参加者インタビュー
2020年度に始まった「日中高校生対話・協働プログラム」オンライン交流会の参加者インタビューでは、これまで、中国にあまりなじみのなかった日本人生徒たちと、日本語を学ぶ中国人生徒との交流について、日本の生徒たちを中心に話をうかがった。
3回目となる今回は、沖縄県立向陽高校で中国語を学ぶ日本の生徒と、南京外国語学校で日本語を学ぶ中国の生徒の交流について、日中両校の担当の先生に、オンライン対談をしていただいた。
1年半の交流の空白
――まずは簡単な自己紹介をお願いします。
韋 南京外国語学校の韋珏(ウェイ ジュエ)です。日本語を教えています。実は、私は南京外国語学校の卒業生です。この学校で、中学1年のときから日本語を勉強し、中国の大学を卒業したあと、一度、日本の会社に就職しました。でも、実家のある南京に戻りたくて、仕事を辞め、母校で日本語の教師になりました。日本語を教えて、20年くらいになります。
城間 沖縄県立向陽高校の城間真理子(しろま まりこ)といいます。中国語の教師です。私は明海大学の中国語学科で中国語を学んだあと、2年間、北京の大学に留学しました。帰国後は東京で教員免許を取得したあと、沖縄に戻って、教師になりました。私も、中国語を教えて、20年ほどになります。
――日中の往来が難しくなり、生徒たちの学びにどのような影響がありますか。
韋 生徒たちは、日本にとても興味をもっていて、以前は夏休みに日本に旅行に行っていました。でも今はそれができなくなって、残念に思っています。また、留学に必要な日本語の能力試験が中止になり、留学自体も難しい状況です。
あとは、日本人の先生の募集もなかなか大変でした。ようやく採用が決まったときには、本当にほっとしました。
城間 私の学校でも、中国語ネイティブの先生がいなくなって、1年半になります。これまではずっと中国人のALT(外国語指導助手)がいました。語学を教えることは日本人でもできますが、ネイティブの先生がいないと、生徒たちは、その先生の生まれ育った文化背景に触れることができません。
今は、インターネットで中国の文化を感じられるような動画を探して、授業の最後に見てもらうということをしていますが、そのくらいしかできなくて、すごく残念です。
また、夏休みの短期語学研修や、沖縄県で行う留学の選考試験も中止になってしまいました。日中交流センターの中国高校生長期招へい事業「心連心」で、毎年、受け入れていた優秀な中国人の生徒もいなくて、中国語コースの生徒は、一緒に勉強する相手がいません。だからこそ、今回のオンライン交流はとても意味があると感じました。
韋 本当にそうですね。私の学校でも、毎年、姉妹学校や日中交流センターのプログラムで、生徒たち数名が日本へ留学していました。今回、交流会に参加したクラスの生徒たちも、本来であれば、何名か留学していたはずです。それが全部、中止になってしまい、みんな、オンライン交流をとても楽しみにしていたのです。
台本も何もない中で、生でやり取りをすることの大切さ
――オンライン交流会を行ううえで、大変なことはありましたか。
城間 zoomを使うのも、自分がホストになるのも初めてで、使い方も全然わからず、最初はすごく戸惑いました。こちらで、サポートしてくださる先生がいて、おかげで何とかやりとりできましたが、交流中に、南京外国語学校の生徒さんたちが、画面から消えてしまい、慌ててSNSで韋先生に連絡を取るなどということもありました。
韋 そうでしたね。あとは、生徒たちが作成したパワーポイントの資料が映らなくなったり……。城間先生には、大変ご迷惑をおかけしました。
私はオンライン授業の経験はありましたが、オンライン交流会もzoomも初めてで、最初はとても心配していたのです。でも、城間先生がホストになって、いろいろ準備もしてくださり、本当に助かりました。
他には、交流会に使用した言語教室が小さくて、グループに分かれて交流すると、お互い邪魔になってしまうので、教室をわけたり、場所がないときは、廊下でやったりもしました。
そんな感じで、教師のほうはいろいろありましたが、生徒たちはずいぶん楽しんでいたようです。彼らはネット世代で、普段から友達とSNSで雑談しあったりしていますから、オンラインでの交流にもすぐに慣れたようでした。
城間 こちらの生徒たちも、同世代の中国の生徒たちと、直接交流ができるということで、すごくワクワクして、いろいろな準備をしていました。ただ、実際にオンラインで対面すると、どうしてこんなことになるのだろうというくらいとても緊張して、特にはじめのうちは、自分が覚えた中国語を話すことでせいいっぱいになってしまいました。
それでも、台本も何もない中で、生でやり取りをすることの大切さを体験させることができて、本当によかったと思います。
オンライン交流での学びを高めるために必要なこと
――生徒たちは、それぞれ、日本語または中国語をどのくらい学んでいますか?
城間 交流会に参加した国際文科中国語コースの2年生は、1年生で週2時間、2年生で週3時間、勉強していました。今は3年生に上がり、毎日1時間、週5時間勉強しています。
韋 高校1年生から始めて、2年であれだけ話せたらすごいですよ! 私の生徒たちもみんなびっくりしていました。私たちは語学専門の学校で、中学1年から週に8時間、日本語を勉強しています。参加した高校2年生は、トータルで5年間、日本語を勉強していました。
城間 南京外国語学校の生徒さんたちは、本当に日本語が上手で、こちらの生徒も、みなさんの日本語力にとても驚いていました。しかも、交流するたびに、毎回、どんどん日本語レベルがあがっていくのです。どうしたらあんなふうになれるのでしょう。
韋 それはやはり向陽高校の生徒さんたちと、交流していたからではないでしょうか。実際に、ネイティブと交流することはとても大切です。いくら本を読んで暗唱したり、テレビドラマを見たり、歌聞いたりして勉強しても、直接、話をしないとなかなか上達しません。
城間 おっしゃる通りですね。私の生徒たちはこれまで、ネイティブと直接、話をする機会がなく、中国語が完璧でなくても、まずは言葉を口に出すということが、とても苦手でした。
でも、この交流会を通して、正しいか間違っているか分からないけど、とりあえず話してみるということができるようになったと感じています。実は交流会のあと、ちょっとしたことでも、私に中国語で話しかけてくれる機会が増えました。
――オンライン交流での学びを高めるために、どのような工夫が効果的だと思いますか?
城間 語学学習としては、どのようなことについて交流するか、ある程度、大枠を生徒たちに伝え、それに関してどんな会話が想定されるか、自分たちで想像をしておくということが大事だと思います。まだ、語彙力があまりないので、予想される質問や回答をイメージし、単語や文章を調べておき、それを実際に使って、相手に伝わると、すごく自信がつきますし、次々に話をできるようになります。
交流会でも、はじめは私たち教師が、ブレイクアウトルームを使いこなせなくて、メインルームで、みんなで交流をしていたのですが、少数のグループに分かれるようになると、積極的にチャレンジをしてくれました。人数が少ないと、どうにかして伝える必要が出てくるので、小規模での交流はとても有効だと感じました。
韋 城間先生が、話題や交流の形式など、いろいろ考えてくださって、本当にありがたかったです。そのなかで、私が一番印象的だったのは、一つの課題について、お互いの意見を発表したことです。
今回、フードロスをテーマにしましたが、このような国を超えた地球規模の問題について、若い世代が意見交換するというのは、とてもすばらしいと思いました。
中国でもフードロスが大きな社会問題になっていて、「光盤行動(食べ残しゼロ運動)」のキャンペーンが行われています。私も、生徒たちの発表から、いろいろ学ぶことができました。
城間 私たちも、事前に外部講師を招いて、フードロスの学習会をもち、そこで学んだことを交流会で発表することができ、とても良かったと思います。
さらに交流会のあと、フードロスについて学内でももっと広めたいと、パワーポイントで資料を作って、学年単位の集会で発表した生徒もいました。
オンラインと対面のハイブリッド国際交流へ
――今後の日中交流について、どのようにオンライン交流を活用していきたいと思いますか。
城間 これまで国際交流というと、直接相手のところに行くか、相手がこちらに来るかということだけでしたが、オンラインを活用すると、いろいろな可能性が広がるような気がします。
特に、今回のオンライン交流を通して、画面越しでも、会って話をすると、親しみがわき、つながりができることを感じました。オンラインだけでは物足りなさもありますが、往来が可能になったら、例えば、オンラインで半年間ほど何回か交流し、その後、リアルで会って活動するというようなことができると、とてもよいのではないかと思います。
韋 大賛成です! オンラインは、時間的にも距離的にもとても便利ですが、やはり人と人との直接的なふれあいは欠かせません。オンラインで一つのテーマについて話し合い、また、実際に会ったときに、テーマに関連したポスターを一緒に作るなどできたら、もっと面白そうです。
城間 対面交流、したいですね。これまで、向陽高校で担当した「心連心」事業の中国人生徒は、どの子も本当に優秀で、みんな、一目置いていました。沖縄県で、年に1回、中国語の発表大会があり、そこで、向陽高校の中国語コースの生徒は中国語の司会をするのですが、中国人の生徒は、日本語の司会をするのです。その日本語がすごく上手で、審査員の方が「心連心の留学生はすごい」と、とても感心していました。
そういう生徒を受け入れると、クラスの雰囲気も違ってきます。また、彼らは寮生活をしますので、その中で中国の話題が出たり、お互いに自国の文化を教えあったりして、とてもよい交流ができていたと思います。
韋 私たちの学校も、心連心事業に参加して10年以上、毎年、1~2名の生徒を日本の高校に派遣していました。彼らにとって、1年間の留学は、非常に大切な人生の経験になっていたと思います。中国は一人っ子が多いですから、親元を離れて一人で生活をするというのは、本当に大きなチャレンジなのです。また、交流できるようになることを願っています。
それともう一つ、実は、私たちも日本の生徒の受入れ校になりたいと考えていました。さきほど、城間先生のお話にもありましたが、留学生が一人いると、その国が身近になります。私の学校でも、日本の留学生に来ていただいて、中国のこともいろいろ体験していただけたらすばらしいですね。
城間 その時はぜひ、向陽高校の生徒を受け入れてください。よろしくお願いします(笑)。
取材・文:田中奈美 取材日:2021年10月20日