。実は、小さいころ、小説家になりたいと思ったことがありました。今回、賞をいただけたことで、小説家になりたかった昔の自分の夢を、ほんの少しだけ叶えてあげられたかなという思いがあります。
実際に小説家になるというのはおそらくないと思いますが、これからも趣味で書くことは続けていくと思います。
取材を終えて
受賞インタビューのあと、2人に少しだけ交流していただきました。その中で、中国の大学の寮生活や食堂の話になり、浅井さんが盧さんに、食堂で好きな料理は何かたずねると、「ラーメン」とのこと。いつもラーメンを注文するので、食堂のおばさんが盧さんの顔を覚えていて、肉を多めに入れてくれるそうです。
また、盧さんが山東省を紹介するプレゼンテーションを用意してくださっていました。日の出と雲海の美しい泰山、盧さんの家の近くを流れる黄河の清々しい夏の景色、そして大学構内にある湖の、木漏れ日を受けてきらきらと輝く水面の写真、湖に住む黒鳥が、ベンチでランチを食べる盧さんの足元におこぼれをもらいに来る動画。
最後に山東省名物の2メートルにもなる長ネギと、それを巻いて食べるネギ巻きクレープの紹介もありました。「ぜひ、中国に来てくださいね」と、盧さん。
ショートショートの受賞者インタビューが、ささやかな日中交流の場となりました。
取材・文:田中奈美 取材日:2022年10月9日