参加者インタビュー
Interviewインタビュー 日中21世紀交流事業に参加された方々に交流を振り返っていただきました
友人達との一年間
帰国まであと2ヶ月に迫った5月上旬、和歌山県岩出市へ遅宇希さんの最後の取材に赴いた。最近の日記をのぞいてみると、「忙しいなぁ~」や「毎日忙しーい」との記述が目立つ。それもそのはず、話を聞くと友人関係がますます広がりその付き合いに多忙を極めている。
友人達に見守られて
卓球部や茶道部の友人、それにクラスメート達。春休み中はこれらの友人とお花見やバーベキュー、部活動と大忙しの毎日だったようだ。
現担任の辻先生も「この那賀高等学校は地方ということもあり、生徒達にとっても外国人自体が珍しい存在だからか、遅さんに皆興味をもって親切にしてくれてると思います」
と話してくれた。のんびりしたアットホームな印象を受ける那賀高等学校。生徒同士仲が良く、その輪の中に溶け込んだ遅さんは存分に交流を楽しんだようだ。
「(日本に来て)性格が変わったな、と思います。友達のなっちゃんみたいにワイワイ明るくよくしゃべる子になったかな。最初は大人しそうって言われてたんですけど、最近はお笑い芸人の出川さんみたいなリアクションをするって言われて、『中国の“出川”』って呼ばれてます(笑)」。
昨年のクラスは特に仲がよく、3月の学期の終わりに皆で集まった「お別れ会」が一番の思い出になっている。その時クラスメートからもらった手紙は今でも大切な宝物だ。
「手紙には『一人で日本に来て不安もいっぱいあったと思う。私が宇希ちゃんの力になれたらいいな』と書いてあって感動しました」
友人達も見守ってくれた1年間。その心を遅さんもしっかり受け止めたようだ。
自分の殻を破って
一方、「最初はちょっと神経質な感じがして、実は大丈夫かなって思ってた」とホストマザーの坂さんは話す。
「初め来た頃は、日本語がまだよく分からないせいか、会話の内容を勝手に自分の悪口と思ってしまっているところもあったみたい。息子が宇希ちゃんのことを『ウッキーナ』って呼んだら、『それどういう意味?』ってプンプンしながら聞いてきたりして。でも、『日本に若くてかわいい“アッキーナ”って呼ばれているアイドルがいるんだよ。だからそれを真似て呼んだだけだよ、日本人は何でも短く縮めて呼ぶのが好きだから、と説明したこともありました』
言葉が分からない環境の中に置かれた事がある者なら、誰でも少なからず経験した事があることだろう。よく意味の分からない会話が飛び交う中にいると、悪口を言われているのかもしれないと勝手に思い込んでしまう。そんな誤解や思い込みがあるたびに、坂さんは丁寧に遅さんに説明し誤解を解き、遅さんの心をほぐしてきた。
「前はそうやって一言一言気になったみたいだけど、今は完全にふっきれたみたい。自分の殻を破ったというか」
遅さんの新しいクラスは理系の進学クラス。女子の人数は少なく、1年時のクラスメートの大半とも離れ離れになり、最初はその雰囲気に馴染めず戸惑った。
「最初は今のクラスは知らない子ばっかりだったし、全然雰囲気が違って前のほうが良かったなって思いました。でも自分から隣の席の子に話しかけて、仲良くなりました」
萎縮せずに自分から声をかけ、良い関係を築くことができた。少しずつだが確かな成長が感じられるエピソードだった。
初めての試合出場
2月に卓球部を取材した時には、やっとラリーが様になってきた様子だった遅さん。顧問の北畑先生は「3月の市民大会への出場は難しいかもしれない」と話していたが、無事個人戦と団体戦に出場し、初めての試合を経験した。「高校生の部」のエントリーは那賀高等学校のみだったので、必然的に部員同士が対戦することになり、かえって緊張したらしい。
「まだまだ初心者だし、結果は気にしないようにしようと思いました」
と話すように、個人戦では勝利を収めるとまではいかず、団体戦では惜しくも2位。賞品にタオルをもらったそうで、先輩達からは「一位より二位のタオルのほうがいいね」とか「かなり上達したよね」と温かく声をかけてもらっている。
ホストマザーの坂さんは、これまで部活動に励んできた遅さんについてこう話す。
「部活に入るということは、勉強もプライベートの時間も少なくなるということ。それでも愚痴をこぼすこともなく、寒い日も暑い日も休みの日でもジャージを着て出かけていくのでえらいな、と思いましたね」
2月に高野山に部員達と登山するなど、体力的に辛い思いをしたこともあった。それでも続けてこられたのは、本人の固い意志と卓球部の仲間がいたからだ。先輩とも距離が縮まり、打ち方を教えてもらうなど支えてもらった。また同級生の部員仲間2人とは、部活だけでなく部活帰りにファーストフード店やプリクラを撮りに行くなど、多くの時間を一緒に過ごしかけがえのない友人となった。
「先輩も先生も優しいし、友達も明るくて面白い!卓球部に入ってほんまによかったと思ってます」
続けたからこそ得られたたくさんのもの。遅さんが一番実感している様子だった。
もう一度皆のところに
「帰国が近づいて、段々寂しい気持ちになってきています」と話す坂さんと同じ思いなのか、ぽつりと「まだ帰りたくないな」とつぶやいた遅さん。
将来の目標をはっきりと定めたわけではないが、日本語をもっと深く学びたいという希望もあるし、医者になりたいという夢もある。この5月で16歳の誕生日を迎えたばかり。他の八期生達に比べるとまだまだ考える時間は残されている。
ただ帰国した後の近い将来、クラスメート達がまだ那賀高等学校に在籍している間に、もう一度皆に会いに来たいと考えている。
「文化祭の時に遊びにくるか、それとも卒業式の時に来るか。卒業式の時なら、きっと保護者席に座れるかなぁ」
その後のお別れ会にはどこに出席すればよいかな。クラスのお別れ会に出席するか、それとも卓球部か茶道部か。多くの友人に囲まれ過ごした一年間。再び遅さんが日本を訪れる日を、クラスメート達もきっと心待ちにすることだろう。