参加者インタビュー
未来へ続く道を探して――「リードアジア」で見つけたもの
今年の8月、日中交流プログラム「リードアジア2017」に、温皓恒くん(第五期生/早稲田大学3年生)、陳微さん(第五期生/千葉大学3年生)、楊賛さん(第七期生/上海財経大学2年生)、劉浩翔くん(第九期生/大阪大学1年生)の心連心卒業生4名が参加した。
「リードアジア」とは、就活を控えた日中の大学生が共に企業を訪問し、対中ビジネスに第一線に触れるとともに、ディスカッション等の共同作業によって相互理解を深めていくというもの。8泊9日の合宿型で、日中の大学生が密に向き合うことができるのも特徴だ。(「リードアジア」の詳細については、記事最後に掲載のリンク先をご参照)
彼ら4人は、このプログラムに参加し、何を感じ、将来をどう考えたのか。話を聞いた。
リードアジアを選んだ理由とは
4人は高校時代に約1年間の日本留学(心連心:中国高校生長期招へい事業)を経験。その後、それぞれ日本の大学に進学したり、中国の大学で日本語を専攻したりと、いわゆる“日本経験”は長い。そんな彼らが、どうして「リードアジア」に参加したのか、その理由を尋ねてみると“四者四様”の思いがあった。
「インターンより期間は短いですが、効率よく企業を体験出来る上、いろんな業種を見られるのが魅力」とは温皓恒くん。就活を直前に控えた大学生らしい理由を語ってくれた。彼は現在、早稲田大学政治経済学部の3年生で、ゼミで企業戦略を学んでいる。
千葉大学園芸学部3年生の陳微さんは、卒業後の進路で悩んでいるときに「友人がリードアジアに参加している姿をFacebookで知って興味を持った」から。さらに「私は人と関わるのが好き。だからビジネスと交流がセットになったリードアジアを選びました」と語る。
一方、高校卒業後は中国で進学し、現在は上海財経大学の2年生で、日本語と会計学を専攻する楊賛さんは、中国在住ならではの悩みを持つ。
「上海も日系企業は多いですが、私たち学生が関わる機会はほとんどありません。なので、多くの企業を訪問できるこのプログラムはとても貴重に思えました」。
大阪大学工学部1年生の劉浩翔くんは、企業訪問を通して、自分の見聞を広げたいと言う。
「理系なので将来はメーカーに就職するでしょう。しかし、本当にそれでいいのかという疑問もあって。なので、就職するまえに、世の中の企業はどんなことをやっているのか理解したいし、自分の興味はどこにあるのか知りたいと思いました」。
心連心の“先輩”“後輩”、繫がる絆
リードアジア2017の実行委員長・水野裕大くんによれば、5回目となる今年はOB・OGとの“縦の繋がり”強化に力を入れたそうだ。活動初日のオリエンテーションで開かれたパネルディスカッションでは、新旧参加者の交流が行われた。さらに、歴代の実行委員長の林宏熙くん(2013年)、日高真太朗くん(2015年)、曾毅春くん(2016年)がスピーカーとして登壇。リードアジアが発足した理由や活動への思いなどを今年の参加者に語ったと言う。
実は2016年の実行委員長を務めた曾くんも心連心第五期の出身。同じ心連心卒業生でありながらリードアジアの“先輩”でもある曾くんの話は、4人にとって説得力“大”だったに違いない。
「いろんなイベントで活躍する仲間たちを見るのは刺激になります。心連心メンバーは本当にポジティブ!周りを引っ張っていく人が多いですね」(陳さん)。
企業訪問を通して見えたもの
活動6日目となる8月25日の夕方、これまでの振り返りと企業訪問等での学びを生かした成果発表会が開かれ、グループごとに「日中をつなぐビジネスの提案」についてプレゼを行った。心連心の4人も発表の一役を担った。
日程も終盤を迎えたころで、改めて4人それぞれに、リードアジアの活動を通して心に残ったことを聞いた。
「企業訪問を通して、想像していた企業のイメージと実際の姿が違うことに気が付いた」とは温くん。特に、日本企業が中国の政策や市場の変化について非常に詳しく研究熱心だったことに驚いたそうだ。「中国人の自分より中国のことに詳しくて、良い意味で嬉しかったです」。
楊さんは「訪問先でのディスカッションはとても勉強になりました。製品を世に出すために、まず顧客像を想像し、人が必要としている事(ニーズ)を考え、そしてサービスを考えるなど、ビジネスをする上での具体的な流れがつかめました」と満足げな表情。「チャンスがあれば日本企業で働きたいですね」。
様々な価値観に触れられたことを挙げたのは陳さん。「国が違うと文化も違うのは分かる。だけど同じ日本でも違いがあると言うことがよく分かりました。地方からの参加も多かったし、日本育ちの中国人学生もいたりして。一人ひとりがそれぞれの文化を抱えているような気がしました」。
「自分の考え方がみんなと違うことがよく分かった」とは劉くん。高校、大学とずっと理系クラス、周りの友達も理系の学生ばかりだったという劉くんは、文系の学生とディスカッションするのはほぼ初めての経験だったそうだ。「毎回文系の学生と組んでディスカッションをしたのですが、彼らがイメージするものやロジックが僕と全く違って新鮮でした。日本人と中国人との差よりも、文系と理系の差の印象のほうが大きかった!」。
やっぱり交流って楽しい!
リードアジアの主な活動は企業訪問だが、日中の大学生どうしの交流も重要な位置を占めている。これまでの活動報告書によると、参加者の満足度は非常に高く、今後も何らかの形で日中交流に携わりたいと考える学生がほとんどだ。心連心の4人も、リードアジアならではの“交流の形”に心ひかれたようだ。
大学で「中国語学習会」というサークルに所属している温くんは、日本各地の大学生と交流できたのが嬉しかったと語る。
「大学の枠を越えて交流できたのが一番の思い出。みんな中国に強い関心を持っていたのに驚きました。中国や日中交流などのお互い興味のあるテーマになると話が弾んで、すぐ友達になれた」。
来月から交換留学で一橋大学に来ることが決まっているという楊さんは「リードアジアのおかげで留学が更に楽しみになりました。日本各地に友達がいるっていいですね」と笑顔をみせた。
劉くんは“面対面”(フェイス トゥー フェイス)な深い付き合いができたことに満足していると言う。
「プログラム中、日本人学生と中国人学生が24時間ずっと一緒。同じ時間を過ごしている。ここが高校時代の留学とは大きな違いだと思います。おかげで相手のことがよく分かったし、これまでとは違う体験ができました」。
見えてきた将来への道
今年のリードアジアでは、8社1機関を訪問。金融、物流、旅行、製造といった様々な業界に触れた。
将来働きたい企業、進みたい道は具体的に見えてきただろうか。就活が半年後にスタートする陳さんと温くんに聞いた。
「企業は国際的な視野を持った人材を求めていることが分かった」という陳さんは、やはり日中両国を結ぶ仕事に就きたいと語る。
「最初は自分のやりたい仕事をやれば良いと思っていましたが、自分の仕事が人のためになればもっと良いと思えるようになりました」とにっこり。「私は理系なので、今のままだと専門知識が足りないと思います。大卒で就職しても自分ができる範囲は限られている。なので大学院に進学して、いろんな知識を身に着けてから仕事をしたいという気持ちも出てきました」。
リードアジアに参加する前は、日本と中国、どちらの国で働くか悩んでいたという温くん。高校、大学と日中の間で過ごしてきた心連心卒業生ならではの悩みだ。
「今は国は関係ないと思えるようになってきました。日本と中国の間でできる事、これが自分の長所を発揮できる場所。国にこだわるより、やる事が重要です!」。
リードアジアを通していろいろなことを感じ取った心連心の4人。たった9日間のひと夏の経験だが、彼らの進む道を照らしてくれたようだ。
【取材を終えて】
“日本経験”の長い心連心4人にとっても、リードアジアでの体験は新鮮だったようで、インタビュー時、自分の体験を熱く語ってくれた。プログラムを通して様々なことを学び、自分を見つめ直し、将来を考えて過ごしたことがよく伝わってきた。彼らならば、日本であれ中国であれ、いずれの場所でも、持ち前の“心連心(心と心をつなぐ)”精神を発揮して、それぞれの道で活躍していくに違いない。未来へと大きく羽ばたいてくれることを願ってやまない。
(取材・文:和泉日実子 取材日:8月25日)