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参加者インタビュー

Interviewインタビュー 日中21世紀交流事業に参加された方々に交流を振り返っていただきました

ガンダム大好き留学生は「通常の3倍」の速度で岩手県を学ぶ

岩手県の名門校・盛岡中央高等学校で学んでいるのは、天津市からやってきた王志涵君だ。『ガンダム』シリーズのファンだという彼は、「通常の3倍」(※注)の速度で高校生活に溶け込んでいた。現地からレポートしたい。
※注.「通常の3倍」……『ガンダム』シリーズに登場する機体・シャア専用ザクが、通常の3倍のスピードで動くことから生まれたネットスラングである。

勿忘初心(初心、忘るなかれ)


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「初心忘るなかれ」のメモ。両親の教えである。

1年A3組のクラス。留学生の王志涵君は、こんな言葉を書き付けたメモ帳を机の左上部に置くようにしている。授業中に気持ちが緩んだときは、このメモを見て気持ちを引き締めるのだ。

「僕の『初心』は、日本の学生とたくさん交流して、しっかりと日本語の能力を付けるということ。来日前に両親からもらったアドバイスなので、守っていきたいと思っています。自分は中学生のときまで、いろいろなことを途中で投げ出してしまうことが多かったんですが、今回は投げ出したくないんです」

中国天津市出身。大仏さまのような柔和な表情と、穏やかな話し方がトレードマークだ。日本語についても、周囲の先生や学生たちは「来日当初よりもずっと上手になった」と口を揃える。わからない単語や表現を尋ね返すことも、この数か月でかなり減った。


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友達の藤澤君と。2人は大の仲良しだ。

「クラスで一番仲のいい友達は、斜め前の席に座っている藤澤君。この前、一緒にカラオケに行きました。僕はまだ日本語の歌をあまり知らなくて、中国語で歌っていたのですが、それでも盛り上がった。2時間があっという間でした」

授業の合間、体育館への移動中、そして放課後。王君のハイスクールライフに密着していると、いつも藤沢君と冗談を言い合ったり、ふざけ合ったりする姿が目に入る。

互いに「波長が合う」と語る。生まれ育った国は違っても、フィーリングの合う相手はちゃんと見つかるのだ。

「最初に王君がクラスに来たときに、席が近くて。彼も僕もゲームが好きだったので、話していたら自然と仲良くなりました。部活のこととか授業のこととか、話題はいろいろです」(藤澤君)

ちなみに王君の趣味はプラモデルであり、大好きなものはアニメの『ガンダム』シリーズ(特に『Zガンダム』)とライトノベルの『ソードアート・オンライン』。将来の夢はゲームデザイナーで、ゲームメイキングソフトの『RPG Maker』を使って自分でゲームを制作したこともあるという。

何でも語り合えて、趣味を理解しあえる友達の存在もまた、彼の夢の実現への第一歩につながっていくのかもしれない。

震災への不安は「気にし過ぎないようにした」


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王君が通う盛岡中央高校。国際交流に力を入れている、県内でも有数の名門私立校だ。

そんな王君を温かく見守るのが、担任の岩崎聡史先生だ。ベテランの岩崎先生は王君について「いつもニコニコしていて、本当によい子です」と目を細める。

「もちろん、勉強もすごく優秀です。特に英語や数学は、彼の学力では物足りないのではないかと心配してしまうくらいで……」(岩崎先生)


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英語文法の授業中。先生からの難しい質問にサラッと回答し、教室中が沸く。

事実、王君は先日の校内の模試で、1年生の受験者二百数十人のなかで3教科合計点が上位5位に入る大活躍ぶりを見せた。盛岡中央高校の特進コースの上位クラスは、県内でもトップクラスの偏差値で知られる。そんな高校で、この成績は立派だ。

だが、王君が日本で学んでいるのは机の上の勉強だけではない。彼はこう話す。


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ホームルームでの岩崎先生。「大好き」だと王君は語る。

「来日してすぐのころ、岩崎先生が盛岡市内を案内してくれて、神社でお祭りを見学しました。知らない日本の姿を見られて嬉しかったです」

ところで、岩手県は2011年に発生した東日本大震災の被災県である。岩崎先生の引率で、他の数人の高校生たちとともに、王君は陸前高田市でのボランティアにも参加した。沿岸部に位置する陸前高田市は、津波によって1700人をこえる死者と行方不明者が出ている。

「現地では花壇の整備などの作業にかかわりました。一日中ずっと働いても、被災地にはまだまだいくらでもやるべきことがあるのだと思った。考えさせられました」

現地を訪れたのはちょうど紅葉が始まった時期で、道中の山並みの美しい自然と、復興途上の被災地とのコントラストが衝撃的だった。更地になった街を見て、言葉にしづらい様々なことを感じたという。

かつて震災当時、中国の国内ではかなり大規模な報道がなされた。結果、被災地の実態を踏まえない情報が独り歩きした面もあり、中国人のなかには東北地方――それどころか日本全体について、いまなお過剰に不安を感じている人も少なくない。

「日本に来るときに、僕はそういう情報は気にし過ぎないようにしていました。両親や親戚の反対も全然なくて『たくさん友達を作りなさい』と送り出してくれた。僕はありのままの日本を見たいと思っています」


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部活の剣道部で集合写真。剣道着も気に入っているそうだ。

素直な目で現地を見つめる視点が、両国の理解につながる。1年間の留学生活、王君は「初心を忘れず」最後まで走り抜けていくことだろう。

(取材・文 増田聡太郎 取材日:2014年12月1日)

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