参加者インタビュー
Interviewインタビュー 日中21世紀交流事業に参加された方々に交流を振り返っていただきました
ホームシックを乗り越えて
第4話では、愛知の桜丘高等学校に通う鐘冰雯さんを訪ねました。来日当初、ホームシックに悩まされたと言う鐘さん。どうそれを乗り越え、周囲との関係を育んでいったのかを追いました。
1人でやっていける自信は全然なかった
「来日して1週目は興奮していたけど、2週目から1ヶ月頃までは、時々泣いてしまうほどホームシックになりました」
こう話してくれたのは、深圳(シンセン)から愛知県桜丘高校へやってきた鐘冰雯(ショウ・ヒョウブン)さん。来日当初から、落ち着いた様子で、流暢な日本語を使い周りとのコミュニケーションをとっていた彼女だが、内面はホームシックや勉強への不安でいっぱいだったようだ。
「留学することになって、一番不安だったのは、自分で何でも決めなくちゃいけないってこと。自分ひとりで色々決めるのが苦手なので、両親になんでも決定してもらっていた。中国にいる時は、朝なかなか起きられなかったから母とよくケンカになったけど、1人でやっていける自信も全然なかった」
一人っ子で両親に手をかけられて育った分、精神的な自立はまだまだだったのかもしれない。鐘さんが暮らしている同じ寮には、留学生だけではなく、親元を離れてきた日本人高校生たちも居て、同様にホームシックにかかる生徒はいると寮母さんは言う。高校生ともなると、見た目は大人に近づく年齢だが、日本人であっても中国人であってもまだ親に甘えが残る年頃で、ましてや海外ともなると大変である。
また、鐘さんの勉強が予想以上に進んでいたので、馴染みはじめていた普通科クラスから、中高一貫クラスへ、ほんの10日足らずで替わることになったことにも気苦労があったようだ。この時の様子を中国語担当の岩佐先生は、次のように教えてくれた。
「普通科にすでに馴染んでいたので、クラス替えをしてつらそうでしたね。特に新しいクラスは、中学からの持ち上がりなので人間関係がすでにできあがっていたんです」
周りは気づきににくいのだが、こうした小さなきっかけから部屋に引きこもりがちになってしまうことも珍しくない。実際、以前桜丘高校で受け入れた留学生の中には、あまり日本語ができなかったこともあって、最初のコミュニケーションがうまくいかず、引きこもりがちになってしまい、最初の予定より早く帰国することになった生徒もいたという。
本人のチャレンジと周りのサポート
最初に入った普通科のクラスの生徒たちは、学園祭のために、『自転車ツアー』を企画していた。東北を応援する目的で、学校がある豊橋から被災地の気仙沼までゆうに700Kmを超える距離を自転車でリレーするという壮大なプロジェクトだ。すでに、クラスは替わっていたのだが、鐘さんは迷いながらも参加することに決めた。参加する日の前日、この時の気持ちをブログに綴っていた。
「東北に行くんだ。明日は一時限目に掃除をしてから準備を。ずっと前から決めていたことだから言ったことはきちんと守ろうと、明日は6組の人たちと東北に行ってくるよ」
中国にいた時は運動らしい運動をする時間はあまりなく、体力的にも大きな不安があったことだろう。クラスも替わっていたし葛藤はあったが、それでも鐘さんはそのプロジェクトに飛び込み、自分の担当分を走りきった。
「朝10時くらいに高校を出発して清水に18時頃に着いたかな。私は1回交替しました。自転車に乗るのが下手なので、皆についていくのが大変でした」
参加したことで、クラスは替わっても絆を保つきっかけとなったのは確かだ。新しく入った中高一貫のクラスでも、席の近い生徒と仲良くなったことから、徐々に友達が増えていった。いきなりのクラス替えで、最初は戸惑いがあったものの、今ではそのおかげで普通よりも多く、2つのクラスの人達と知り合うことが出来たと思えるようになった。鐘さんがつらそうな時期について、寮母さんに話しを聞くと、次の事を教えてくれた。
「『寮では個室にいるより食堂にいるほうが、皆とコミュニケーションがとれるよ』と言うと、食事が済んでも食堂にいましたね。最初の頃は私も横に座って、『新しく来た鐘さんだよ』なんて他の寮生に紹介したりして。最近は仲良しもできたみたいで、時々2人で出かけたりしています」
言葉にすると簡単な事のように思えるが、何人もの高校生を見てきた寮母さんだからこそ出来る気配りなのかも知れない。本人の頑張りがもっとも大切なのだが、周りのちょっとした気配り、軽く背中を押すというのも最初は非常に大切な事のように思えた。
鐘さんに仲良くなった寮生の友達の事を聞くと、本当に嬉しそうに教えてくれた。
「寮生の友達とは同じアニメが好きだったことがきっかけで仲良くなりました。近くのショッピングモールにそのグッズを買いに出かけたり、アイスクリームを食べに行ったり。今までの日本の生活の中で一番うれしかったのは、その友達と期末の前に一緒に外へ勉強しに出かけたこと。寮にいると集中できないから外に勉強しに行こうって。中国の親友ともよく試験の前に勉強しに出かけていたから、そういう友達ができたってことがすごくうれしかった」
誘ってくれたのがうれしかった
部活は、最初のクラスの中国人の友達が所属する料理部に入った。料理部には、他にもう1人中国語の話せる生徒がいて、母国語で息抜きのできる貴重な場になっている。
週末には、時々、その友人の家に行き泊まらせてもらうこともあるほど、仲良くなっている。この他にも月に一度ホームステイに訪れる家庭がある。宿題は前日までに全て終わらせてから行くほど、その家庭の2歳の女の子と遊ぶことを楽しみにしている。
普段は寮生活なのだが、年末年始には1週間ほど別のクラスメートの家庭にもお邪魔した。そのクラスメートの両親は、鐘さんがせっかく来るならと、京都、奈良、大阪への観光旅行を計画し、正月には着物の着付けも体験させてくれた。とても楽しい休日を過ごせたのかと思い、感想を聞いてみると、友達を大切にする鐘さんらしい答えが返ってきた。
「着物が着られてうれしかったけど、それ以上にクラスメートがうちにおいでよと誘ってくれたのがうれしかった。」
人の出会いに恵まれ、学校や寮だけでなく、様々な場所で彼女がチャレンジし、日本での世界が広がっている事が感じられ、とても印象的な感想だった。そんな彼女に次のチャレンジを聞いてみた。
「今も帰りたい、両親に会いたいという気もちはもちろんあります。でも徐々に1人でやっていける自信がついてきました。次は1人で日帰り旅行にチャレンジしてみたいな。」
どんどん成長している彼女だが、まだまだ色々とチャレンジしていくようで、3ヶ月後に会うのがこれから楽しみだ。