参加者インタビュー
Interviewインタビュー 日中21世紀交流事業に参加された方々に交流を振り返っていただきました
古都のインターアクトクラブ 校外でも文化交流
ゴールデンウィーク期間中のはざまの平日、古都奈良へ。奈良市立一条高等学校に留学中の邵偲瑩さんを半年ぶりに訪ねた。
初の球技大会
雨天のため延期となっていた球技大会。バレーボール、バスケットボール、サッカーの三種目に分かれ、快晴のもと熱戦が繰り広げられていた。
邵さんが参加しているのはバスケットボールだった。会場の体育館に入ると、足元が揺れている。コートを駆け回る生徒たちの足音と熱い声援のためだ。ぐるりと見回して、クラスメイトの応援をする邵さんを見つけた。
「球技大会は、初めての経験です」と、邵さん。ほんの少しやったことがあるバスケにエントリーしたが、「下手だから…」とやや不安げだ。出場まではまだまだ間があるというので、前回の取材(2015年12月)からの半年間について聞いた。
天平時代の衣装を着て行列
―ゴールデンウィークの過ごし方は?
「29日は(ホームステイ先の)お父さん、お母さんに姫路城に連れて行ってもらいました。心連心の同期生が心連心webサイトの日記に書いていたのを読んで、前から行ってみたいと思っていました。とてもきれいなお城でした。30日は、大阪・梅田で映画を見ました。明日(3日)は、女官の衣装を着て、平城京天平祭の天平行列に出ます。中国からの観光客もいると思うので、通訳とかもできたら嬉しいです」
世界遺産の平城京跡で行われる天平祭は、天平時代を体感できるイベントとして地元で知られている。なかでも歴代天皇や女官などの衣装をまとって練り歩く天平行列は人気が高い。
「天平行列は、日本人の高校生でもなかなかできる経験ではないんですよ」と、邵さんが所属する英語国際活動部(EIC)顧問の鳥巣直子先生。
聞けば、同校のEICの活動には、インターアクトクラブも含まれているという。インターアクトクラブとは、国際ロータリーの青少年部門で、地域社会への奉仕や国際理解などを目標として活動している。そんなわけで学校の外に飛び出して、さまざまな経験ができるのだ。
「昨秋は特に、インターアクトクラブの地区大会が奈良で開催され、我が校はホスト校として奈良の文化体験などの企画・運営に携わりました。その他、奈良時代の地図を使って古都を巡るタイムトリップ・ウォーキングにも、ボランティアスタッフとして参加しました。邵さんは、どの行事についても理解をしていましたし、日本人の部員と変わらず行動していました。留学生だからということで特別なサポートをする必要もありませんでした」(鳥巣先生)
4月には観光スポットである奈良公園で外国人観光客へ英語インタビューを行ったそう。―どんな国の人に、どんな質問をしたの?
「フランス、アメリカ、イタリア、オーストラリア…、いろんな国の人と話ができて楽しかったです。日本で好きな食べ物は何ですか?と聞くと、『パンケーキにキャベツが入ったもの』という答えもありました。何だと思います? …… 答えは、『お好み焼き』です。他の国の人が日本をどう見ているのかもわかって、面白かったです」
ゴールデンウィーク後半は天平行列のほかにも、ホストファミリー宅のご縁で中国語通訳のボランティアを務めている。海外からの観光客の多い古都への留学が、得難い経験ができるチャンスを運んでいるようだ。
音読への挑戦、クラスメイトから拍手
勉強のほうはどうだろう。日本史はまだ苦手意識が強いようだが、中間試験では「特に古文や漢文を頑張ろうと思っています」と話す。
昨年度から引き続き、担任である井本早香先生からはこんな声が。
「半年間で邵さんの日本語はさらに上達しています。私の現代文の授業では、ずっと邵さんは音読をパスしていたんですが、3年になって初めての授業ではパスせずに音読に取り組みました。邵さんが読んだのは評論文でしたので、“睦まじい”“慈しむ”といった日本人の生徒でも読むのが難しい言葉もありましたが、スラスラと読む姿に『わぁ』という歓声があがり、拍手が広がったんですよ。クラスメイトとして彼女の存在感を改めて認識しました」
留学生をコンスタントに受け入れ、国際交流に積極的に取り組んできた同校。教師も生徒も、留学生への接し方が自然で、そしてあたたかいのだと感じた。
家事もできるように
暮らしについても聞いてみた。
「(ホストファミリーの)お母さんがお料理やお掃除の仕方などを教えてくれたおかげで1人でも生活ができるようになりました。上海の高校では寮に入っていたので、留学前は家のことは何もできませんでした」
どのくらいできなかったのかと聞けば、「留学前にあわてて掃除機の使い方を勉強した」ほど。
学校訪問の数日前に、ホストファミリーのMさんにも話を聞くことができた。前回のインタビューの際にも「手先が器用、料理の筋がいい」とほめていたが、現在はというと、「目玉焼きや野菜炒めはシエちゃん(邵さん)の担当です。野菜炒めなんて野菜がシャキシャキしていて、私より上手なくらい。味覚もいいので、塩加減の担当でもあるんですよ」
しかし味覚が敏感なゆえか、好き嫌いもある。
「当初聞いていた以上に嫌いなものがあって、戸惑った時期もありましたが、彼女の食べられない野菜は除いたり、同じメニューでも彼女用に味付けを変えたり、付け足せるように食卓に調味料などを置くなどして乗り切っています」(Mさん)
Mさんにとって初めての長期ホストファミリー体験だけに、困惑したことは少なくなかったに違いない。
「長い受け入れですので、笑ってばかりではすみませんね。小さなものですが、2、3回は衝突がありました。見守りつつも、叱るべきところは叱らねばならないのだと思いましたし、日本語がわかると思って、普通に話してしまいがちですが、いくら上達しているとはいえ、微妙な表現は誤解もしやすいので、かみ砕いて話す必要があると思いました」
1か月ほど前、心身ともに疲れがピークに達していたそう。「(ホストファミリーは)想像していた以上に大変なことでしたが、シエちゃんが来てくれたからこその喜びもいっぱいあるんですよね」とかみしめるように話すMさんの言葉が心に響いた。
将来の夢
「進路については3つ考えていることがあります。上海の大学の医学部に入って、医者になる。中学の頃から、医者になって人の役に立ちたいと思っていました。2つめは、同志社大学の社会学部に入って、メディアの世界で働く。3つめは、新しい外国語を勉強する。日本語とは全然違う文化を持つ言葉を勉強するのもいいかなと思っています。例えば、スペイン語とか…」
将来の夢を話していたら、邵さんの出番が回ってきた。チームメイトからボールを受け取り、またパスする。そして、ドリブルも。慣れないながらも懸命にボールを追う。残念ながら勝つことはできなかったけれど、流した汗は心地良かったはずだ。
どちらかと言えばインドア派の邵さんは、物腰もやわらかく、語り口もゆっくり静かなもの。学校の中でわからないことはいつも自ら質問してきたが、積極的に友だち作りをするのは少し苦手そう。それでも友だちの姿などを見ながら、「自分から話しかけることの大切さも教わりました。誘ってくれているクラスメイトのおうちにも遊びに行ってみようと思います」
【取材を終えて】
上海に戻れば、進学を見据えた勉学第一の生活が待っている。留学生活はあと2か月。たくさん人と話し、たくさんのものを見て感じてほしい。どんな進路を選ぼうと、これからの邵さんの糧と宝物になるのだから。
取材/文:須藤みか 取材日:2016年4月25日、5月2日