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イベントレポート

広州ふれあいの場:第一回ショートショートコンテスト

 広州ふれあいの場は20241031日、日本の有名なショートショート作家である田丸雅智先生をお招きし、「日本語ショートショート講座」を開催しました。講座終了後、学生たちは日本語ショートショートの創作に対する熱意と期待を抱きました。彼らの想像力を存分に発揮し、執筆の才能を披露してもらうために、広州ふれあいの場は「日本語ショートショートコンテスト」を開催しました。

 今回の作文コンテストには、中山大学日本語学科の学生から合計9作品の応募があり、審査員は田丸雅智先生にご担当いただきました。審査の結果、最優秀賞1名、優秀賞2名が選ばれ、受賞者は以下の通りです:

  • 最優秀賞:趙小芸
  • 優秀賞:鍾名揚、劉暁君

それでは、受賞作品と作者が描いたイラストをお楽しみください。

【最優秀賞】

風が運んできた葉っぱの手紙』 文・イラスト:趙小芸)

 拝啓 お兄ちゃんへ

 園子です。元気にしているかな?

    この体では字を書くのがちょっと辛いので、一緒に暮らしている鳥のコトリちゃんにお願いして、代わりに書いてもらったよ。私は枝を揺らし続け、葉のざわめきとボディーランゲージを使って一生懸命お兄ちゃんに言いたいことを伝えてみたんだ。ありがたいことに、コトリちゃんは頭が良くて、私の言いたいことを理解してくれたので、この葉っぱの手紙がきちんと書けたのよ。(しかし、風さんがこの手紙をちゃんとお兄ちゃんのところに届けてくれるのかな……心配のあまり、葉っぱがどんどん落ちている。木になっても抜け毛がひどくて困っているんだ。)

     お兄ちゃん、最近研究室の仕事はうまくいっている?同僚とまた喧嘩をしたって聞いたよ。もっと穏やかな心を持って生きてほしいのに。そういえば、社交って本当に難しいものだよね。人間だった頃とは違って、私は今、特に社交的になる必要がなく、ゆったりとした日々を送っているのよ。だから、お兄ちゃんが発明した植物試薬を飲んだこと、いまだに後悔していないのよ。お兄ちゃんもこれ以上自分を責めないでね。だって、木になったおかげで、人目を気にせず自由に生きることができた。根を土地の深くまで伸ばし、銀色の鉱脈と挨拶するのが大好きだ。いつかきっと、地球の中心部まで辿り着くと信じている。

    ただ、一つ気になるのは虫のことかな。お兄ちゃん、時間があったら、殺虫剤を持ってきてくれると嬉しいな。待ってるよ。

    敬具

四月一日
園子

田丸先生のコメント:

   手紙形式というアイデアはもちろん、鳥に手紙を書いてもらったというのはどういうことだろう、と冒頭から引きこまれました。「木になっても抜け毛がひどい」「植物試薬」の言葉によって、かつて語り手に起こったことが巧みにほのめかされていて、想像をかき立てられます。「銀色の鉱脈」「地球の中心部」という幻想的で夢のある言葉も、美しさを覚えるとともに、切なさが際立つようで、いいですね。ラストの現実的なお願いも全体を引き締めているように思いました。

優秀賞

『歌える風』 (文:鐘名揚 イラスト:芦方康)

 前日、私はいつものように自転車に乗って学院に行こうとしたところ、変なことが起きた。イヤホンをつけてないのに、自転車に乗った瞬間に歌が聞こえてきたのだ。それに、歌は気持ちとスピードによって変わり、その時に一番聞きたかった歌が聞けたことに驚いた。そこで、この風は「歌える風」と名付けられた。「歌える風」は風力、聞く人のスタイル、聴力、性格と趣味などに応じて選曲し、人の心が読めるような風だった。また、歌は風が吹いたときはもちろんのこと、風が吹いていなくても、走れていれば風があるから、歌うのだ。時間、場所、お金などの制限は一切ない。

 この「歌える風」は見えなくて、触れなくても、風があるところに存在する。まるで心の底から歌っているようだ。

田丸先生のコメント:

     人に寄りそってくれるような風のお話に、じんわり心が温まりました。自分にはどんな歌が聞こえてくるだろうかと想像するのも楽しいですね。とても透明で、なんだか命を祝福されているような感覚にもなりました。

『魚になれる海』 (文・イラスト:劉曉君)

 ある島の周りを囲む、青く澄んだ海が広がっている。たまたまこの島に冒険に訪れた女性がピンク色の水着を着て海に飛び込んだ。すると、彼女が手にしていたゼリーが赤く透明な魚に変わった。彼女自身も、なんとピンク色の魚に変貌した。そして彼女は海を自由自在に泳いていた。しかし、水面に上がって空気を吸うと、また人間に戻ってしまう。このことに不思議に思った彼女はSNSにこのことを投稿した。半信半疑だった人々がたくさんこの島に集まってきた。みんな海に潜ったら、水着の色をする魚に変身していく。落下したスマホも機械の魚に変わってしまう。しかし、いつまでも魚の体をしていると、他の魚に食われる恐れがある。それで、すぐに人間に戻る人もいれば、魚のままのほうが心地よ過ぎて、自由に泳ぎ続ける人も大勢いた。この魔法の海はその後リラックスする聖地として有名になり、世界各地から大勢の人が訪れてくる大盛況だった。

田丸先生のコメント:

 魚に変わって泳げたら、さぞ気持ちいいだろうなぁと想像が広がりました。人だけではなく、ゼリーやスマホまで変身するという設定も愉快です。食べられるリスクはあっても、一度経験してしまうとまさに病みつきになりそうだなぁと妙に納得させられました。

 広州ふれあいの場は今後も定期的に日本語ショートショートコンテストを開催する予定です。
 皆さんの自由奔放な想像力と、奇抜なアイデアに満ちた物語を楽しみにしています。

 

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