参加者インタビュー
Interviewインタビュー 日中21世紀交流事業に参加された方々に交流を振り返っていただきました
中間研修
半年間の成果を順に報告
「かっけー」
清風南海学園(大阪府高石市)に留学する韓東学君が同校保護者会で登壇し、発表している写真がプロジェクターに映し出された。韓君は同校で初めての中国人留学生。ホームステイ先がなかなか決まらなかったという。来年以降「心連心」の後輩が困らないようにと、中国人留学生の存在を10分間アピールした。そう報告すると、歓声とともに拍手が広がった。
関西国際空港にほど近い国際交流基金関西国際センター。「心連心:中国高校生長期招へい事業」第十期生の31人が研修室に集まり、午前中のグループワークでは「前半の成果振り返り」として順に発表を行っていた。
心連心の日本滞在は、およそ1年。折り返し地点となる2月、半年間を振り返る「中間研修」を行っている。来日目的の再確認と、残りの半年を充実させるための目標設定およびヒントを与えることがねらいだ。
発表の持ち時間は4分。部活動や学校行事などの写真を映し出しながら、それぞれが自身の半年間を報告していく。中国では勉強漬けだった生徒たちは、日本の高校での部活を楽しみにしてきた。部活について語る生徒が目立った。
広島市立舟入高等学校の曾静好さんは剣道部に入部した。「ふだんはみんな優しいのに、試合になったら殺気のようなオーラ。瞬殺しました(笑)」と、剣道部員のかっこよさを伝えた。
敦賀気比高等学校の宋仕喆君が入部したのは新聞部。先輩が1人いるだけのたった2人の部だが、県コンクールで優秀賞をとるほどの充実した活動を行う。兼部している吹奏楽部についても、「化け物かと思った。高校生レベルじゃない(素晴らしい)演奏」と話した。
仲間のプレゼンに歓声
光ヶ丘女子高等学校(愛知県岡崎市)に留学している赫欣桐さんはBGMつきで発表。茶道部での活動は「お菓子も美味しいし、ほんとうに楽しい」と話した。和紙工芸や、ドイツの留学生との写真も紹介した。茶道男子もいる。横須賀市立横須賀総合高等学校の沈隽吉君。「別の世界に入ったような気持ちになる」世界の奥深さを伝えた。
のどかな田園風景を冒頭に映し出し、「めちゃくちゃ、田舎や~!」と関西弁で切り出して、笑いを誘ったのは丁依寧さん。和歌山県立那賀高等学校に通う。「田舎だけど、空気もいいし、野菜やフルーツが美味しい。クラスメートも優しく、みんなに助けられて幸せ」と結んだ。
半年間の体験と思いが凝縮された仲間の発表に、「おー」「スゲー」と日本の高校生顔負けのような声があがる。互いの成長を確認しあう時間となった。
「グループワーク①前半の振り返り」が終わると、昼食に。楽しそうに話していた女子2人の席に混ぜてもらった。
秋田の明桜高等学校の吉磊さんは、日本のドラマやアニメが大好き。社交的な性格も手伝って、独学で日本語を学んだとは思えないほど軽妙に話す。部活には入っていないが、学校では台湾からの留学生のお世話をしたり、台湾へ留学予定の同級生の相談に乗ったりしているそう。ホストファミリーとの団らんのおかげで日本語力がどんどんついている。
思索的な表情で言葉を選びながら話すのは、孔明熙さん。静岡学園高等学校に通う。中国にいた頃は、アニメの吹き替えのサークルを作ったという行動派でもある。「演じる」というつながりから、演劇部に入部した。部内では、フルート歴も6年あり、音楽通なところを買われて音楽担当の責任者を務める。
来日して発見したこと
午後のグループワークは、6つの班に分かれて「来日して発見したこと」を発表していく。左図のように、縦軸を「ポジティブ」「ネガティブ」、横軸を「やっぱり」「びっくり」とし、4つのブロックに分ける。個人で作成したシートから6つの事例を選び、班としての「発見」を模造紙に貼っていく。
彼らの「発見」をたどってみると…。
①の「ポジティブ」に「やっぱり」と思ったのは、「礼儀正しい」「時間を守る」「団体のために考える」「(交通が)便利/電車が時間通りに来る」「サービスがいい」「山や緑がいっぱい」など
②の「ポジティブ」に「びっくり」したのは、「ルールを守る」「障害者が生活しやすい」「地震警報が早い」「環境保護の意識が高い」「大人もお菓子を食べる」「先生が優しい」「犬の散歩にはビニール袋を持ち、犬のフンの始末をする」「スーパーの出口に整理用テーブルがある」「バスに時刻表がある」などがあがった。
③の「ネガティブ」に「やっぱり」ととらえたのは、「お互いの距離がある」「男女の差別がある」「正座はきつい」「通勤ラッシュの混み方がすごい」「冬でも冷たい水を飲む」…。
④の「ネガティブ」に「びっくり」したのは、「学校のルールが厳しい」「土曜日も授業がある」「休みの日でも部活がある」「部活がきびしい」「男子と女子はほとんどしゃべらない」「電話をしている時にお辞儀をする」「一人で出かける年寄りが多い」といった意見が並んだ。
③と④の両方でピックアップされたのは、「自分の意見がないというよりは言わない」「あいまいな表現をする」「電車賃や野菜・果物の値段が高い」というものだった。
他者の「発見」や「視点」を知る
日中交流センターの担当者から、「①と②の合計と、③と④の合計がいくつずつかも数えてみて。自分たちの班ではどちらが多い?」と声がかかる。ポジティブにとらえている①+②のほうが多い班は3班、ネガティブに映っている③+④が多い班も3班。自分たちが「ネガティブ」に見ているものが、他の班では「ポジティブ」とされている場合もある。
他の班の発表に熱心に耳を傾け、時に質問もする。「共感」することで悩んだり戸惑っているのは自分だけではないことを知る。また、自分は気づかなかった他者の「発見」や「視点」を知ることは、「日本」へのさらなる理解につながっていく。
次に取り組んだのは、それぞれの「発見」を【生活環境】【食文化】【学校生活】【国民性(性格・特徴)】【その他】に分類していく作業だ。その過程で、(1)「ネガティブ」にとらえているもののなかで最も受け入れにくいと感じるのは何か、(2)ネガティブ評価が多かった項目は何か、を班ごとに考察し、発表していく。
5つの班がネガティブ評価の多かった項目として【学校生活】を挙げた。残り1つの班では、【国民性】だった。
「受け入れにくい」と感じたもので最も多いのは、「男子と女子があまりしゃべらないこと」。「男女の考えは違うので、いろいろアドバイスを聞きたい」と思っているのにままならないと残念がる意見や、「女子が男子に話しかけたら、『つきあってるの?』と聞かれることもあるようだ」と不思議がる声が聞かれた。「あいまいな表現を使うこと」も受け入れにくいことのひとつ。「質問したことに対して、『それは(答えるのは)難しいよね』と言われ」て戸惑った体験を話す生徒もいた。そのほかには、「あいまいな表現」にもつながるが「遠慮しすぎる」という声や、「休みの日の部活動はキツイ」という意見も。
発表が終わったところで、中間研修を担当する職員は「最初は何もかも楽しいけれど、時間が経って異文化に適応していこうとすれば、カルチャーショックを感じます。みんなそれぞれに課題や悩みはあると思うけれど、みんなで共有し、解決方法を見つけていきましょう」と締めくくった。
日本の心を知る和菓子作り
続いて、お待ちかねの和菓子作り。
和菓子の歴史などを学んだあとに、職人さんから手ほどきを受けた。「桜」「菊」「水仙」の三種を作る。餡を包む作業は難しく、思うようには手が動かない。一心に向き合いながら、和菓子に込められた日本の心を体感するひとときとなった。
和菓子作りの合間に生徒たちの声を拾った。
「発見」分析の中で「質問したことに対して、『それは(答えるのは)難しいよね』と言われ」たと話した盛岡中央高等学校の孫榕君。入部したのは軽音部。ロック好きな彼はバンドをやりたかったそうだが、ほかの部員はアニメソング志向。当初落胆はしたようだが、今は楽しんでいるそう。音楽の幅が広がりは、きっと友だち関係も広がっているはずだ。
半年前の来日歓迎レセプション会場で、将来はドラマや映画、アニメの監督になりたい」と言っていた李依桐さん(横須賀市立横須賀総合高等学校)。大人びた表情と落ち着いた語り口が印象的だったが、意外や、部活は剣道部。「カッコいいです。初段をとれるよう頑張っています」。
岡山の共生高等学校に在籍する呉嘉洺君はサムライへの憧れもあり、当初は剣道部に入ろうと思っていたというが、実際に活動しているのはアニメ同好会。校外でも、祭りで神輿もかついだり、スノボも体験したりしている。
生徒たちはネット上で日々のあれこれを綴っている。日記に、髪はホストファミリーのお母さんがカットしてくれる、と書いていた欧子萌君。新潟市立万代高校に通う。「その髪もお母さんが?」と聞くと、はにかむ優しげな顔に似合うヘアスタイルだ。
「生物や現代社会の先生から中国語の手紙をもらって嬉しかった」と書いていたのは、鹿児島県立武岡台高等学校の張戈さん。演劇部と茶道部に所属。入賞した日本語スピーチコンテストには、ホストファミリーが総出で応援してくれたと嬉しそうに話す。
互いに知恵を出し合う
研修は4泊5日間。2日目のこの日は、とりわけ盛りだくさんの内容だった。聞けば、翌日は前日の「発見」をさらに深く掘り下げていったという。個々人の課題をみんなと共有し、その具体的な解決策を班で話し合った。カルチャーショックを乗り越えるために互いに知恵を出し合っていく。最後は、そうした話し合いから生まれたテーマをもとに台本を作り、各チームで寸劇として演じたそうだ。
「生徒のなかには、自分が直面している課題について仲間から指摘されることと現実のはざまのなかで着地点が見つけられず苦悩する場面も見受けました。生徒たちにとっては久しぶりに顔をそろえた機会ですので、お互いの成長を確認し合い、今後のやる気につなげてもらいたい」と、同じく中間研修を担当する職員。
仲間と過ごした1週間で元気と勇気を得た31人。決意も新たに、それぞれの地へ帰って行った。残り半年はきっと駆け足で過ぎていく。実り多きものでありますように――。
取材/文:須藤 みか 取材日:2016年2月9日