参加者インタビュー
長崎県立壱岐高等学校の中国語コースと、杭州外国語学校の日本語コースの交流は、両校の生徒たちにとって、オンラインを超え、暖かく心を交わす深い体験となった。
両校はどのように交流を深めたのか、生徒たちはどのような学びを得たのか、壱岐高校の深川先生と杭州外国語学校の唐先生、交流会に参加した日中両校の4名の生徒たちに、座談会形式で語っていただいた。
離島留学制度のある壱岐高校と中国初の外国語学校の一つである杭州外国語学校
――それぞれの学校と、中国語または日本語のコースについてご紹介ください。
深川先生 長崎県の離島である壱岐では、地域の活性化のため、平成15年から離島留学制度を始めました。これは、全国から学生を募り、特色ある教育活動を行うという県の取組です。この制度のもと、本校で実施しているのが、「東アジア歴史・中国語コース」です。
壱岐島は、古くから大陸と日本を繋ぐ拠点で、貿易・交通・文化の要衝でした。『魏志倭人伝』にも登場する「原の辻遺跡」からは、大陸との往来を示す遺物も出土しています。そのような歴史的背景から、このコースが設立されました。
今回、オンライン交流会に参加した中国語専攻の生徒たちのなかには、離島留学で島に来た生徒もいます。
唐先生 杭州外国語学校は、1964年に、当時の周恩来総理と陳毅外交部長の指示のもと設立された中国初の外国語学校7校のうちの1校です。英語教育を基盤とし、多彩な才能を育み、国際的な視野を持つ学生を育成することを目標としています。
日本語学科は2014年に設立されました。中高一貫で、生徒たちは中学2年生から日本語を学び始めます。今回の交流では、日本語学科の高校2年生の各クラスから、11名が参加しました。みんな、日本語や日本にとても興味をもっています。
ボーカロイド曲がきっかけで日本語を学ぶ
――生徒のみなさんの自己紹介と、中国語または日本語を学んだきっかけを教えてください。
大森さん 壱岐高校2年の大森です。中学生のときに、英語を学んでいたのですが、あまりこれという夢も思い浮かびませんでした。でも、中国はニュースでもよく見ますし、地元に中華街もありました。日本人でも中国語を話している人がいて、すごいなと思い、自分も将来、中国語を使う仕事に就きたいと考えるようになりました。
岩永さん 壱岐高校2年の岩永です。私はもともと、人と関わることが好きで、中学生の時には、英語圏のネイティブの先生とよく話をしました。英語圏ではない国の人とも、もっと話したいと思ったとき、一番身近な外国が中国でした。
街中で中国語を見かけることも多く、今後、外国と関わっていくために、中国語は必要だと考えて、中国語を学び始めました。
邵さん 杭州外国語学校の邵です。高校2年です。日本語に興味をもったきっかけは、中学生の時、毎週末、見ていたアニメの「名探偵コナン」でした。このアニメが大好きで、そこからだんだん日本語も好きになりました。
陳さん 杭州外国語学校の陳です。高校2年です。僕の趣味は音楽と読書で、時々、自分でも曲を作ります。日本語を学んだきっかけはボーカロイド曲(※)でした。14歳のとき、wowaka の「ワールズエンド・ダンスホール」というボーカロイド曲を聞いて、すごく感動して、心に残りました。それから、ボカロと日本語が好きになりました。
※ボーカロイド™ ヤマハが開発した音声合成技術。通称ボカロ。
日本語と中国語で作文を書いて発表しあった交流会
――生徒のみなさんから、オンライン交流会について教えていただけますか。
大森さん オンラインでの交流は、全部で4回、行いました。1回目は自己紹介で、僕は釣りが好きだという話をしました、中国の高校生は、あまり釣りをする機会がないそうで、興味を持ってもらえてうれしかったです。
2回目は好きなアニメや音楽など、3回目は休日の過ごし方と学校行事について、4回目はお互いの教科書を見せ合って、違いなどについて話をしました。
3人くらいのグループに分かれて、グループトークをしたので、お互いにいろいろ話をすることができたと思います。
陳さん 交流会では、事前に、自分が話したいテーマを決めて、作文をしました。僕たちは日本語で、壱岐のみなさんは中国語で書いて、それをグループ内で発表しあってから、質問をしたり、感想を言ったりしました。
この作文が一番難しかったです。まず、先生の指導のもとで原稿を書き、完成してからもう一度、先生に見てもらい、音読の練習をしました。言いたいことは多いのですが、日本語でどう表現したらよいか悩みました。
最終回は作文がなかったので、ちょっと気が楽でした。それと、みんなで「蛍の光」を歌いました。この歌は、中国語では「友谊天长地久(永遠の友情)」というタイトルなのです。
プレゼントとメッセージカードで交流を深める
――オンライン交流会以外での交流も盛り上がったとうかがいました。
岩永さん クリスマスに壱岐から杭外の生徒の皆さんへプレゼントとクリスマスカードを送りました。プレゼントは深川先生がアニメのキャラクターのついたシャープペンシルを選んでくださいました。
カードは、私たちみんなで、杭外の生徒一人ひとりに宛てて、日本語と中国語で書きました。私は散歩が趣味だという子に書いたので、「中国で会えたときは、一緒に、杭州の町を歩きたいね」とか、そんな内容です。
邵さん 受け取ったときはすごくうれしかったです。みなさんからのメッセージはとても温かく、心のこもったプレゼントにも、本当に感動しました。それで、私たちも冬休みにお礼のメッセージとプレゼントを計画しました。もうすぐ日本に届くと思うので、楽しみに待っていてください。
――オンライン掲示板アプリ「Padlet」でも、充実した交流をされているようです。「自己紹介」「休日の過ごし方」「春節」「北京五輪」「私の好きなもの」などのテーマで、みなさん、いろいろ投稿されています。
邵さん オンライン交流会のときは、みんなとても緊張していました。でも、Padletでは、趣味や身近な生活の話題などを、気軽に投稿できます。写真や動画も投稿できるので、壱岐の海はこんなにきれいなんだとか、みんなの写真かわいいなとか、リアルに感じられて、とても興味深かったです。
私も、冬休みに杭州で、珍しく雪が降ったときは、北京冬季五輪のキャラクターの雪だるまを作って、その写真を投稿しました。でも、日本語での投稿は難しくて、みなさんの投稿を見ていることのほうが多かったかもしれません。
岩永さん 杭州の雪の写真や旧正月の料理、北京冬季五輪のマスコットキャラクターの写真など、みなさんの投稿を見ていると、現地の様子を知ることができました。
自分も写真をあげたり、他の投稿にハートマークを押して「いいね」をしたりはしたのですが、コメントを返すのは難しかったです。
交流を通して、学んだこと
――交流を通じてどんなことを学びましたか
邵さん 日本のことをたくさん知ることができました。みなさん趣味もいろいろで、イカ釣りとか面白そうだと思いました。交流はとても楽しかったのですが、自分の日本語能力の限界も感じました。もっと自由に交流できるよう、これからも勉強をがんばりたいです。
陳さん 僕は、日本人とリアルで交流するのが、今回が初めてでした。授業では日本語を使って会話をしていますが、交流会は全く別の経験でした。毎回の交流を思い出すと、今でも胸が躍ります。お互い、簡単な言葉での交流でしたが、自分の気持ちや意見を伝えあって、勉強しあって、これが本当の交流だなあと実感しました。
大森さん 僕は毎回、原稿を用意していましたが、実際には原稿通りにいかないということがよくわかりました。アドリブで考えた中国語を使ってみたりもしましたが、伝わらないことが結構あって、自分の中国語はまだまだだなと思います。
でも逆に、文法が間違っていても伝わることは意外にあって、実際にしゃべってみることで、上達していくのかなと思いました。それに、自分が一生懸命話すことで、相手も一生懸命理解しようとしてくれたので、下手でも頑張って伝えようと考えるようになりました。
岩永さん 毎回、事前に台本を練習していましたが、交流会ではそれを読むことに意識がいってしまいました。それで、読み終わると、次に何を話そうか言葉につまり、スムーズに会話を進めることができませんでした。
いざ、会話をしようとすると、中国語の単語を知らなさすぎて、言いたいことが言えません。ニュアンスで伝わることもありましたが、もっと語彙を増やして、自分はこういうことを伝えたいんだと言えることは大切だと思いました。
限られた言葉でも相手に伝わる文章を考える
――先生方は、交流ではどのようなことが大変でしたか?
深川先生 本来は毎年、中国からALT(外国語指導助手)の講師を招いていますが、コロナ禍で来られなくなってしまいました。今回、交流の話をいただいたとき、ぜひ、やってみたいとは思ったものの、中国の先生とどのように進めていくか不安もありました。でも、唐先生は日本語がご堪能で、ずいぶん助けていただきました。
また、今年度から1人1台タブレットが導入されました。せっかく交流するなら、グループ活動で、なるべくたくさん話をしてほしいと思いましたが、1つの教室で、複数台のタブレットを同時に使うとハウリングが起きます。それを避けるため、各自が空いている教室に散らばって、交流を行いました。
教員は私1人なので、トラブルがあっても、全員の対応をすることができません。自分たちでなんとか交流をしてと、親鳥がひなを巣から突き落とすような気持ちで指導しましたが、かえって、生徒たちは自主的に、頼もしくやってくれました。結果的に、思い切ってやって良かったと思います。
唐先生 私も最初はいろいろ不安でしたが、生徒たちにはこの機会に、日本の高校生と直接、話をすることで、文化交流の意識と能力を高めてほしいと思いました。
毎回、交流の前には必ず、深川先生とメールをやり取りして、交流当日の内容や流れ、事前に準備する資料などについて相談しました。深川先生は毎回丁寧に計画をたててくださり、こちらのほうこそとても助かりました。
――交流にあたり、工夫したことはありますか?
唐先生 交流をうまく進めるために、事前準備は大切だと考え、普段の授業では、あまり練習をしていない作文に力を入れました。当校の生徒の日本語能力はまだまだです。作文を書く前に、まずブレインストーミングをして、クラスでそれぞれ、関心のあるトピックを挙げ、みんなで自由にアイデアを出しあって、各自の作文のテーマを決めるようにしました。
生徒たちは毎回、A4用紙半分くらい作文をしました。3回分の作文を集めると、ちょっとしたミニ文集ができそうです。これも成果の一つといえるのではないでしょうか。
作文の指導では、できるだけ、なおしすぎないよう気をつけました。生徒たちは、伝えたい内容は多いのですが、彼らの日本語能力では、全部をうまく表現することはできません。今まで勉強した日本語と、限られた自分の言葉で、どうしたら伝えたいことを表現できるかを考えてもらうようにしました。
深川先生 私は、生徒の日本語の原稿に手を入れすぎたかもしれません。実は私はもともと国語の教師をしていて、どうしても、日本語に目がいきます。
たとえば、「回るお寿司じゃないお寿司を一緒に食べたいです」という作文があったのですが、それよりも「高級なお寿司を一緒に食べたい」と言ったほうが、外国の方には伝わりやすいと思います。生徒たちには、思いつきで文章を書くのではなく、どう表現したらしたらわかりやすいかを考えてほしいと考えました。
また、だれがいつ、どこで何をどうしたのか、きちんとした日本語で書くことで、中国語にも訳しやすいです。相手に伝わる中国語を書くためには、日本語でしっかりと文章を組み立てる力も必要だと思いました。
――最後に、先生方から一言ずつお願いします。
深川先生 言葉や文化は違っても、うれしいとか楽しいという感情は一緒だと感じます。これからも生徒たちには、日本人同士で友達を作る時と同じような感覚で、中国のみなさんと友達となって、仲良くしていってほしいと思います。
このたびは、本当に良い交流をしていただいて、ありがとうございました。
唐先生 こちらこそありがとうございます。みなさんには感謝の気持ちいっぱいです。とてもよい思い出になりした。これからもぜひ、仲良くしていきたいですね。
取材・文 田中奈美 取材日 2022年2月24日