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参加者インタビュー

日中21世紀交流事業に参加された方々に交流を振り返っていただきました

[オンライン交流会] 模索の中で生まれた新たな交流の芽

 コロナ禍で、国際交流の形が模索されるなか、国際交流基金日中交流センターでは2020年度から、日本と中国と高校生をオンライン交流会でつなぐ「日中高校生対話・協働プログラム」を新たにスタートした。
 このプログラムに参加した三重高等学校は、これまで「心連心:中国高校生長期招へい事業」で、長年にわたり、中国人留学生を受け入れてきた高校の一つだ。新プログラムでは、洛陽外国語学校と4回のオンライン交流会を重ね、今後も継続していく予定だという。この交流会に参加した三重高校の生徒と、国際部代表の秦雅文先生に話をうかがった。
 学校取材もオンラインという、日中交流センター初の試みとなった。

海外との交流を求めて


写真を拡大三重高校の皆さん

 パソコンの画面の向こうでは、教室に集まった三重高等学校の生徒たちが、椅子に座って並んでいた。2年生と3年生の計12名。最初に交流会への参加動機をたずねると、生徒たちは慣れた様子で、一人ずつ順番にカメラの前に歩み出て、それぞれの思いを語った。

 「私が参加した理由は、高2の時に行く予定だったオーストラリア留学がコロナの影響で中止になってしまったからです」

 「私は、中国からの留学生がうちにホームステイする予定だったのですが、コロナで流れてしまい、別に交流する機会があればと思って参加しました」

 「先輩がオンラインでドイツと交流した話を聞いて、魅力的だなと思って、今回、中国との交流会に参加してみました」

 他には、海外留学経験があり、海外のことをもっと知りたいと言う生徒、以前から中国の伝統や学生生活に興味を持っていたと話す生徒、さらに、心連心の中国高校生長期招へい事業で来日した中国人留学生との交流が楽しかったので参加したと語る生徒などもいた。

 彼らの話を聞くと、コロナ禍で海外との交流の機会を失った生徒は少なくない。みな、貴重な交流の場を求めて参加した様子が伝わってきた。

中国の「日本熱」に圧倒される


写真を拡大交流当時のことを楽しそうに話す様子

 では、実際に交流をしてみてどうだったか。印象に残ったことをたずねると、さっそく生徒の一人がカメラの前に歩み出た。

 「一回目の自己紹介のとき、私が茶道部に所属をしていると話をしたら、洛陽の男子生徒が、自分も茶道部に所属していると言って、その場で、茶道のお道具を揃えて、お茶をたててくれたんですよ。本当にすごいと思いました」と、とても楽しそうに話してくれる。

 しかも同じ裏千家の点て方だったことがうれしくて、「コロナが終わったら、また日本に来てね」という話をしたそうだ。

 続いて一人また一人と、生徒たちがカメラの前に出て、感想を語り、話が途切れない。特に打ち合わせたわけでもないのに、みな、熱心で積極的だ。

写真を拡大皆さん積極的にお話ししてくださいました

 「日本の制服に憧れて、学校で日本の制服を着ていると言う子がいて、その制服を見せてくれたのにはびっくりしました」と言う生徒、「最初のほうの回で、打ち解けるために、日本の音楽の話をしたら、YOASOBIの『夜に駆ける』をみんなで歌ってくれて、こんな日本の歌まで歌えるんだって、意外に思いました」と語る生徒。

 洛陽の高校生の予想外な「日本熱」に、圧倒されたようである。

オンラインで伝えるための創意工夫


写真を拡大教科書を見せながら学校生活を紹介した様子

 洛陽外国語学校の生徒は日本語専攻で、日本語が上手い。なかには小学生のときから日本語を勉強しているという生徒もいる。それでも、最初はあまり言葉が伝わらないこともあったと言う。

 「『名前を言ってもらっていいですか』というような丁寧すぎる言い方では伝わらなくて、なるべく教科書的に簡単に話すようにしたらわかってもらえるようになりました」と、生徒の一人は話す。オンラインでの交流ということもあり、関西弁は使わないようにして、一つ一つの言葉をはっきり話す工夫もした。

 「これまで、海外との交流というと、僕がたどたどしい英語で、必死に伝えるという感じでしたが、今回は相手が一生懸命伝えようとしてくれて、僕らも伝わるようにゆっくり話すというのが新鮮でした」と語る生徒もいた。

 音を聞くだけではわからない単語も、漢字ならけっこう伝わるということで、時には紙に漢字を書いて、カメラの前に出すという「アナログ」な手法も駆使したそうだ。

話題は観光から学校生活、正月まで


写真を拡大当時のグループ活動の様子

 回を重ねると、話題も広がり、グループトークでは、日本のアニメやドラマ、観光地、お土産などで話が盛り上がったと、女子生徒の一人が話す。

 「私が話をしたグループでは、日本に来たことがある子はいなかったんですが、日本の観光地や食べ物のことを本当にたくさん知っていて、すごく盛り上がったんです。でも、逆に、中国の話になると、私たちのほうに知識がなくて、もう少し知っていたら、もっと話せたのになあと思いました」

話題は、お互いの学校生活にも及んだ。ある男子生徒は、中国の高校が全寮制で、勉強時間が非常に長いことに驚いたそうだ。

写真を拡大異なる価値感に触れることができたようです

 「それはもう、僕らとは比べものにならないハードスケジュールで、朝7時半くらいから始まって、夜は9時か10時くらいまで、教室で自習していると言うんですよ。そのあと寮に帰って寝て、週末は自宅に帰るのですが、また月曜日になると学校に来て、そこで一週間を過ごすという、僕たちからしたら耐えられないような生活で、文化の違いだなと思いました」

 一方、中国側からは、毎日の通学について質問が出たそうだ。日本ではあたり前なバスや電車の通学が、中国で新鮮なこととして受け止められる、そのことは、日本の生徒たちの意外な発見にもなったようである。

 他にも中国と日本のお正月について、それぞれの違いをリアルに感じた話、1000㎞の距離を近いと感じる中国の感覚と、遠いと感じる日本の感覚の違いを面白く思った話、数字を表すハンドサインの違いに興味を持った話など、いろいろな話題が飛び出した。特に、日中間の違いの話は盛り上がった。

違いだけでなく、「共通点」も


写真を拡大中国の高校生に共感!

 ただ、交流会を通じて感じたのは、違いばかりではないと、生徒たちは口を揃えた。

 中国の勉強時間の長さに驚いた男子生徒は、洛陽の生徒と数学の教科書を見せあったとき、「勉強時間など違いはあっても、勉強している内容は同じなんだなと感じられました」と語った。

 また、ある女子生徒は、交流会に参加するまで、中国の生徒は勉強熱心で真面目で、堅苦しい子が多いのではないかという印象を持っていたそうだ。でも、洛陽の女子生徒が日本のアニメやドラマが大好きで、リアルで恋愛できない分、日本の俳優にあこがれると話すのを聞いて、「そういう感覚は一緒なんだ」と思うと、急に、画面の向こうの相手がとても身近に感じられたと言う。

「竹内涼真君がかっこいいとか、もう、すごいわかる~って共感しました!」と話す彼女の楽しげな様子から、意気投合した様子が伝わってきた。

 別の女子生徒からは、こんな話も聞いた。

 「私の両親は、中国にあまりいいイメージをもっていませんでした。でも、実際に交流をすると、彼らも私たちと全然変わらない、普通の高校生なんです。むしろ日本大好きな高校生。私はそれがすごくうれしくて、お母さんにも、交流会で話したことや、楽しかったことを話したら、『へえ、そうなんだ、よかったね』と言ってくれました」

 国同士はいろいろあっても、高校生は高校生、そのことをすごく感じたと、彼女は強調した。

オンライン交流の成功の秘訣


写真を拡大当時のグループ活動の様子

 洛陽の高校生との交流は、生徒たちのなかで小さな「変化」が生まれるきっかけにもなったようだ。

 「将来について話をしたとき、彼らが日本に留学して声優になりたいなどと話しているのを聞いて、自分も彼らのように熱心に将来を考えたいと思うようになりました」

 そんな話をする生徒がいた。また、中国のニュースを気にするようになったという生徒もいた。

 「いままではニュースで中国の話が出ても、世界のいろいろある国のうちの一つだと思っていました。でも今は、中国と聞くと、すぐにテレビに飛びついて見るようになりました。少し前、中国の河南省の洪水のニュースを見たときは、自分でもネットで被害の様子を確認したりして、より詳しく知るようになりました」

写真を拡大成功の秘訣は・・・。

 今回、生徒たちに声がけをした国際部代表の秦雅文先生に、オンライン交流会の成功の秘訣をうかがうと、「私のほうでは、何も特別なことはしていないんです」という回答をいただいた。

 「私が細かいところまで言うと、生徒たちのなかに、ルールを守らなくてはという意識が出てきてしまうので、そういうことがないよう、特別なことはしませんでした」と、秦先生。

 各回のテーマも先生が決めたわけではなく、「とりあえず今日は初めてだから自己紹介から始めよう」というところからスタートし、グループに分かれたあとは、それぞれ生徒たちが自由に共通の話題を見つけて、自主的に話を進めていったと言う。

 「もともと、海外に関心が高い子たちが集まっているので、会話が途切れるということもなく、安心して見ていられました。むしろ『今日はこれをしよう』という縛りがなかったことで、楽しむことができたのではないかと思います」

 さらに設備面で、日中双方の高校が複数台の端末を用意し、小グループに分かれて話ができたことも、会話が弾んだ理由の一つとなった。

多様な価値観に触れる交流会に


写真を拡大初めてのオンライン取材はこのような感じで行われました

 今後の交流についてたずねると、生徒たちからは、もう少し具体的に受験などについても聞きたいという答えが返ってきた。アニメやドラマ、正月の話などは、話題づくりとしては楽しいし、盛りあがるが、インターネットで検索できる話でもある。それよりむしろ、勉強方法や1日の時間の使い方など、リアルな情報を聞きたいというのが、受験を控えた生徒たちの関心事だ。

 一方、秦先生は、生徒たちには、成績や偏差値など一つの価値観に絞り込まれるのではなく、まったく違う世界を見てほしいと考えている。

 「最初にオーストラリア留学の話が出ましたが、オーストラリアに行くと、すごく勉強していると思っていた現地の高校生が、実はもっとゆったりしていることにびっくりします。中国についても、思想教育を徹底していると思っていたらそうでなかったり、日本のことをあまり知らないだろうと思っていたら、驚くほど細かいことまで知っていたりというように、思いがけないことがたくさんあります。そうした異なる価値観を持っている子どもたちとたくさん触れあえることは非常に大事だと思っています。これからの交流会では、そのような多様な価値観を感じることができるくらい、話題が広がっていければと考えています」

 さらに、オンラインという形式の交流会について、秦先生は新たな可能性も感じている。

 「今までは、一年に一回、海外に留学に行き、そこで初めての出会いあり、ゼロからスタートして、少し知りあえたころにはもう帰ってくるというパターンが多かったのですが、オンラインでは、事前に知り合えて、回数も重ねられます。もっと活用すべきだとは思いますし、このようなチャネルがたくさんあればと感じています」

写真を拡大三重高校の皆さん

 新型コロナウイルスの世界的流行によって、多くのものが失われた。若者たちの国際交流の機会もその一つ。それを取り戻すことは容易ではないかもしれない。しかし、こうした今だからこそ、高校生の海外とつながりたいという強い思いは、オンライン交流会の小さな芽を、今後の新たな交流の大木に育てていくのではないか。そんな希望を垣間見る取材となった。

   取材・文:田中奈美 取材日:2021年7月28日

 

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