Voice ~参加者の声~ 中島大地さん
大学生交流事業の思い出と、それからのこと
名前
中島 大地 さん
プロフィール
1992年、埼玉県生まれ。一橋大学大学院言語社会研究科修士課程修了。在学中の2016年に国際交流基金日中交流センター主催の大学生交流事業「京英会リターンズ 東京動漫楽園」で、連雲港ふれあいの場へ。以後、上海・復旦大学に交換留学。現在、出版社勤務。2020年、『境界のポラリス』で第61回講談社児童文学新人賞佳作入選。
日中交流に関わり始めたきっかけ
大学進学後、中国のことを知りたいという思いから、日中交流の活動に関わるようになりました。
2015年、学生団体「京英会」の運営メンバーとして、「日中相互訪問プロジェクト」に参加しました。夏休み、中国語を学ぶ日本人学生と日本語を学ぶ中国人学生が集い、二週間をかけて、東京、福井県鯖江、北京を巡りながら見聞を広めて相互理解を目指す、というイベントでした。
半年間の間、毎週のようにミーティングを重ねて、財団に助成金を申請したり、参加者を募ったり、北京の中国人学生とやりとりしました。さまざまな苦労がありましたが、企画は無事に実現して、かけがえのない思い出となりました。
その後、「京英会」の運営メンバーといっしょに、もう一度楽しいことがしたいということで、国際交流基金日中交流センターが募集していた大学生交流事業に応募しました。
大学生交流事業の思い出
大学生交流事業「京英会リターンズ 東京動漫楽園」の訪問先は、江蘇省連雲港にある「連雲港ふれあいの場」に決まりました。「これまで日本人とほとんど会ったことがない」という中国人学生といっしょに企画をつくっていくことになりました。交流イベントに来る学生も日本語科とは限らず、日本に関する知識がほとんどない人も多いようでした。そこで、ビジュアルなどの面で、工夫を凝らすことにしました。
「アニメやドラマに登場する日本の伝統文化や生活様式を再現して、日本のことを知ってもらう」というコンセプトのもと、交流イベントを準備しました。
2016年3月15日、ござや、日本のお菓子、おもちゃ、制服など、たくさんの荷物をもって連雲港に赴きました。そして、現地で中国人学生とともに三日間かけて、「学校」「家庭」「神社」の3つのブースを設置し、アニメやドラマに出てくる風景を再現しました。
制服体験、茶道部体験、浴衣の試着など、非日常の体験を用意したところ、多くの中国人の参加者に楽しんでいただくことができました。また、折り紙、塗り絵、だるま落としなどの伝統遊びにも関心が集まりました。手作りこたつを設置したところ、「日本のことを知りたい!」という中国人学生との交流の場になりました。
みんなで交代しながら、大量のいそべ餅を焼き続けたのも、いい思い出です。
結果として、のべ300名の来場者に参加してもらい、大勢の現地の学生と交流しました。「これまで日本のことをよく知らなかったけど、日本文化に惹かれた」「日本に行きたくなった」といった感想をたくさんもらい、face to faceの交流の大切さを改めて実感しました。
いま、このコロナ禍の中で、改めて大学生交流事業のことを思い返すと、本当に得難く貴重な機会だったと感じます。国際交流基金には深く感謝しています。
上海留学で感じたこと
大学生交流事業の後、2016年9月から上海にある復旦大学に半年間留学しました。
たくさんの思い出がありますが、なんといっても、印象に残っているのは、「人」です。
中国人学生は、日本をはじめとする外国の人間に対して寛容で、とても親切でした。
留学初日、夜になってから復旦大学に到着して、広大なキャンパスの中で迷っていたとき、たまたま通りかかったランニング中の大学院生が留学生寮まで案内してくれたことを、今でもよく覚えています。同級生たちは生活や勉強で困ったことがあると何かと助けてくれました。
もちろん、中国の学生たちも、日本の学生と同じようにサークルや恋愛など、おのおのの学生生活を楽しんでいるのですが、中には、貧困に直面する地域の子どもたちへの教育支援に励む人や、日本や欧米への留学という夢に向かって努力する人とも出会い、熱意に心を打たれました。
個人的に新鮮だったのは、韓国人の学生とルームメートになったことです。半年近くいっしょに暮らすことになりました。
最初は、簡単な英語と中国語だけで意思疎通できるかな、と心配していました。しかし、「このマッコリがおいしい」「TWICEのTTが、韓国でも人気だよ」といった具合に、韓国の文化を教えてもらい、それと同時に日本の文化を伝える中で、仲良くなっていきました。時には、韓国の若者にも就職難や年上世代とのジェネレーションギャップなど、様々な悩みがあると教えてもらいました。その中で、日本の若者とも共通する部分がたくさんあると知ることができました。
東アジアの国々との間には、政治や経済の面では様々な摩擦や軋轢があります。しかし、個人のレベルで向き合えば、共感しあえる点がたくさんあると感じました。
今考えていること
帰国後、出版業界に就職しました。
ところが、2020年初めからパンデミックが本格的に始まりました。状況は次第に悪化していき、人と会うこともままならない状況になりました。そこで、これまでの経験を踏まえつつ、小説を書くことにしました。その結果、児童書『境界のポラリス』としてまとまり、講談社児童文学新人賞佳作をいただきました。
『境界のポラリス』は、ボランティアによる日本語教室「青葉自主夜間中学」を舞台とした小説です。中国生まれ日本育ちの主人公は、日本語教室で日本語を教える中で、中国、ベトナムなどいろんな国の子たちと仲良くなります。みな、言葉の壁、文化の壁など異国で暮らす困難と向き合っています。しかし、日々、楽しみを見つけながら、将来の夢に向かってがんばっています。
各人のルーツやあり方を尊重した上で、ともに社会をつくっていくためにはどうしたらいいのだろう、という問題意識のもと、書き進めました。わたし自身、まだ模索している途中ですが、異なる文化の人たちとface to faceで向き合い、分かり合おうとする努力が、まず大切なのではないか、と思っています。
現在、280万人以上の外国の方たちが、この日本で暮らしているそうです。今後、日本社会は、これまで以上に、「異文化理解」「多文化共生」という大きな課題と向き合う必要性が生じてくると思います。大学生交流事業や、留学時の経験を大切にしながら、これからも、しっかりと考えていきたいです。
2021年8月29日
中島 大地