参加者インタビュー
Interviewインタビュー
日中21世紀交流事業に参加された方々に交流を振り返っていただきました
日中高校生対話・
協働プログラム
来日中の中国の先生に聞く、オンライン交流会の意義と高校生の交流に活かせる日本語教師研修
協働プログラム
コロナ禍に始まった「日中高校生対話・協働プログラム」は、日中の高校生をオンライン交流会でつなぐ新たな試みとして、これまで両国の多くの高校が参加してきました。
その一校である中国湖北省・黄岡市外国語学校で、オンライン交流会を担当した黄華先生が2023年1月、国際交流基金日本語国際センターが実施する中国中等学校日本語教師研修に参加するため、来日しました。
黄先生に高知県立高知東高等学校とのオンライン交流、日中国交正常化50周年を記念し寄贈された日本文化用品と、それを活用した茶道オンラインセミナーのエピソード、来日研修のなかで今後の交流に活かせそうな学びなどについてうかがいました。
全校生徒3000人のマンモス校で日本語を教える
――黄華先生と黄岡市外国語学校の日本語学科についてご紹介ください。
黄先生 私は湖北省黄岡市の出身で、日本語を勉強し始めたのは2009年、大学1年のときです。もともと外国語に興味があり、英語を勉強していたのですが、英語ができる人はとても多いので日本語を選びました。
大学院でも日本語を専攻し、新潟大学に1年間、留学しました。大学院修了後は、黄岡市外国語学校で日本語教師になり、以来約7年間、この学校で教えています。日本語のおかげでこうして日本に来ることができ、とてもうれしいです。
黄岡市外国語学校には中学1年から高校3年まで約3000人の生徒がいます。中学では第二外国語の選択科目として日本語を学びます。高校では日本語学科があり、1学年50人が日本語を学んでいます。
新型コロナウイルス感染症が蔓延する前は、日本人の先生がいて、生徒は日本へ1か月間、語学研修に行く機会もありました。国際交流基金の「心連心:中国高校生長期招へい事業」で日本に留学した生徒もいます。
そのほかにも、毎年、日本文化を体験する文化祭のような大きなイベントを開催していて、これは全国的にも有名でした。しかし、コロナ禍ですべて中止となり、日本人の先生も帰国してしまったため、生徒たちは日本人と直接交流する機会がなくなってしまいました。
そうしたなかで、「日中高校生対話・協働プログラム」のお話をいただき、日本の高校生とオンラインで交流できるとうかがって、本当にとてもありがたかったです。
教師もWeChatを活用し、オンライン交流会を盛り上げる
――高知東高校とのオンライン交流会はいかがですか?
黄先生 高知東高校の尾崎先生が尽力してくださったおかげで、とてもスムーズに交流できました。2021年度に現在の高校3年生が3回、2022年度は現在の高校2年生が2回行い、毎回約20名の生徒が参加しています。
交流会では、生徒たちが興味のある身近なテーマを選び、日本と中国それぞれのグループごとに発表しあい、最後に質疑応答をします。いつも話が盛り上がり、時間が足りないくらいです。
興味のあるテーマだと、発表のあとすぐ質問が出ることもあります。中国の生徒の日本語がつたなくて、きちんと伝えられないときは、私もサポートしました。
発表テーマは、中国側は学校の生活や地方の有名な料理、観光地などが多く、日本側は日本料理やお薦めの漫画、本などを紹介してくれました。なかには日本のネイルについての発表もあって、中国の生徒たちはみんなびっくりしました。
――オンライン交流会のほか、WeChatでの交流もあったとうかがいました。
黄先生 交流会が最初からとても盛り上がり、生徒同士でWeChatの連絡先を交換することになったのです。その後、生徒間で個人的な交流も続いているようです。
日本の生徒がWeChatに普段の生活の様子を投稿してくれるので、中国の生徒たちはそうした書き込みを通じて、リアルな今の日本に触れる機会も増えました。
私も尾崎先生とWeChatを交換し、交流会前にはテーマなどについて相談するようにしています。尾崎先生は上海の日本人学校にいたことがあり、少し中国語がわかります。私は中国語でメッセージを送るときがありますが、尾崎先生はそれを理解し日本語で返事をしてくれます。
実は尾崎先生は国語の先生なので、オンライン交流会のこと以外でも、作文の添削や日本語の問題などでわからないことがあると、いろいろ教えていただいています。本当にとてもやさしくて、「質問があったら、どんどん出してください」と言ってくださるので、すごく安心します。
授業で伝えられないことも、高校生同士の交流で理解が深まる
――オンライン交流会を通して、生徒にどのようなことを学んでほしいですか?
黄先生 外国語を学ぶというのは、他の国の人と交流し、その国の文化を直接体験することができる、とてもよいチャンスだと思います。
特にオンライン交流会では、同じ年ごろの日本の生徒と交流することができます。これはとてもすばらしくて、私が授業ではなかなか伝えられないことも、生徒同士で話をするとすぐに理解できます。
このような交流を通して、生徒はもっと日本に興味をもつようになります。将来的に留学なども視野に入れて、さらに深く日本語を学んでいってほしいと思っています。
茶道オンラインセミナーで初めての日本文化体験
――2022年5月、国際交流基金は日中国交正常化50周年を記念し、中国の高校全35校に着物や浴衣、ひな人形、こいのぼり、かるた、茶道具などの日本文化用品を寄贈しました。黄岡市外国語学校にも届いたとうかがいました。
黄先生 学校にとても重い箱が何個か届きました。それで日本語学科の生徒数名に、日本語活動室に運んでもらいました。箱を開けたら、日本文化を体験できるものがたくさん入っていてとてもびっくりしました。
特に男性用の着物と浴衣はありがたかったです。学校にも浴衣はあるのですが、女性用の2枚だけでしたので、荷物を運んでくれた男子生徒たちが大喜びしていました。
それから教師用の「よくできました」「もっとがんばりましょう」などのスタンプは、採点のときにとても役立ちそうでうれしいです。
――寄贈した茶道具を使って、茶道のオンラインセミナーにもご参加いただきました。セミナーはいかがでしたか?
黄先生 もともと日本語学科の生徒たちが学校に来て、全員で参加する予定だったのですが、ちょうど中国で新型コロナウイルス感染症が流行中だったため、学校でオンラインセミナーを体験できたのは3名だけでした。残りの生徒たちは自宅からセミナーを見学しました。
この参加した3名は特に大変だったと思います。彼らが日本語を勉強し始めたのはコロナ禍でしたから、このような文化体験自体がはじめてでした。セミナーの1週間前から、日本の茶道についてのビデオを何十回も見て勉強しました。
また、私とこの3名でWeChatグループを作り、役に立ちそうなビデオを見つけたらシェアしあいました。そのため、当日は比較的落ち着いてできたと思います。無事に終わってほっとしました。
オンライン交流会は聞く力と話す力が鍛えられ、文化理解の面で役にたちますが、一方で、茶道のセミナーのような体験会があると、事前にそれについていろいろ調べることで理解を深められますし、茶道の先生とも交流できてすごく勉強になりました。
私たちの学校でも今後このような体験イベントをやってみたいと思います。ちょうど文化用品もいただいたので、いろいろ活用できると思います。
来日研修で知った日本語の教材を、生徒の交流にも活用したい
――いま、日本で国際交流基金日本語国際センターの日本語教師研修に参加されています。参加のきっかけは何でしたか?
黄先生 実は3年前、国際交流基金で授業案コンテストに参加して一等賞をいただきました。その後、日本で研修を受ける機会があったのですが、コロナ禍で日本に行けなくなりました。かわりにオンラインでの研修会が開催され、私も2回参加しました。3回目でようやく日本に来ることができました。
オンライン研修は、内容的には今回の研修と似ているのですが7コマで短く、今回は一カ月半なので、とても具体的ですし、実際に日本にいることで、いろいろ学ぶことも多いです。
日本語の教え方だけなく、日本文化について学ぶ機会があり、先日はふろしきの使い方を授業で受けました。ふろしきがあんなにたくさんのことに活用できると知って、すごくびっくりしました。
以前、国際交流基金から寄贈いただいた文化用品にはふろしきもあったので、帰国したらぜひ、生徒と一緒にやってみたいと思います。それから、今回の研修で「ひきだすにほんご」のビデオ教材を知りました。
――国際交流基金がNHKエデュケーショナルと共同で制作したものですね。
黄先生 ドラマ仕立ての教材で、主人公のスアンはベトナム人です。最初は、自分の日本語に自信がなかったのですが、周りの人からいろいろ日本語の使い方を学んで、最後は自信を持って、流暢な日本語を話せるようになるというストーリーです。
これはぜひ、私の生徒にも見せたいです。生徒たちもゼロから日本語を始めたので、まだあまり自信がありません。ビデオでは、どのように人に話しかけたらよいか、悩んだときにどのように相談したらよいかなど、具体的なさまざまな場面で、実際の日本語の活用を学ぶことができます。
これを生徒たちにも見てもらい、自分なりの表現や伝え方を見つけてほしいと思いますし、オンライン交流会などで、日本人と交流するときにも役立つと思います。日本語があまり上手でなくても、交流はちゃんとできるということをぜひ伝えたいです。
日本語を通して日本文化のよい面を学んでほしい
――今後の交流でやってみたいことはありますか?
黄先生 一つはオンラインで交流してきた高知東高校と、実際にお互いの学校を訪問しあい、生徒に文化理解を深めてほしいと思っています。尾崎先生も状況が落ち着いたら、生徒をつれて黄岡を訪問したいとおっしゃっていますし、私も生徒たちと高知に行きたいと強く感じています。
ただ、やはり全員の生徒を連れていくことはできませんし、高校生のうちは海外に行くこともなかなか難しいです。そういう意味でもオンライン交流は貴重な機会です。このような経験を、留学など卒業後の進路につなげていってほしいと思います。
それから、先日、尾崎先生がこれまで日中交流に尽力されたことを高知県教育委員会教育長から表彰されたとうかがいました。実は、黄岡市は日本での姉妹都市がないので、私たち両校の交流が、黄岡市と高知市との姉妹都市締結にまで発展したらすばらしいと思いますし、そのような働きかけもしていきたいです。
――最後に、交流活動に参加した生徒にどのような大人になってほしいですか?
黄先生 私は授業でよく、「みなさんは日本語を勉強しているのですから、日本人のように教室をきれいに掃除して、整理整頓しましょう」と言っています。
日本語というのは、やはり日本文化につながっていますから、生徒には、言葉だけなく、日本文化のいろいろなよい面を学んでほしいと思っています。
改めてこの3年を振り返ると、生徒たちは日本人の先生が帰国してから、日本の文化を実体験できるチャンスがありませんでした。でも、オンラインの交流会やセミナーは、新しい方法を見つけるきっかけになりました。
国際交流基金からいただいたこれらのきっかけを、大切にしていきたいと思います。
取材・文:田中奈美 取材日:2023年2月8日