参加者インタビュー
Interviewインタビュー 日中21世紀交流事業に参加された方々に交流を振り返っていただきました
歴史感じる環境で日本語に磨きをかける
♪平城宮址草青く…。
上海出身の心連心:中国高校生長期招へい事業第十期生卲偲瑩さんが留学するのは、奈良市立一条高校。校歌に歌われている世界遺産、平城宮跡からは東に約2キロの場所に位置する。設立は1950年。「奈良市に市立学校を」との市民の熱望で生まれ、翌年、全国初の外国語科(英語)が開設された。一条と言えば、英語――。そう評される所以でもあり、国際交流にも積極的だ。
訪れた日は、期末試験の答案返却日であり、金曜日。翌週から家庭学習に入るとあってか、校内はのびやかな空気につつまれていた。
クラスの新しい風
同校には普通科のほか外国語科、数理科学科、人文科学科がある。卲さんが在籍する人文科学科は1クラス。生徒たちは3年間、同じ仲間とともに学ぶ。
卲さんはとても礼儀正しく、物腰もやわらかく穏やか。日本語も上手で、すぐに友だちともなじんだよう…。先生方はみな、口をそろえる。
もう少し聞いてみると…。
「新しい風となって、クラスメートに刺激を与えてくれる存在でもあります。例えば、ホームルームで多文化共生の授業を行った際、卲さんに発表をしてもらったのですが、ゴミ分別についてなど、自分たちにはない視点を持った彼女の話を他の生徒たちは夢中になって聞いていました」と、担任の井本早香教諭。
得意科目は、英語。「発音もきれいで、テストの成績もよいです。授業の中でグループ活動を行う時も、卲さんがリーダー役を務めています」(英語担当・紀川浩司教諭)。
数学担当の松井志文教諭も、「『配慮は必要ありません』と彼女本人も言うので、特別扱いはせず普段通りの授業をしていますが、きちんと理解していますね」と評する。
上海で学んできた日本語の成果が表れ、授業の習熟度にも遅れはない。今はさらに日本語に磨きをかける。物静かな印象ながら、分からないことはすぐに周囲に尋ねる積極性もあるから、新しい環境になじむのにも時間はかからなかったようだ。
とはいえ、苦手なものはある。
「日本史はちょっと…」と、ぽつり。仲の良いクラスメートとノート交換などして、テスト勉強に取り組んだ。
部活動も楽しむ
部活動は、華道部とEIC(英語国際活動部)に所属。ちょうど活動日だというのでのぞかせてもらった。
華道部は月に2、3回。伝統的な生け花だけでなくフラワーアレンジメントも教わる。今回の課題は、クリスマス・リース。わき目も振らずに、丁寧に丁寧に、少しずつ飾りつけていく。人柄が見えてくる。
華道の次は、EIC。部室には、女子ばかり10人。毎回、テーマを決めて英語でおしゃべりをするのだという。この日のテーマは、友だち。アイドルの話題も出てきて、女子トーク炸裂。最後は歴代の卒業アルバムを広げながらの楽しいものとなった。
お母さんと並んで台所に
部活動がない日は、4時半頃帰宅する。ホームステイ先は、学校から電車で1回乗り換えて30分弱。ご近所の人たちともごく自然に挨拶を交わす。
帰宅すると毎日、日本の「お母さん」と夕食の支度をする。初めてのことばかりだから、お母さんに教わりながら進める。
「手先が器用ですね。そして、速い。(料理の)筋がいいと思いますよ」と、お料理上手のお母さん、Mさんは太鼓判を押す。
ホストファミリーになったのは、昨年3月末、「心連心」のチラシを見たことから。締切は少し過ぎていたが、電話をかけてみると、とんとん拍子に決まった。以前から国際交流に興味があり、機会はないかと3年前から探していたという。県庁の関連部署に紹介を依頼したこともあった。1年前には、寺院の紹介で留学生の1日ホストファミリーを体験。「1日だけでは寂しい、長く受け入れてみたい」と夫婦そろって思うようになった。
彼女のことは、シエちゃんと呼んでいる。
当初戸惑ったのは、食べ物の好みだった。
「緑黄色野菜、とりわけ葉物の苦味が苦手なようです。栄養の面から言っても食べさせたいし、日本の食文化を味わってほしいと思っています」
時には、上海の人が好む砂糖と酢を使ったり、オイスターソースを使ってみたり、と工夫を重ねる。
暮らしの中での積み重ね
「シエちゃんと暮らすようになって、日本を再認識するようになりました。日本を代表する名所などに連れて行ってあげたいので、これまでにもあちこち行きました。適当な説明をするわけにはいきませんから、奈良の文化や歴史を勉強し直したりしています。また、私たち夫婦二人では行かない、若い人たちが集まる場所に行ったこともありますが、行ってみれば楽しいんですよね。彼女が運んでくれる新しい視点や新しいものが頭をやわらかくしてくれています。チャットの仕方もシエちゃんに教わったんですよ(笑)。彼女を通して、(マスコミが伝えない)中国の姿を知ることもあります。たくさんの喜びを感じています」
日々の営みの中でこうして互いの国への理解が積み重ねられ、心の結びつきが深まっていく。
「家族と過ごす交わりの時間も、一人で過ごす時間も、どちらも大切に。バランスよく過ごしてほしい。でもやっぱり我慢していることもあるはずだから、日々の会話の中から感じ取ってあげたい」と話す。
しとやかにお茶を出してくれた卲さんと、その様子をそっと見つめるMさん。2人を見ていたら、ホストファミリーという暮らしを私も体験してみたくなってきた。
留学生活ももうすぐ折り返し地点。帰国までの目標は?
「関西弁をマスターすることと、日本史をしっかり勉強したいです」
【取材を終えて】
学校周辺は、掘れば必ず遺跡のかけらが出てくる場所とか。平城京跡をそばにひかえ、歴史を肌で感じるには絶好の環境。願わくは、たおやかな関西弁を話す「歴女」となって、上海のクラスメートたちに、見て、聞いて、感じた「日本」を伝えてほしい。
取材/文:須藤みか 取材日:2015年12月11日