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JAPAN FOUNDATION 国際交流基金[心連心]

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参加者インタビュー

日中21世紀交流事業に参加された方々に交流を振り返っていただきました

Vol.013 李 越さん

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名前
李 越り えつ さん

プロフィール
  河北省石家荘市出身。「心連心」の第3期生(2008年9月~2009年7月)として、大東文化大学第一高等学校(東京都板橋区)に留学。2011年上海財経大学に入学。現在は同大学の3年生として経済分野の日本語を学ぶ傍ら、上海市五角場の日本語塾でアルバイト勤務をしている。

親日家のお父さんのもと、日本語の学習を始める


  李さんの日本との出会いはまだ幼い子供の頃。親日家の父親が買ってくれた宮崎駿の初期のアニメ作品「パンダコパンダ」を見て、日本への憧れが芽生えた。日本語の勉強を始めたのは中学生の時。父親の影響で日本語の授業を選択したのがきっかけだった。

  李さんはその当時を振り返り「日本と中国との漢字の意味の違いが面白かった」と話す。また、「クレヨンしんちゃん」など中国でもポピュラーな日本のアニメは時折見ていたが、日本のアニメと知りながらもそれが日本の生活や文化に結び付くことはなかった。

  そんな折、手に取ったのが日本文化論の古典的名著であるルース・ベネディクトの「菊と刀」。読後は、日本語の勉強のみならず日本文化にも強く魅かれる様になっていった。高校1年生の夏、教師から「心連心プログラム」を紹介され、迷わずに応募。父親に相談したのはなんと面接の前日だったが、李さんの心配をよそに快諾してくれ、翌日北京行きの電車にも付き添ってくれた。

優しさに包まれて過ごした日本での留学期間


写真を拡大ホストファミリーと立派な庭先で。帰国後もホストファミリーとの親交を続けている。

  慣れない環境に戸惑う李さんを温かく迎えてくれたのはホストファミリー。由緒ある家柄で三味線の指導も行う家庭に迎え入れられた李さんは、日本の伝統文化に直に触れながら、家族との交流を通じて日本人の優しさを初めて肌で実感する。「以前はあまりやっていなかった」という家事も進んで行い、一緒に料理を作ったりして楽しく食卓を囲んだ。ホストファミリーは三味線の唄を聞きに連れて行ってくれたり、艶やかな着物を着せてくれたりと、本物の文化に接する様々な機会を与えてくれたという。

  数ある思い出の中で強く印象に残っているのは新年の初詣で高尾山に登ったこと。「初めて乗ったロープウエーはすごく怖かった!お賽銭を捧げたり、おみくじに願掛けしたりしたことで、『私、今日本にいるんだ!』と強く実感しました」と李さん。中国で抱き続けてきた日本への思いが結実したひとつの瞬間だった。

写真を拡大ホストファミリーに振袖を着せてもらったことも忘れられない想い出のひとつだ。

  日本で一番感動したことはなんですか?との問いかけに「日本人の親切心」と答えてくれた李さんは、温かいエピソードを紹介してくれた。外国人スピーチコンテストに参加するため会場に向かう途中、慣れない場所で道がわからなくなってしまった。困って通りすがりのお婆さんに道を尋ねたところ、不自由な体だったのに会場まで連れて行ってくれたという。

  日本人の親切心に触れたこと、そして助けられたこと。その経験が今、自分を支えてくれた「心連心プログラム」、ホストファミリー、クラスメイトや教師など全ての人への感謝につながっている。

日本の「等身大の女子高生」として


  留学先は東京都板橋区の大東文化大学第一高等学校。伸び伸びとした校風のもと、勉強に遊びに精一杯過ごした。高校生だから共有できる思いがそこにはあった。部活は美術部に所属。油絵を習い、上野の美術館にも足を運ぶことで文化的な知見を広めた。1年の間に描いた油絵は相当な数にのぼり中国に全部送った際には父親に驚かれたそう。中国にはない部活動も李さんにとって貴重な体験だったようだ。文化祭や体育祭ではクラスメイトと一緒に汗を流し満喫。これも日本の高校生の特権だ。

写真を拡大初めての体育祭での一枚。仮装リレー大会に参加し、李さんはチャイナドレスを着て全力疾走。クラスの仲間とタスキを繋いだ。

  授業が終わると放課後はクラスメイトと池袋へ繰り出した。サンシャインシティでもんじゃ焼きを食べ、カラオケをし、好きな俳優について話すなど、日本の普通の高校生活を楽しんだ。クラスメイトが開いてくれたお泊り会は忘れられない思い出の一つ。女子会さながら、日本の等身大の女子高生として同じ幸せ、同じ悩み、同じ時間を共有した。

  2月には学校の計らいで京都への修学旅行も経験。金閣寺や清水寺を見学し、日本の歴史的建造物に足を運ぶとともに、美味しい豆腐料理に舌鼓を打った。

写真を拡大修学旅行では祇園の八坂神社へ参拝。美容のご利益があると聞き、パワースポットである美御前社へ足を運んだ。

  留学中は教師やクラスメイト、ホストファミリーの助けのもとめきめきと日本語が上達した。褒められて伸びる性格のようで、みんなに「日本語上手だね」と言われるのがうれしくて、帰国間際には日本語能力試験1級を取得するまでに至った。日本で学ぶという強い覚悟に裏打ちされた努力と自信によって、確実に成長を遂げた。

「日本語=自己実現」新しいステップへ


  「留学で辛かったことはまったく無かったです」と李さんはあっけらかんと話す。また笑いながら「辛いことは忘れてしまった」とも。文化、習慣の違いや言葉の壁に苦しんだことはあっただろうが、李さんにとっては日本での思い出を曇らすものではない。むしろ日本で経験したことすべてを強く意味づけ、今後の人生を照らす鏡になるような経験だととらえている。

  現在は上海財経大学で日本語を学び、卒業論文では「誰もやったことのないものがやりたい!」と現代の日本作家である石田衣良についての比較文学論に挑戦する予定。何か留学後に変わったことはありますか?との問いに、「性格がマイペースになりました」と笑う李さんは、「自分で決断し、みんなのサポートがあって日本で頑張ることができた。だから自分の決断を信じることができる」と力強く語った。

  李さんが「心連心プログラム」を通じて得たことは周りに流されず強く生きるための力であるのかもしれない。そしてこの自己実現の過程には常に日本語が基盤としてあり、これからも日本語と共に生きていきたいという。「将来は日本語を生かしてメディアの仕事に就きたい。それまでにもう一度日本に留学したい。帰国から4年が経った今、また違った感覚で、日本で学ぶことをとらえられるから」と未来に期待を寄せる。「心連心プログラム」を経験したからこそ、今の自分がある。李さんはまた新たな一歩を踏み出そうとしている。

  【インタビュー場所・新天地】
  「石庫門」と呼ばれる上海市の古い住宅建築を2000年に商業用に改築。レストランやショッピングセンターなど様々な商業用施設が入居し、市内でも有数の観光地となっている。

  (取材・文:工藤光暢(NNA) (取材日:2013年9月13日)

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