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JAPAN FOUNDATION 国際交流基金[心連心]

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参加者インタビュー

日中21世紀交流事業に参加された方々に交流を振り返っていただきました

あのころの思いよみがえる――「10年後の自分への手紙」を開いた卒業生たち」

あのころの思いよみがえる――
「10年後の自分への手紙」を開いた卒業生たち」


  「10年後の私は、きっとこんな人」「あれもこれも経験したはず」――。
そんな夢と希望があふれる「10年後の自分に宛てた手紙」を書いた人たちがいる。「心連心:中国高校生長期招へい事業」(以下「心連心」)の卒業生である第1期生と2期生たちだ。
心連心は2006年にスタートして、今年で11周年を迎えた。この日、10年ぶりに手紙のタイムカプセルを開いた卒業生の胸に去来したのは、どんな思いだったのだろう。

世界のドアを開いた心連心


写真を拡大第11期生の歓送レセプションで。ホストファミリーとして各国の留学生を受け入れてきた大阪の藤本明子さん(左)は、「隣国の人こそ(交流が)大事」と心連心では1期生から毎年受け入れている。右は11期生の万美池さん(大阪府立夕陽丘高等学校に留学)

  「心連心」第11期生の帰国前報告会・歓送レセプションが2017年7月14日、東京都内で開かれた。今年は、第1期生(2006~07年)が卒業してからちょうど10年になる節目の年でもある。そこでこの機会に、式典に出席した1期生、2期生にかつての「手紙」を渡す機会が設けられたのだ。手紙はこの間、日中交流センターでずっと大切に保管されていた。

  1期生の劉暁倩(りゅう・ぎょうせい)さんは「10年前に何を書いたか、全く覚えていない。だから今日はドキドキして来ました」と顔をほころばす。膝上丈のワンピースがよく似合う、活発そうな明るい女性だ。

写真を拡大自分への手紙を「読むのが楽しみ」と期待を語る1期生の劉暁倩さん

  心連心では松山南高等学校(愛媛県松山市)に留学し、高校卒業後は京都大学工学部に進学。大学時代はアメリカへの1年間の交換留学も経験した。現在は経営コンサルティングファームのPwCコンサルティング合同会社(本社・東京都)で、グローバルな戦略コンサルの仕事に携わっている。
「振り返れば、心連心で世界へのドアが開かれました。留学などの体験から、日本では“和を尊ぶ”こと、アメリカでは“多様性を楽しむ”、そして“衝突の後に協力する”ことをそれぞれ学びました。世界の広さ、人や文化の多様さを知ったのも、いまの自分に生かされています」と劉さん。

  いまや世界を舞台に活躍する彼女だが、その原動力には心連心での経験があるという。「高校で唯一の外国人だった私のために、無償の愛を注いでくれたホストファミリーや先生方。その愛に応えようと、懸命に頑張ることができました。どの国の人でも誠実に話し合えば心がつながる。そう信じられるのは、あの経験があったおかげです」

  10年前の劉さんも、成長した今の姿に目を見張るのではないだろうか。「これから手紙を読むのが楽しみ!」と劉さんは期待に胸をふくらませた。

「当時の夢、思い出すきっかけに」


写真を拡大第2期 続昕宇さんが手紙を受け取る様子

  「10年後の自分への手紙」を企画したのは、日中交流センターの元職員で1期生と2期生の受け入れやケアを担当した富樫史生さん(現・ニュージーランド在住)だ。
実は富樫さん自身、1985年のつくば万博での人気企画「ポストカプセル郵便」を通じ、21世紀最初の日(2001年元日)に、16歳の高校生だった自分からの手紙が届くという貴重な体験をした。そして手紙に書かれていた、当時はまだ実現していなかった夢の「世界一周」をかなえようと、それまで勤めていた会社をキッパリと辞め、以来2年がかりで50カ国以上を周るという快挙を成し遂げたのである。

写真を拡大第1期 潘撼さんが手紙を受け取る様子

  「その経験は一生の宝物。心連心の卒業生にも過去からの手紙を受け取り、高校生だった自分と邂逅する機会を作ってほしい。それが当時の夢を思い出すきっかけになってくれたら……」(富樫さん)
手紙のタイムカプセルには、そんな熱い思いが込められていた。

仲間たちから刺激を受けて


写真を拡大日中交流センターの堀俊雄事務局長(右)から大切な手紙を受け取った1期生の于暠くん

  この日、日中交流センターの堀俊雄事務局長からうやうやしく手紙を受け取った1期生の于暠(う・こう)くんは、封を開けるなり、感無量といった様子だった。カジュアルな青いシャツを着こなした、爽やかな青年だ。

  于くんによれば、内容のあらましはこうだ。

写真を拡大于暠くんは「あのころの『純粋な心』はいまも変わらない」と前を向く

  「2017年の于暠へ:
……ぼくは君がうらやましいよ。なぜなら君は素晴らしい学歴や仕事、家族や友だちに恵まれている。もしかするとハーバード大学を卒業した学生かもしれない。
……唯一変わらないのは、その純粋な心だ。これまでの努力や挫折は、すべて君のような人になるためだ。そのためにいま頑張っているよ。君はきっと何カ国語もしゃべれるし、ピアノもサッカーもうまくなり、毎日思い通りの生活を送っているだろう。だから、いまから君を目指して頑張らないといけない。
……君には自信と勇気があって、目標に向かって絶えず頑張ってほしい。一緒に頑張ろう!」

  手紙を読んでの感想を聞いた。

  「中には達成できたこともあれば、できなかったこともある。実際にハーバード大には行っていないし、達成できたのは全体の5割くらいかな(笑)。だけど一番大切な『純粋な心』がいまも変わっていないのは、良かったなと思います」。于くんはそう、はにかんで笑う。

写真を拡大久しぶりの再会に旧交を温めた劉暁倩さん(左)と于暠くん

  心連心では千葉国際高等学校(千葉県君津市)に留学し、高校卒業後は中国の山東大学を経て千葉大学工学部に進学した。心連心の留学時代に1期生の優秀な仲間たちから良い刺激を受けたこと、彼らと切磋琢磨し合えたことが、日本留学を決める励ましにもなったようだ。

  この4月には東京大学大学院工学系研究科修士課程から博士課程に進み、現在は放射線作用における抗酸化薬剤の役割などについて研究している。千葉大学で医用工学を学んでいた時、東日本大震災を経験。自分にできることは何かと模索したことが、放射線をより深く知るいまの専攻を決めるきっかけになったという。
「日々、最先端の研究をしていますが、薬剤のメカニズムを実用化するまでには長い年月がかかる。いかにそのプロセスを加速させ、社会に還元できるかが課題だと思います」

  自分の将来像については、ぼんやりとながら「専門分野がいつか日中間、またはアジア、世界に役立てられたら……」と考えている。
「(手紙に書かれた)あと5割の目標達成のために、これからも頑張りたい」。毅然として、前を見据えた。

あのころの思いの集大成


写真を拡大当時の思いが詰まった手紙を愛おしそうに手にした、2期生の林暁慧さん

  ロングヘアのしとやかな雰囲気の女性、2期生の林暁慧(りん・ぎょうけい)さんは、手紙を読むなり、ポロポロと涙をこぼした。忘れていたという留学時代の思いが、一気によみがえったからだろう。
差し支えない範囲で、手紙の一部を教えてもらった。
「17歳の私は理想的です。だけど27歳の私が現実的になったとしても仕方のないこと。頑張ったから大丈夫だよ、といってあげたい。(この10年で)世界を見てください。人は何を欲しているか、何をしたら人は幸せに生きるのか、いろいろ見つけてきてください。そして見つけたものを、もっといろんな人に感じてもらってください……」

  林さんは涙をふいて微笑んだ。
「ここに書かれていて、まだ達成していない目標は『快適なベッドのある大きな部屋を持っていること』くらいかな。当時はパンクロックが好きだったので、手紙の内容もパンクって感じで飛んでいますね(笑)」

写真を拡大第2期生 林暁慧さんの手紙

  そうおどけながらも、小さいころから「人生の方向性」を大きく決めていたというしっかり者の彼女である。「世界を見てください」と手紙に書いた通り、自分の夢や目標を1つずつ実現してきた。
心連心では松山南高等学校に留学し、高校卒業後はアメリカのニューヨーク大学でメディア理論(メディア・文化・コミュニケーション)を専攻。大学卒業後は、国際交流基金の北京日本文化センターで文化芸術事業の担当として3年間働いた。
「もともとアートが好きで、自分でも油絵を描いていました。ニューヨークではたくさんの現代アートとアーティストに触れることができたし、北京日本文化センターでは仕事で初めてお会いしたアーティストが憧れの映像作家・さわひらきさんで感激しました」

写真を拡大2008年富樫さんが当時東北育才学校で学んでいた生徒たちと再会。前列左から林暁慧さん、白雪純子さん、冮洪月さん、富樫先生。後列左から孟暁紅さん、哈喬さん、杜航くん、潘撼くん。

  この4月からは慶應義塾大学大学院に進学し、メディアデザイン研究科修士課程で新しいメディアの可能性について研究している。
「アートにかかわる仕事をして、いろんな価値観を多くの人に共有してもらいたいという気持ちが強くなりました。それでITやIoT(モノのインターネット)、VR(バーチャルリアリティ)などのデジタルメディアをいかに使い、メッセージを伝えるかを探究しています。いまの世の中は、わかり合えないことで問題になることが多い。それを自分の力で何とかできたらと考えています」。林さんの歩みは着実だ。

  思い起こせば心連心で留学した当初、言葉の壁から孤独を感じたことがあった。「そんな異国でのつらい時期も、実際には自分と向き合う大切な時間だった」と林さんはいう。だから「自分への手紙」は、あのころの思いの集大成。彼女にとっても、かけがえのない「成長の跡」が刻まれていたのだろう。

企画者・富樫さんからのメッセージ


写真を拡大左から1期生の杜雯雨さん、張詩雨さん、王嫣さん、富樫先生、潘撼くん、劉暁倩さん、牛朔くん。この時は約1年2ヶ月ぶりの再会だったとのこと。

  この日、卒業生に手紙が渡されるのを前に、企画者の富樫さんからメッセージを送ってもらった。
ポストカプセル郵便を通じ、世界一周を実現した富樫さんは、のちに帰国した1期生、2期生を訪ねて、中国・長春から上海まで約3千キロの道のりを自転車で走破したという情熱と行動力の持ち主だ。

  富樫さんはいう。
  ――その手紙に書かれていることは、過去の自分が未来の自分に宛てたメッセージです。私は過去の自分からのメッセージを受け取ったことで、それからの人生が大きく変わりました。
高校生の時の自分と心の中で会話することで、皆さんのこれからの未来に良き変化が顕れてくることを期待しています。未来は自分の力でいつでも変えることができます。自分の心の声に従って、自分のやりたいことを実現し、素晴らしい未来を切り開いていって下さい――。

  卒業生たちに伝えると、深くうなずきながら「ありがとうございます!」「これからの人生の糧にします」などと口々に感謝の気持ちを表していた。
  10年の時を超えて届いた手紙。あのころのピュアな思いに後押しされて、彼らはまた、それぞれの未来へと歩を進めた。

(取材・文:小林さゆり 取材日:2017年7月14日)

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