参加者インタビュー
Interviewインタビュー 日中21世紀交流事業に参加された方々に交流を振り返っていただきました
中間研修で自分に向き合う―スマホ世代が抱える悩みとは
来日から5ヵ月。留学生活の折り返し地点となる1月29日~2月2日に、埼玉県の国際交流基金日本語国際センターで、12期生の中間研修が開催された。留学中の日本各地から飛行機や電車を乗り継いでやってきた12期生たちが、久しぶりに一堂に会した。
毎年恒例の中間研修だが、今年は内容を一新。新たなワークを通じて、自分に向き合う生徒たちの姿を取材した。
「私の半年間」とは
「私が通う北海道のとわの森三愛高等学校はキリスト教の学校です。毎週月曜日に礼拝があります」と、研修冒頭の「私の半年間発表」で留学先の高校を紹介する路欣平さん。「キリスト教の文化に触れるよい機会になりました」と話す。
「クラスメートに『セイちゃんの中国語教室』をやっています」というセイちゃんこと趙一青さんは愛知県の光が丘女子高校に留学中。「(日本人には難しい)中国式の指で数字を表すやり方をできるようになった人もいて感動した」と、笑顔で語る。
沖縄県立向陽高等学校に留学中の万天怡さんは、外国語のような沖縄の方言を披露して、教室から笑い声があがった。その他にも留学先の町のこと、学校生活やクラブ活動、クラスメートやホームステイ先の家族との交流など、それぞれの発表から、充実した楽しい留学生活を送っている様子が伝わってくる。
今年は研修の内容を一新
しかし、全員が必ずしも順風満帆というわけではないという。毎年、最初の数か月はなかなか日本になじめず、友達ができないなど悩む生徒は少なくない。それに加え、「今年は特に、悩みを表に出さず、内向きになってしまう傾向がある」と日中交流センターの職員は指摘する。
スマートフォン世代の12期生は、「中国の家族も友人関係も、中国で遊んでいたゲームも、スマホ一つですべて日本に持ってくることができてしまう」と職員。このため、日本という異国の地で新たな人間関係を築きにくい。「友達ができない」とこぼしながら、自ら積極的に話しかけられないようなところもある。
そこで、日中交流センターでは事前のアンケートをもとに、研修の内容を、これまでの体験発表と共同作業を中心とした形式から、じっくりと自分自身に向き合う形式へと一新した。
コミュニケーションのワークで会話術を学ぶ
2日間にわたるワークの初日は、まず、セルフチェックシートを利用した「留学生活振り返り・自己評価」から始まった。日ごろ、自分ができていることとできていないことを確認して課題を挙げてもらい、それを、臨床心理士の先生にも客観的にみていただいた。
翌日は、「コミュニケーション能力向上」のワークを実施。今回、この新たなワークを考案した日中交流センターの職員は、「悩みの8割はコミュニケーションにかかわること」と話す。
「会話が続かない」「日本語特有のあいまいな表現や外来語が難しい」などの声が多いことから、会話を広げる方法や相槌の打ち方など、具体例を挙げてコミュニケーションの仕方をレクチャーした。また、日本の正月と中国の春節をテーマに会話を作成し、2人1組のコント形式で発表もしてもらった。
最初はなかなか手があがらなかった生徒たちだが、熊本に留学中の張添淇さんと佐賀に留学中の禹林強君のコンビが、テンポのよい会話を披露し、最後は心連心プログラムの宣伝でしめくくるというオチまでつけると、みんな大爆笑。次々に手が上がるようになり、硬かった教室の雰囲気が一気に打ち解けたようだった。
長所をのばして課題を乗り越える
続いて午後のワークでは、前日のセルフチェックシートをもとに、課題の克服方法に取り組んだ。前述の職員が結果から原因を探る方法を解説、さらにその原因をもとに、長所をのばして課題を克服するやり方を説いた。
例えば、次の日に必要なものを前日に準備しておけるという長所があれば、自分で定期的に目標をつくり努力をすることもできる、という具合だ。
生徒たちにも実際、自分の課題を克服する方法を考えて紙に書いてもらう。見ていると、すぐに日本語で積極的に書きだしていく生徒もいるが、セルフチェックシートを何度もめくっては考えこみ、1行も進まない生徒も多い。
それでもしばらくすると、紙にペンを走らせる音があちこちから聞こえ始め、次第に用紙の解答欄が埋まりはじめた。見せてもらうと、「自分は自己管理が苦手なほうではないので、一日にスマートフォンを使う時間も管理できるはず」などと書かれていた。
最多の課題はスマホとの付き合い方
実は今回、「スマートフォンとの適切な付き合い方」を課題に挙げる生徒が一番多かったと、日中交流センターの職員は言う。長崎県立壱岐高校に通う梁天楽君もその一人。ワークの終わりに、どんなことを書いたかたずねると、「スマホで遊んでいるとやめられなくなる。今後は自己管理に気をつけたいです」と、返事が返ってきた。
また、盛岡中央高等学校に通う劉謙君君も「一人暮らしで、自己管理が甘くなりがち」と語る。長所を挙げてもらうと、「人付き合いができること」。長所で課題は克服できそうかという問いには、「ちょっと自信がない」とはにかむ。
「でも、自分の長所や短所が明確にわかってよかったです。この半年間、深く考えることがなかったので、こういう機会をもてたことに感謝しました」と、ポツリポツリ話してくれた。
友達との交流を課題に挙げた生徒もいた。京都の立命館宇治中学校・高等学校に通う劉恩銘君の課題は「クラスメートみんなと仲良くなること」だそうだ。親しくない人の前では気後れしてしまうという梁君。長所は「悪いことがあっても改善しようという気持ちを持てること」。
「今はまだ、もう少し時間は必要ですが、努力をすればよい結果が得られると思います」
という丁寧な話しぶりから、誠実な人柄が伝わってきた。
前述のコミュニケーション術のコントで笑いをとった張添淇さんも、本当は人見知りで、親しくない人の前では言葉が少なくなるそうだ。しかも、留学当初の日本語学習暦はわずか半年、最初は英語で交流をしていたと言う。
「授業やクラスメートとの会話を聞きながら、だんだん日本語に慣れていきました」と、今はなかなか達者な日本語を話す。入部した和太鼓部でも仲間ができた。それでもお昼の時間はみなスマホをいじっていて話題が見つからず、気まずい思いをすることがあるそうだ。
「これからはみんなが興味のあるようなことを話して、共通の話題をみつけようと思いました」と、明るく話してくれた。
心連心の先輩と阿南所長からのエール
ワークのあとは、心連心卒業生3人が留学経験を語った。5期生の馬寧君と6期生の白佳慧さんはともに中国の外交部に就職予定、7期生の楊賛さんは中国の上海財経大学に進学し、現在は一橋大学に交換留学中と、12期生たちにとっては輝かしい大先輩だ。
その先輩たちからは、日々を充実させるために毎日、毎週、毎月の計画を立てること、積極的に自分から声をかけること、先入観なく低姿勢で何でもチャレンジすることなど、実体験にもとづいたたくさんのアドバイスが贈られた。
また、阿南惟茂・日中交流センター所長は、12期生から挙がる「民間の交流と国同士の交流について」「目標をやり続ける方法」などさまざまな質問に答えながら、「多様な価値を受け入れる視野の広い人間になってほしい」とエールを贈った。
ワークを担当した職員は、「効果が本当にあったかどうかは、今後、生徒たちがどれだけ有言実行してくれるかにかかっているので、私たちも楽しみにしているところです」と語る。
生徒からは、「大変なのは自分だけでなく、同期生たちにもそれぞれ大変なことがあることもわかったので、後半の生活では弱音を言わず、頑張ります」というコメントが、多数寄せられたという。
ワーク翌日の鎌倉見学は、あいにくの雨模様だったが、生徒たちは着つけてもらった着物姿で、鎌倉を散策し、楽しいひと時をすごしたそうだ。
留学生活も残り6ヵ月。もうしばらく、雨の中を進む者もいるかもしれない。しかし、やまない雨はない。中間研修で学んだことを糧に、帰国するころには全員が虹を手にしていることに期待したい。
【取材を終えて】
今回、特に印象的だったのは、ワークを担当した職員が「一番伝えたいのは、皆さんにはたくさんの長所があるということ、上手くいかないことがあっても、絶対に自分を否定しないこと」と勇気づけていたことだ。発展した中国で生まれ育ったスマホ新世代には、どこかガラス細工のようなもろさがあるように思う。
でもだからこそ、中間研修で真摯に自分と向き合いあおうとする彼らの姿に、こちらの背筋が伸びる気がした。
取材・文:田中奈美 取材日:2018年1月31日