参加者インタビュー
Interviewインタビュー 日中21世紀交流事業に参加された方々に交流を振り返っていただきました
10年目を迎える「心連心」
「心連心:中国高校生長期招へい事業」もいよいよ10年目に入った。今年も中国各地から集まった高校生31名が、不安と期待を胸に、日本の高校生活を体験する。
9年間の軌跡
来日歓迎レセプション会場に、中国からやってきたばかりの十期生たちが、少々緊張した面持ちで入場してきた。全員が揃ったところで、一同礼。リハーサル通り、なかなか上手くいった。しかし、続いて日本語での自己紹介が始まると、長い高校名を上手く言えずに、詰まってしまう生徒もいる。
こんな光景も、今年で10回目を迎える。これまでに招へいした生徒は一期から十期までで329名。この9年間の道のりには、日中関係の悪化や東日本大震災などの影響もあった。それでも「心連心」では、日本と中国を結ぶ小さな「絆」を、送り出し続けてきた。
「つい先日、二期生がひょっこり遊びに来ました」と話すのは、一期生から受入れをしている岡山県共生高等学校の後藤浩校長だ。
「手を焼いた生徒でしたが、当の本人は『いまはちゃんと仕事しているので安心してください』なんて、けろっとしていた」と話す後藤校長は、どこかうれしそうだ。留学生の受入れにはさぞかしご苦労もあったのではないかと問えば、「我々が勉強することのほうが多い」と後藤校長。
「中国の生徒たちが、積極的に道を切り開くところは、日本の子供たちにも勉強になります」
自分の意見をはっきり言える彼らの姿は、内向的になりがちな日本の生徒たちにもよい刺激になっていると後藤校長は語る。
「青春」にあこがれて
そして今年も、レセプション会場には、きらきらと期待にみちた31名の笑顔が並んだ。彼らに日本の第一印象をたずねれば、「ゴミがない!」「きれい!」。日本の高校については、「中国より、宿題もプレッシャーも少ない!」と声を揃える。
中国の高校は厳しい受験戦争のため、勉強漬けの毎日で、いわゆる「青春」がない。アニメやドラマを通じて知る日本の高校生活は、「みんなリラックスしていて、ずっとあこがれでした」と、呉嘉洺(ゴカメイ)君は話す。そんな彼が入りたい部活は剣道部。理由をたずねると、「サムライさんはかっこいいから!」と返ってきた。
何の部活に入るかは、生徒たちのもっぱらの関心事の一つだ。
生徒代表の挨拶をつとめたポッチャリ系の宋仕喆(ソウシテツ)君は、「料理部に入りたい」と話す。中国の学校で料理を教わることはない。だから日本で学んで、家族に料理をつくってあげたいのだそうだ。
実は彼は、独り言も日本語でつぶやくというほどの日本好きなのだが、もともと、父親が日本をあまり好きではなく、日本語を学ぶことに反対していた。けれど、家族で日本を旅行したことをきっかけに、父親も「日本はいい」と言ってくれるようになった。これが今回の留学につながったと言う。
不安と期待、新しい生活へ
十期生と話をしていると、みなそれぞれ、将来の夢も広がる。
「日本の大学に進学して科学を研究したい」と話すのは楊晶智(ヨウショウチ)君。隣にいた李依桐(リイトウ)さんは「ドラマや映画、アニメの監督なりたい」と言う。小学校のころから日本のアニメを見て育ったそうだ。
「私の夢は日本語の教師になることです」と語るのは、他の生徒より頭一つ分大きな黎翰飛(レイカンヒ)君だ。日本語はなかなか流暢だが、
「日本語の授業についていけるか」「知らない人と交流できるか」
と、大きな体で不安がる。そこで、「楽しみにしていることは?」とたずねると、「文化祭や花火大会です!」と、たちまち笑顔になった。
レセプションに参加した「心連心」三期生の皇甫丹婷(コウホタンテイ)さんは、「私も当時はあんなふうでした」と、懐かしそうに語る。親元を初めて離れ、不安と、それ以上のワクワクを胸に、日本の地を踏んだ。
ところが、留学先ではなかなか友達ができなかった。日本の学校は4月始業、9月にはすでに仲良しグループができてしまっている。「言葉の壁」以上に「友達の壁」があった。
それでも互いに助け合う中で仲間ができ、絆が深まったそうだ。
皇甫さんは今、東京大学に通う。来年3月に卒業した後は、日本の大手企業に就職することが決まっている。
「日本のおかげで今の私がいる。その恩返しに、日本社会に貢献をしたい」
そう話す皇甫さんは、大学2年のときには、「心連心」の卒業生仲間と日中交流イベントを手がけたこともあると言う。
十期生たちもまた、これからの約1年、さまざまな体験を通じ、新たな日中の「絆」を繋いでいくことだろう。
取材/文:田中奈美 取材日:2015年9月4日