参加者インタビュー
Interviewインタビュー 日中21世紀交流事業に参加された方々に交流を振り返っていただきました
新世代の第11期生、不安と期待を胸に日本留学をスタート
明日からの約1年の日本留学に向けて、中国人高校生たち31人が不安と期待を胸に勢ぞろいした――。
心と心をつなぐ「心連心」の名称で知られる、国際交流基金日中交流センターの「中国高校生長期招へい事業」。その第11期生の来日歓迎レセプションが9月9日、東京都内で開かれた。21世紀の新たな日中交流事業の1つとしてスタートしたこのプログラムも、今年9月で11年目に突入。高校生たちは2000年代生まれの新世代が大半を占め、すでに来日経験のある人も多い。
まだあどけなさを残した表情にも、どこか意志の強さがうかがえる11期生たち。1人ひとりの異国での新生活がいよいよ始まる。
新10年の歩みがスタート
歓迎レセプションの会場には、全国から駆けつけたホストファミリーや受入校の先生、そして日中両国の関係者らが大勢集まり、来日間もない高校生たちを温かく迎え入れた。
日中交流センターの阿南惟茂所長は、これまでの多方面から寄せられた厚い支援に感謝の意を表すとともに、11期生に対しては「(留学当初の)3カ月ぐらいは言葉の問題で苦労すると聞いている。だが、皆さんの先輩方もそうした困難に正面から挑戦し、自分を鍛えて成長している。来年このプログラムを終えて、いっそう立派になった皆さんと再会できることを楽しみにしている」と心温かなエールを送った。
中国駐日本大使館の胡志平公使参事官は挨拶の中で、「国際交流基金日中交流センターの『心連心:中国高校生長期招へい』事業は大変意義のある事業である。過去数年、中日関係は困難な時期を経験したが、現在は喜ばしいことに改善の方向へ進んでいる。両国政府には、青少年交流のためにより良い条件や環境を創り出して行く責任がある」と語った。
また生徒達に対し、中国の高校生として『民間の小大使』の自覚を持ち、勉学に励むと同時に、日本の友人達に中国の学生生活の様子を積極的に紹介し、日本のクラスメート・先生・ホストファミリーと良い関係を築き、充実した留学生活を送るよう激励した。
この10年、日中関係は決して平坦な道のりではなかった。四川大地震、東日本大震災などの災害にも見舞われた。しかし、このプログラムは双方の努力によって一貫して継続実施されてきた。そしてまた、心連心の新たな10年の歩みがスタートしたのだ。
会場のステージ席で熱心に耳を傾けていた11期生たちは、緊張した面持ちの中にも、明日からの期待に目を輝かせていた。
来日経験者の多い11期生
懇親会の席で、上手な日本語を交えて歓談する留学生たちに、生の声を聞いた。
「日本はきれい。親切な人も多い!」(西安市から長崎県立壱岐高等学校へ留学する何祥龍さん)。
「通りを歩く日本人が珍しくて、『わーっ!日本人ばっかり!』と思わず声を上げてしまった(笑)」(吉林省から鹿児島県の神村学園高等部へ留学する姜慧玲さん)
初来日のフレッシュな感想が聞かれた一方で、11期生の中には旅行や視察で来日経験のある高校生も多いことがわかった。
来日は、3年前に在籍する天津の外国語学校の修学旅行で経験、今回が2回目になるという趙津さんは、大阪府立桜塚高等学校へ留学する。小さいころにテレビで見たアニメの「ドラえもん」や「名探偵コナン」の影響もあり、日本語を学び始めた。長期留学は初めてで、日本人との日常のつきあいには不安もあるが、「周りの人たちとよく交流し、言葉や文化をよく学びたい」と堂々とした日本語で意欲を語る。
同じく来日2回目という陳豪さんは、冬でも温暖な中国南部の福州市から、日本の東北地方、秋田県の明桜高等学校へ留学する。長期留学は初体験だし、何よりも心配なのは「冬の寒さと、習慣の違い」に慣れるかどうか。
とはいえ、それ以上に楽しみなのが「バスケットボール部に入って、毎日練習すること」だという。中国でも趣味でバスケをやっていたが、日本のような厳しい部活は珍しいため「もっと体を鍛えたい。そして何でも積極的に取り組みたい」と胸をふくらませる。
ホームシックの心配は?と聞くと、「(中国SNSの)“微信”があるから大丈夫! いつでも親とテレビ電話ができますよ」とネット慣れした現代っ子らしい答えが返ってきた。
このほか「友だちをたくさんつくり、日本語のレベルを上げたい」という目標を語ってくれた北京の高校生、褚睿雯さん(長崎県の活水高等学校へ留学)は来日6回目。「方言や柔道を習うほか、毎日の生活をビデオに撮って記録したい」というユニークな希望に満ちた山東省の高校生、韓星さん(福岡市立福岡西陵高等学校へ留学)は2回目の来日だった。
ここ数年、「爆買い」する中国人観光客が話題になったが、訪日旅行はそれだけ身近なものになったのだろう。来日経験者の多い11期生にも、よりリアルな日本理解が進んでいると見受けられた。
留学生が新風吹き込む
心連心プログラムには、第10期生まで計329人が参加。うち高校をすでに卒業した人の約47%に当たる125人が、再び来日して日本での進学または就職を果たしたという。
それぞれが各地で日中交流を深めているが、第3期生の徐佳凝さんもそうした「心連心卒業生」の1人。レセプションの席では、卒業生代表として自身の体験をふまえた歓迎の言葉を述べた。
「留学にトラブルはつきものだと強調しました。ぼくも初めは言葉の壁から“真面目でおとなしい人”という誤解を受けてしまったが、『それは違う』と積極的に交流し、最後はみんなと学園祭で盛り上がった。留学先の北海道は、日本のふるさと。今では毎回、同窓会に呼ばれるんですよ」と笑みをこぼす。
現在は東京大学大学院に進学し、著名な建築家・隈研吾教授の研究室で建築デザインを学んでいる。「例えば研究でトラブルに見舞われたとしても、積極的に解決策を考える。心連心での経験があるからこそ、すぐには挫折しない性格になったのです(笑)」
将来は、建築家として世界に羽ばたくことが夢だという徐さん。後輩たちにも「トラブルを恐れずに、夢に向かって有意義な留学を」と励ましていた。
留学生たちが校内に新風を吹き込むと期待をかけるのが、大阪府の清風南海高等学校の米田隆先生だ。中国の長期留学生を受け入れるのは、10期生に続いて2回目となる。
前回はとりわけ優秀な留学生だったという。ホストファミリーと京都・嵐山の「周恩来総理記念詩碑」を見学した彼はいたく感激し「将来、国家のために尽くせるような人間になりたい」と大志を抱いた。その並外れた「意識の高さ」を示す逸話はまたたく間に校内に広まり、彼は一目置かれるように。
留学中には、勢い余って足首を骨折するというハプニングにも見舞われたが、それでも何事にも意欲的に取り組んでいた留学生の姿は、生徒たちに「強い刺激を与えた」という。
「毎日の異文化交流を通じて、互いに学び合うことは多い。学校にとっても、受入れはプラスであったと評価している。今度の生徒はタイプが異なるようですが、(受入れを)楽しみにしたい」
これからの約1年、日中の心をつなぐ、どんなドラマが生まれるだろう。新たな10年の始まりとなる11期生たちも、元気に各地へ飛び立っていった。
取材/文:小林さゆり 取材日:2016年9月9日