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参加者インタビュー

日中21世紀交流事業に参加された方々に交流を振り返っていただきました

[オンライン交流会]中国高校生長期招へい事業で日本に留学し、故郷の母校で日本語教師になった卒業生が語る、交流に大切な3つのこと

 石家庄外国語学校と福岡市立福岡西陵高等学校のオンライン交流会は、西陵高校が招いた外部講師がSDGsについて講義を行い、日中の生徒たちがグループディスカッションするという形式で行われた。交流は5回にわたり、生徒たちは、気候変動、生物多様性・食、テクノロジー、文化と芸術、貧困・平和の5つのテーマを学んだ。

 実は、この交流会を担当した石家庄外国語学校の王珏先生は同校日本語学科の出身で、「心連心:中国高校生長期招へい事業」6期生として、埼玉県立蕨高等学校に1年間留学した経験を持つ。帰国後は北京外国語大学に進学、在学中に京都大学に留学し、2020年に、母校で日本語教師となった。

 王先生に今回の交流会と、王先生のこれまでの歩み、これからの国際交流と相互理解について語っていただいた。

中国で馴染みのないSDGsが生徒たちに与えたインパクト

――まず、オンライン交流について、中国の生徒たちの反応はいかがでしたか?

写真を拡大王珏先生

王先生 実は、中国ではこれまで、SDGsに関するニュースが少なく、一般的にはあまり馴染みがありません。そこで、最初の講義では、SDGsがどういうものかというところから、説明していただきました。

 生徒たちにも、この新しい概念を受け入れてもらうために、少し工夫をしました。もともと、聞いたことがない言葉でしたので、SDGsがどのようにいつ定められたのか、いろいろお話をうかがいました。

 生徒たちにとって、一番インパクトのあったことは、SDGsが国連サミットで採択され、各国で実施されるものであると同時に、実は国だけでなく、社会全体、そして自分自身にも関係があるという点です。

 従来、政治といえば、国のリーダーが決めるもので、自分たちの力で変えられるものではないと思っていましたが、SDGsの「Think globally,  Act locally」というコンセプトを通じて、グローバルな視点を持ちつつ、身近なことから見直していくという考えを知り、生徒たちは大きな影響を受けました。

 例えば1回目の気候変動の講義で、牛のゲップが温暖化の要因の一つになっていることを学ぶと、「これから、食堂でできるだけ鶏肉のメニューを選ぶ」と話す生徒がいました。

 またこれまで、授業のあと、私が教室の電気を消していたのですが、生徒たちが積極的に消すようになりました。夏の教室のエアコンも、温度設定をもう少し高めにして、自分たちが我慢しようと言うようになり、環境に対してとても関心が高まったと感じています。

――講義は日本語で行われたそうですが、中国の生徒たちは聞き取れましたか?

写真を拡大オンライン交流会の様子1

王先生 6割の生徒は、90%ほど聞き取れたと思います。これには、私もびっくりしました。私でも聞き取るのに一生懸命だったくらいですが、生徒たちに内容を確認したら、ほとんど理解していました。

 中には、理系の生徒で、日本語力が弱い者もいるのですが、そんな彼らも参加メンバーに聞くなどして理解をしていました。

――参加したメンバーは全員、日本語学科の生徒ですね?

王先生 日本語学科の生徒13名です。主に高校1年生と2年生で、3年生も少しいました。生徒たちは当校で、中学1年のときから日本語を勉強しています。高3は全員N1(日本語能力試験1級)の資格を持っていますが、その他の学年はN2やN3の生徒もいます。

 この交流会では、毎回、準備に時間をかけました。せっかくのチャンスなので、効率よく学んでほしいと思って、私がたくさん宿題を出したのです。生徒たちは、「普段の勉強も大変なのに、なぜ、そこまでやるのか」と猛反対しましたが、一生懸命説得して、なんとかやってもらいました(笑)。

――どんな準備をしましたか?

王先生 講義の5つのテーマから興味のあるものを選んで、資料を深く調べ、それを日本語でレポートにまとめるという課題です。文法が100%正しくなくてもかまわないので、日本語の文章にまとめてほしいと思いました。

 それを私が添削して返し、修正した後、授業で発表してもらいました。専門用語などは、発表する生徒が、パワーポイントで資料を作成したり、あらかじめ黒板に書いたりして、他の生徒たちも理解できるようにしました。

 そうして、自分の調べたものをみんなにシェアするという経験はとてもよかったと思います。日本語があまり得意ではないと思っている生徒は、交流会で聞き取れなかったらどうしようと戸惑っていたのですが、自分で作文を書いて発表することで、日本語力も伸び、日本語で交流することへの恐怖心が薄らいだようです。

交流を通して、日本とのつながりを見つける

――今回の交流で、どんなことを学んでほしいと思っていましたか?

写真を拡大オンライン交流会の様子2

王先生 最初に考えたことは、日本とのつながりを見つけてほしいということです。日本語学科の生徒は、日本の漫画やゲーム、文学などが好きで、日本語に興味を持ったという子が多いのですが、これから先、大学進学や就職でどうしていきたいのか、自分と日本語の関係を考えてほしいと思っています。

 これは私自身もそうだったのですが、12歳で日本語学科のある学校を選んだという決定が、自分の人生にどのような影響を与えるのか、生徒たちはこれから考えていくことになります。ですから、このオンライン交流会を通して、例えば日本の先端技術を学びたいから物理を勉強するなど、どのようなことでも、日本とのつながり見つけてほしいと考えました。

――交流会で、糸口はみつかりましたか?

王先生 直接、進路に影響したということはないのですが、例えば、戦争などで家を失くした難民が、虹彩認証で難民登録を行い、それによって避難先で、キャッシュレスで買い物もできるという技術は、理系の男子生徒たちにとても印象深かったようです。

 彼らにとって、科学技術は経済を発展させるためのものだという意識でしたが、実はそれだけではなく、人命を助けることにもつながると知り、科学技術に対する認識が広がりました。

 他にも、ささいなことで、違う世界を感じることができたという体験談もありました。例えば、睡眠不足が話題になったとき、中国の生徒が、帰宅後も夜中まで復習や宿題をして寝不足だというのに対し、日本の生徒は家に帰るとリラックスして、スマホをいじっていたら夜更かししてしまったという話で、それを聞いた中国の生徒は、「世界にはこんな幸せな寝不足があるのか」と衝撃を受けていました。

――石家庄外国語学校の生徒は日本語レベルがとても高いですが、どのような教育をしていますか?

写真を拡大オンライン交流会の様子3

王先生 本校の日本語教育は1998年から始まり、もう24年になります。実は2009年に、生徒たちの探求心やコミュニケーション能力を養う「四環節」というオリジナルの教育モデルを導入しました。これは、日本語教育だけでなく、すべての学科で取り入れています。

 例えば、物理で力学を学ぶとき、教師が生活の中で力学に関する課題を出します。生徒たちは、なぜそのようになるか自分なりに理解し、グループで話し合います。次に、各グループの代表者がクラスで発表し、それについて教師や他の生徒たちがコメントします。最後に、それらの意見を踏まえ、自分の学習プロセスを振り返り、自分を評価する能力を鍛えます。

 日本語の授業では、これを主に日本語で行います。私も、中学のときこの方法で、日本語を学びました。当時は、生徒が間違った発表をしたらどうするんだろうと思っていましたが、間違った内容の発表でも、それを聞いていると、こんな間違いをするんだという発見があったり、なぜ間違ったのかを分析することができたりして、自分のためにもなったと思います。

――王先生が、心連心6期生として、日本に留学したときは、ちょうどそのころですね?

王先生 そうですね。中学3年のときでした。もともと、日本に留学するつもりはなかったのですが、仲のよい友人が応募するというので、じゃあ、その子と一緒に1年間日本に行ってもいいかなと、そんな軽い気持ちで申し込みました。

――高校での留学は、王先生にどのような影響を与えましたか?

王先生 いろいろありますが、1つ目は大学進学ですね。理系に進むつもりでしたが、日本のことをもっと知りたくて、日本語も勉強し続けたいと思い、北京外国語大学に進学しました。

 2つ目は仕事の面です。実は、教師になって1年半のとき、日本語教師のコンテストで全国2位をいただきました。入賞した他の先生は教師経験10年以上のベテランの方ばかりで、自分でもびっくりでした。これは、高校で日本に留学し、日本の社会や文化に触れていた影響が大きいと思います。また、当時から日本語のスピーチコンテストなどに参加していたので、緊張せずのぞむことができました。

 それから、生活面での影響も大きいです。ホストファミリーのお母さんに料理やお菓子づくりを教えていただいて、「女子力」も鍛えられました(笑)。

 もう一つ、少し遠い未来の話かもしれないですが、今後、結婚して、子どもを持つことになったとき、子どもへの接し方も変わってくると思います。

 中国では、子どもの将来のために、親がなんでも決めるという家庭が多いです。私自身、中学のときは親が何でも決めてくれて、私は何も考える必要はありませんでした。これは、中国では本当に自然なことで、誰も悪いことだと思いません。

 でも、日本では、制服や部活動から旅行の行程まで、何でも自分で決めなければなりませんでした。最初は本当に迷いましたが、1年間、日本で暮らし、子どもに決めさせるためには、子どもへの信頼と尊重が必要だということに気づきました。子供が選ぶものは、一番よいものではないかもしれません。しかし、そのように子どもに選ぶ自由を与えると、親にとっても、自分が子どものために最良の選択をしなくてはいけないという焦りがなくなるのではないかと感じています。

真心を込め、生徒のため、自分のために頑張りたい

――日本語教師になりたいと思ったきっかけは?

写真を拡大オンライン交流会の様子4

王先生 心連心で留学したころは、外交官になりたいと思っていました。でも、京都大学に1年間、留学にしたとき、みんなに日本のことをいろいろ教えてもらうなかで、こんな風に人に教えることができたらいいなと感じました。また、帰国後、日本語の家庭教師のアルバイトをしたこともきっかけの一つです。

 もう一つ重要なきっかけは、高校留学当時、ボランティア活動を通じて知り合った方の言葉です。とてもお世話になったので恩返しをしたいと思っていたのですが、その方には、「私に返すのではなく、いつか大人になったら、それを他の人にあげてね」と言われました。その言葉はいまでも覚えています。

――生徒たちには、国際交流や相互理解について、どのように学んでほしいと思いますか?

王先生 まずは、自信を持って交流会に参加してほしいですね。これが本当に一番大切なことだと思います。この自信には、自分に対する自信と、自分の国や自国の文化に対する自信の両方があります。ただ、自国の文化への自信といっても、中国のほうが何でもよいとか、逆に日本のほうが何でもよいというのは間違いだと思います。

 自信の前提には、自国の文化をきちんと勉強して理解することがあります。その上で交流をすると、より客観的にいろいろなことを考えることができるのではないでしょうか。

 2つ目は、理解できないことを避けようとせず、きちんと相手の話を聞いてほしいということです。違いを無視して、避けていては、一生、理解することはできません。たとえ相手が間違っていると思っても、相手を尊重し、その声に耳を傾けて交流することが大切だと感じています。

 3つ目は、交流の目的を持つことです。ただ、質問に答えるというだけではなく、自分が何を知りたいのかをあらかじめ考えて交流してほしいと考えています。

――王先生は、今後、どのような先生になっていきたいですか?

王先生 私は、生徒たちと一緒にいる時間が好きです。どんな悩みがあっても、仕事がどれほど大変でも、教室に入ったらすべて忘れて、その時間だけは生徒と向き合って、彼らと一緒に勉強することが大好きです。

 これまでは自分の勉強のことばかり考えていましたが、今は、私が伝えたいことをどうやって生徒たちに伝えるかを考えるようになりました。

 教師も学び続けなければ、生徒に教えられる知識は限られます。もっといろいろ学んでいきたいのですが、今は仕事が忙しく、自分の学びと仕事の時間のバランスに悩んでいます。

 それでも、後悔しない教師でありたいと考えています。仕事をしていくうえで、いろいろ、後悔することがあるかもしれません。失敗することもあるでしょう。たとえそのようなことがあっても、いつでも、真心を込めて、生徒のため、自分のために頑張りたいと思います。

 取材・文:田中奈美 取材日:2022年4月26日

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