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参加者インタビュー

日中21世紀交流事業に参加された方々に交流を振り返っていただきました

[オンライン交流会] 対面の代替で始まったオンライン交流が、新たな可能性を開く

 立命館守山高等学校と南京外国語学校は2021年度の半年間、4回にわたるオンライン交流を実施、4回目の交流会では、日中の合同グループが共同でまとめた最終プレゼンテーションを発表した。

 両校は、オンラインという限られた手段で、どのように一つのものを作り上げたのか、そこから生徒たちは何を学んだか。立命館守山高等学校の吉本恵子先生と生徒4名に話をうかがうなかで、進化するオンライン交流の新たな形が見えてきた。

オンライン交流の共同作業で一つものを作り上げる

「First, we would like to welcome Group 1. They are going to talk about “colors and history of modern clothes”. Let’s welcome Group 1!」

写真を拡大オンライン交流時の様子

 パソコン画面の向こうで、立命館守山高等学校の吉本恵子先生が流暢な英語で、元気よく、学生たちに話しかけている。同校のグローバルコース、フロンティアコースで学ぶ生徒たちと、南京外国語学校で日本語を学ぶ生徒たちの、2021年度最後のオンライン交流が始まった。

 日本と中国の生徒たちが日中合同の4グループにわかれ、それぞれ事前に決めた「最近の服の変遷と流行色」「たべもの」「建築と内装」「ポップカルチャー」のテーマについて、プレゼンテーションを行うという形式だ。

写真を拡大修了証書とともに集合写真

 グループ1では、中国の生徒が漢服や中国の人気の色を紹介すると、日本の生徒が日本のトレンドカラーを紹介しつつ、自分の好きな色で外出を楽しむことも大切と締めくくった。グループ2は日本と中国の季節の行事の食べ物で、同じ名前でも全く違う例として「ちまき」を挙げて紹介、グループ3は中国の建築様式や日本のインテリアについて発表し、グループ4は中国で人気の中国版ガチャガチャ「盲盒(ブラインドボックス)」と日本のガチャガチャについて語った。

写真を拡大立命館守山高校の皆さん

 どのグループも、オンラインの画面越しでの連携がすばらしく、阿吽の呼吸で進行していく。中国の生徒が日本人のような日本語で、司会進行をつとめているグループもあれば、日本人の生徒が流暢な英語で発表しているグループもあった。中には、日本語の発表に、中国語を交えて話す生徒もいて、聞いているうちに、だれが日本人で、だれが中国人かわからなくなりそうだった。

 発表のあとは、グループ別のトークルームでしばし別れを惜しんだあと、最後にもう一度、メインルームに戻り、笑顔があふれる集合写真の撮影で、半年間の交流を終えた。

 直接会うことはできなくても、国を超えた共同作業で一つのものを作り上げることができる――そのことに、オンライン交流の新たな可能性を垣間見た気がした。

英語を学ぶ生徒たちが中国との交流に参加した理由

写真を拡大インタビューの様子

 後日、立命館守山高校の吉本先生と4名の生徒に、交流会について話をうかがった。まず、そもそもなぜ、英語を学びたい生徒たちが中国と交流することになったのか。参加の経緯を、吉本先生に語っていただいた。

 「本校では教育方針の一つに国際教育をかかげ、他国の人たちとどのようにつながっていったらよいかというマインドを育てることを目的としています」と、吉本先生。

写真を拡大吉本先生

 「従来はさまざまな渡航プログラムがあったのですが、コロナ禍で海外に行けなくなり、昨年度はオンラインの文化交流をメインとしたプログラムを行いました。今年度は、さらに一歩深め、生徒たちが互いに意見を交わし、一つのものを作り上げる試みをしたいと考えていました。それで、この交流会のお話をいただいたとき、ぜひ、参加したいと思ったのです」

 実は2021年度は、東アジア探究プログラムという形で、中国以外にも、韓国、台湾といった国・地域との交流プログラムを同時に行ったそうだ。

「そこには、生徒たちに、もっとアジアに目を向けてもらいたいという思いがありました」と、吉本先生は話す。

「コロナ禍のオンライン交流でも、英語を使った欧米との交流だけではないところに興味を持ってもらいたかったのです」

 ただ、生徒たちの間には英語を使いたいという思いも強かった。

「そのため、英語で交流できる中国の高校をリクエストしました。ところが、実際に交流してみると、南京外国語学校のみなさんは日本語が非常に上手で、本校の生徒たちからも、『日本語での交流がこんなに楽しいとは思わなかった!』という声を聞きました。結果的にこれまでにない形となり、とても良かったと思います」

 では、生徒たちのほうは、どのようなきっかけで参加したのだろうか。

写真を拡大佐野さん

 客室乗務員になるのが夢だと話す高校3年生の佐野梨々奈さんは、コロナ禍以前、中国からの訪日客の多さに、将来、中国語の勉強も必要になるのではないかと興味を持ったそうだ。4月から進学予定の立命館大学国際関係学部では、中国についても勉強したいと考えており、その前段階として、中国の文化や日本との違いを知りたいと思ったことが、参加のきっかけとなった。

写真を拡大田中さん

 同じく高校3年生の田中優衣さんも、立命館大学国際関係学部に進学予定。高校1年生の頃からさまざまな国の人と積極的に交流してきたが、欧米の人々との関わりが多く、アジアとの関わりはあまりなかった。隣国なのにあまり知らないと感じたことが、参加のきっかけになったと話す。

写真を拡大坂元さん

 高校2年生の坂元姫奈さんは、部活動に入っておらず、時間がある分、海外の方と交流してみたいと考えたそうだ。また、高校2年生の堀池美湖さんは、小学生の時、外国人とのワークショップに参加し、海外との交流に興味を持ったという。これまでは短期の交流だったが、今回は半年にわたるオンラインのプログラムということで、参加をしてみようと考えた。

交流の成功の背景にあるリサーチと創意工夫

 4回行われた交流会の初回はまず、日中合同の4グループに分かれ、それぞれ自己紹介と学校紹介をするところから始まった。続く2回目はバーチャルビジットツアーでお互いに打ち解け、3回目は最終プレゼンのトピックをグループごとに話し合うという共同作業で、徐々に関係を深めていった。

写真を拡大滋賀のすごろく

 特に2回目のバーチャルビジットツアーは、日本側は事前に比叡山延暦寺でフィールドワークを行い、比叡山や滋賀県に関するクイズを作成、中国側は南京に関するクイズを作成し、それらをすごろく形式で回答しあうというユニークな会となった。

 これが大いに盛り上がったそうで、司会をつとめた堀池さんに成功の秘訣をたずねると、「司会は3人でやったのですが、私たちがまず楽しむようにしました。あと、わからない問題も多かったんですけど、ヒントを出したりして、少し分かりやすくしました」とのこと。南京の市花を聞くクイズには、みんなで首をひねったという。ちなみに答えは梅である。

 実は、このすごろくは、吉本先生からの提案だった。

「交流プログラムへの参加が決まった時、どういうことをしたら両国の生徒が面白いかと思い、いろいろリサーチをしました」と、吉本先生は話す。

写真を拡大南京のすごろく

 その中で、日中交流センターのプログラムで大学生たちがすごろくを活用したオンライン交流を行っているのを見た。

「具体的にどう実践されていたのかは全く分からなかったので、同じ形式ではないかもしれませんが、生徒たちの機転もあって、何とか形になりました」と、吉本先生。

 その他に、Padlet(パドレット)というオンライン掲示板の活用も、吉本先生の発案だ。これはもともと他校との交流で利用していたそうだ。トピックごとに交流の場を設け、そこで写真や動画などを共有したり、コメントを書き込んだりすることができる。

写真を拡大堀池さん

「オンライン交流はその場での対応が必要で、即時性や瞬発力が求められます。一方、Padletはじっくり推敲してから投稿できるので、Padletを活用してこそできる交流もあるのではないかと考えました」

 ただ、残念ながら生徒たちからの発信が少なく、その点が課題だと吉本先生は感じている。

 実際に使ってみた感想を、生徒に聞いてみた。

写真を拡大佐野さん

 「PadletはSNSと違っていて……」と佐野さん。「自分の投稿に反応があっても通知がなく、毎回チェックして、返事がないとがっかりしたり、しばらく見てなかったら、返事が来ていたりで、やり取りがなかなか難しい」と感じたそうだ。

 しかし、プレゼンのスクリプトなどの共有には非常に有効で、最終プレゼンの準備ではPadletに使いたい写真や話したいトピックを投稿、それらを南京外国語学校の生徒たちがスライドにまとめるという連携に活用した。

交流を通じて一変した中国のイメージ

 今回の協働作業という交流を通して、生徒たちはどんなことを感じただろうか。

 前述の佐野さんは、もともと、近年の日中関係悪化の報道から、中国人は日本をあまりよく思っていないという印象を持っていたという。しかし、実際に中国の生徒と話をして、個々人の考え方は違うということを知った。

 「今後、大学生や社会人になって、外国の方と関わる時、特定の国籍でその人を判断するのではなく、もっと一人一人を見て話をしていきたいなということをすごく思いました」と、語る。

写真を拡大田中さん

 佐野さんと同様、春から大学生になる田中さんも、個人に目を向ける。

「以前、中国の留学生とランチをしたことがありました。その時、その子がご飯を残して、なんでだろうと思ったのですが、実はそれが、食べきれないぐらい出してくれてありがとうという意味だと聞いて、そういうところに文化の違いがあるのだと感じていました」と、田中さん。

写真を拡大坂元さん

 今回の交流では、北京冬季五輪のマスコットキャラクターの話題などで盛り上がり、メディアでは取り上げられない、中国のリアルな人々の話を聞けたことが大きな学びとなったそうだ。

 また、高校2年生の坂元さんと堀池さんは、交流前、中国にはあまりいいイメージを持っていなかった。しかし、協働作業を通じて、すっかりイメージが変わったと話す。特にすごろくで司会をつとめた堀池さんのグループは、毎回、話が盛り上がり、お互いによく笑った。

写真を拡大堀池さん

「中国の人はこんなに明るいんだと思いました。みんなと話すのが楽しいと思えるぐらい話しやすかったです」と話す堀池さんから、楽しい時間を過ごしたことが伝わってきた。

これからのオンライン交流を進化させる一つのこと

 「中国に、より興味を持てた生徒も多かったのではないでしょうか」と、吉本先生は交流を振り返る。

 「オンラインでの交流は、コロナ禍で訪問ができないことの代替として始まったものだと思うのですが、今回、同じメンバーと半年間、継続して交流できたことで、非常に学びを深めることができました」

 はじめは自信のなさそうだった生徒も、司会を任されたことで、次第に自信をつけていったようだと、吉本先生は感じている。

「また、自分がよく知らない人に対して、どう接するべきかというソーシャルスキルも、身に付けてくれたのではないかと思います」

 吉本先生自身、大学生の時に、アジアの人々と交流する中で、価値観が変わる経験をしたそうだ。だからこそ、これからの生き方を決める高校生の時期に、いろいろな人と接してほしいと願っている。

「交流のツールについて、今回はPadletを使いましたが、いろいろなものをいろいろな形で、柔軟に使っていきたいと考えています。もしかしたら生徒のほうが、よりスムーズに交流できる方法を知っているかもしれません。生徒とも相談しながら進めていこうと思います」

 一方で、「オンラインはもうお腹いっぱいという生徒が多い」という現実もある。そうした生徒たちに、これまでにない新鮮さを感じてもらうには、オンライン交流を通して、いかに実体験を取り入れるかが重要だと、吉本先生は指摘する。

 今回の交流でも、その点に、非常に注力したそうだ。比叡山のフィールドワークやすごろくもその一つ。また、生徒一人一人が、南京外国語学校の生徒に手紙を書いて送ったり、冬休みに3日間の中国語講座を開催したりもした。

「そうして、生徒の経験につながるアクティビティをいかに組み込むかが、これまでにない交流体験になるのではないか」という吉本先生の言葉は奥深い。

 コロナ禍でのオンライン交流が始まって約2年。先生の信念とアイデアと、生徒の実践力と学ぶ力によって、オンラインの活用は、代替から新たな交流の形へと、進化しつつあるようだ。

 取材・文:田中奈美 取材日:2022年2月21日

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