参加者インタビュー
Interviewインタビュー 日中21世紀交流事業に参加された方々に交流を振り返っていただきました
残りわずかの日本生活 最後の思い出づくり
心連心第十期生の日本滞在が残り3週間となった6月22日、明桜高等学校(秋田県)2年生の吉磊さんを訪ねた。彼女に会うのは今年3月の取材以来二度目。この日は学校の運動会で、吉さんは青いユニフォーム姿で迎えてくれた。
クラス対抗リレーに出場
同校の運動会は市内の陸上競技場を借り切って行われる夏の一大イベントだ。クラスごとにそろえたユニフォームの背中には、それぞれ個性的なニックネームと背番号がプリントされている。吉さんは愛読マンガのキャラクター「黒崎一護」の名前をもじった「175」をつけていた。
吉さんが出場するのはクラス対抗リレーの予選。さぞ張り切っているだろうと思ったが、意外にも浮かない表情だ。「日本と中国の高校生は体力が全然違うんです。ちゃんと走れるか不安……」。実は、スポーツにも力を入れる明桜高校は、特別進学コースの中でも多くの生徒が運動部に所属しているのだ。一方、吉さんの母校の運動会は運動神経の良い生徒が代表で出る形式で、自分の出番はなかったという。
不安いっぱいの吉さんに、いよいよ順番が回ってきた。バトンを受け取った吉さんは100メートルを激走。無事に次のランナーにバトンを渡し、ほっとした表情を浮かべた。クラスは惜しくも決勝進出を逃したが、みんなで一丸となって頑張ったリレーは学校生活の思い出になっただろう。
このあとはクラスメートを応援したり、日本のマンガでしか知らなかった「パン食い競走」を目の前で見たり。梅雨の晴れ間の青空のもと、充実した一日を過ごした。
通訳で大活躍
「抜群の日本語力と明るい性格ですぐに学校になじんだ」というのが先生やクラスメートの吉さん評だ。昨年から同じクラスの佐藤稔子さんは、吉さんとの共通の話題はマンガやアニメ。「日本人の友達と同じように接することができる。いっしょにいるのが自然なので、いなくなるのは信じられない」と惜しむ。ほかの友達も口々に「明るい人」「卒業までいてほしい」と口をそろえる。
面倒見がよく、頼られることが多い吉さん。自身は明桜高校の国際交流に役立てたことが一番うれしかったと振り返る。同校は提携先の台湾・新北市の高校と短期留学生の派遣や修学旅行での相手校訪問を相互に行っており、昨年末の修学旅行生の明桜高校訪問や、今年1〜3月の短期留学生3人の受け入れでは、吉さんが通訳として活躍した。特に短期留学生の3人は日本語能力が初級レベルだったため、吉さんは校外学習にも同行してコミュニケーションの手助けをした。
現在のクラスメートは秋に台湾に修学旅行に行く。吉さんは自分が帰国する前に、2年生全員に中国語の自己紹介と簡単なあいさつを教えることになっている。力になれたことは大きな喜びだが、旅行に一緒に行けないのが心残りだと、吉さんは少しだけ寂しさをのぞかせた。
「秋田の人々」と「書店」
本好きの吉さんにとって日本は天国だった。もっとも足繁く通った場所は書店だという。中国でもよく知られた日本の作家の小説をさがしたり、古書店で好きなマンガをまとめ買いしたり。滞在中に購入した本はかなりの量に上る。
もうひとつ吉さんが日本の印象として話してくれたのが、さまざまな人々との出会いだ。秋田の人々との交流は学校の中だけにとどまらない。ホストファミリーの大友浩さんとは進路のこと、将来のことなどを語り合った。浩さんの妻の祐子さんからは、おにぎりの握り方など料理も教わった。また、地元の日中交流団体の関係者とも定期的に会って親交を深めた。人と人との距離が近い地方都市ならではの出会いが、吉さんの財産となった。
感謝を伝えたい
学校の先生方の目には、どんな科目にもしっかり取り組む吉さんの姿勢が焼き付いている。クラス担任の近江恒史先生は、担当科目の英語で吉さんが家できちんと予習をしてくることに感心したという。その姿はほかの生徒たちにも刺激を与えただろう。
秋田を離れる7月13日までのあいだには全校集会でのあいさつや送別パーティーが予定されている。吉さんはみんなの前で、どんな言葉で感謝の気持ちを伝えようか思案中だ。
母校の蘇州外国語学校は海外の大学への進学を目指す高校。吉さんの行き先はまだ決まっていない。「日本はあこがれの場所だったから、いられるだけでうれしかった。帰国したら今後のことを真剣に考えなくちゃ」と吉さんは気をひきしめる。日本にもう一度来たいけれど、ドイツやイタリアにも行ってみたい――。夢は世界に広がっている。
取材/文:芳賀 恵 取材日:2016年6月22日