参加者インタビュー
Interviewインタビュー 日中21世紀交流事業に参加された方々に交流を振り返っていただきました
全力投球の一年
前回ホストファミリーの長岡さんより、ボランティアとしてチャリティーコンサートに参加してもらう予定だと聞いていた。その日程が決まったと連絡をもらい、6月某日、雒さんの活躍を見に京都へ足を運んだ。 前回の様子はこちら。
チャリティーコンサートでボランティアを経験
心連心第7期生としての留学生活もあと残り1ヶ月。雒さんがチャリティーコンサートでボランティアとして参加すると聞きつけ京都を訪ねた。このチャリティーコンサートは、ホストファミリーの長岡さんがスタッフとして毎年関わる関係で、その都度長岡家に滞在する留学生達の中で時間の都合がつくものは手伝いに参加している。これも多様な経験をしてほしいという長岡さんの計らいだ。
この日訪れた時には同じ七期生の張心育君と何璐さんが駆けつけていた。また立命館高校での雒さんの友人、河野さんも参加していた。
始まる前から「不安でいっぱい、ドキドキしています」と雒さん。チャリティーコンサートではパンフレットの受け渡しや、お菓子の販売などを手伝う予定。うまくできるか、ゲストに質問されたら問題なく案内が出来るかなど考えると緊張してしまうらしい。
そんな雒さんを見守っていた長岡さんは、こう話す。
「雒ちゃんはすごく変わりました。今までの留学生の中で一番変わったかもしれない。最初はすごく大人しいイメージだったけど、ほんとに明るくなった」
そして3ヶ月ごとに顔を合わせインタビューしてきた私もそう感じていた。最初に会った頃に比べると、格段にエネルギッシュでどれだけ時間が合っても足りない、と言うくらい話が弾んで止まらない。それもそのはず、現在の雒さんの生活を聞くと、ほんとに充実しているのだな、と思わずにはいられなかった。
朝起きると、やる気がいっぱい出てくる
現在雒さんが所属しているのは、スーパーサイエンスコースといい、立命館高等学校の中でもトップレベルの理数系の授業が受けられるコースだ。3年に進級すると、週3回立命館大学のびわこ・くさつキャンパスで大学生達とも講義を受ける。びわこ・くさつキャンパスまでは片道2時間近く登校時間がかかるが、それ以上の充実感があるからか雒さんはそんな苦労はおくびにも出さない。
ゼミでは生徒が順番に先生役を務める日もある。皆の質問に的確に、正確に答えなければならないし、配布するプリントも用意するため準備は1週間前から行うそう。その結果、周囲の生徒から「分かりやすかった」と声をかけられると、努力が報われた気がしてとてもうれしいと話してくれた。
また7月には帰国してしまう雒さん以外の生徒には卒業研究があり、雒さんはその卒業研究を手伝うこともある。なかでも一人の生徒は漢文で問題が書かれた江戸時代の「算額」をテーマに選んでいるので、雒さんには大いに力になってもらっているようだ。
タイやシンガポールなど海外からの高校生ゲストと共に、授業や実験などを共有する機会も多い。聞いているこちらの方が目を回してしまいそうなほど多忙なのだが、この環境を雒さんは存分に楽しんでいる。
まさに全力投球、という言葉がふさわしい雒さんの一年間。先日は模擬国連大会で、アフリカのガボン共和国代表として、環境問題などについてスピーチをした。3日間の開催中には緊急のテーマも課せられ、その日の深夜1時までかかって3人のメンバーで準備することもあった。特に英語が得意な雒さんが代表として壇上でスピーチをすることが多かったそう。
「来た当初、全校生徒の前で挨拶をする時は、やるしかない、という気持ちだった。ものすごく緊張したけど恥ずかしいなんて言ってられない。それからJSSF(ジャパン・スーパー・サイエンス・フェア)や留学生とのワークショップで司会を務めた経験など、立命館がくれたたくさんのチャンスのおかげで、信じられないくらい積極的になれた。先日の模擬国連では、200人くらいの前でスピーチしたけれど全く緊張せずにできました」
どれも口で言うほど簡単ではないことばかりだった。入念な準備も必要だし、それに今まで人前で発言すること自体が苦手な性格だった。しかし何度も与えられた機会の中で経験を重ね、雒さん自身努力し少しずつ自分の殻を打ち破っていった。そんな一年を通して留学前には想像していなかったほど自分は変わったと思うと、雒さんは話す。友達にも「日本に来てから性格が変わったね」と言われたと。中国にいた時はこのようになれるとは自分でも思わなかったと、雒さんは繰り返した。
うれしくて泣いてしまった
留学する前は、雒さんも「友達ができるか」、「環境に馴染めるか」など心配は尽きなかった。特に来日して2ヶ月ほどは、雒さんにとってまだ言葉が分からず辛い時期でもあった。
「体育の時間皆で円になってダンスの振り付けを考えている時、皆の話していることが全く分からなくて、自分でも知らないうちに涙が出てしまったことがありました。急に寂しくなってしまって」
ちゃんと理解しないと皆にあわせてダンスが踊れない、足を引っ張ってしまう。そう焦る気持ちもあって、辛くなってしまった。責任感があり、真面目な雒さんらしいエピソードだ。
度々感じる孤独や、言葉を早く理解できるようになりたいと焦る気持ち。そんな辛い時期を支えてくれたのは、日本語担当の武谷先生やクラスの友人たち。武谷先生は、先生と言うより何でも話せる「姉」や「友人」に近いような存在だ。心連心の以前の留学生についても担当していたので、雒さんに先輩達も同じ悩みを抱えていたと話してくれ、雒さんの心を軽くしてくれたことも度々あった。
今はクラスを変わってしまったが、もとのクラスの友人にもやはり辛い時は支えてもらい、今でも話したいことがある時は教室まで会いに行く。休み時間の10分ほど話すと気持ちが楽になれる、そんな友人達だ。
また今のスーパーサイエンスクラスの友人たちにも最近うれしいサプライズをもらった。
「なかなか時間が取れないから、一度クラスの女子全員でボーリングをして晩御飯を食べに行こうと約束して遊びに行きました。晩御飯どこに食べに行くの?と聞いても誰も教えてくれないから、何かサプライズがあるかな、と思っていたんです。そしたらご飯の後、店員さんが歌いながら、私の名前とバースデープレートのついたデザートを運んできてくれて。皆が私の誕生日パーティーを企画してくれてたんです。うれしくて泣いてしまいました」
もうすぐ帰国してしまう雒さんのために、クラスの女子全員で何か思い出にと考えたのだろう。そんな温かいクラスメートや先生に囲まれ、今は段々帰りたくないという気持ちが大きくなっている。
「来年の秋、また日本に戻ってきたら、今度は紅葉を見に行こうねって約束してます。絶対また会おうねって」
帰国まであとわずか。日本でやり残したことは?と聞くと、「男子と仲良く出来なかったこと」と最初の取材と同じ答えが返ってきた。しかしその他には、この一年やり残したことはないようだ。