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JAPAN FOUNDATION 国際交流基金[心連心]

日本と中国の若者が未来を共に創る

参加者インタビュー

日中21世紀交流事業に参加された方々に交流を振り返っていただきました

平成最後の心連心卒業生交流会、「令和」の時代へ交流の輪を紡ぐ

  平成ラストの4月20日、今年も東京の国際交流基金で、「心連心:中国高校生長期招へい事業」の卒業生交流会が開催された。

  2006年に始まった同事業は今年で13年目となる。昨年夏に帰国した12期生までの卒業生数は390名。このうち日本で進学や就職をしている生徒は180名を超える。そのなかで主に東京近郊在住の卒業生たちが、「平成最後の卒業生交流会」に集まった。

外資系コンサル勤務に「鳥のさえずり」研究、卒業生たちのいま


  「この時期に交流会をやろうと思った理由は3つです」

  今年の卒業生交流会は、塩澤雅代事務局長のそんな開会の言葉で始まった。1つ目は、進学や就職で新しい環境に飛び込んだ卒業生たちに、情報交換や交流の場を提供したいと思ったこと。2つ目は、平成の最後にこれまでの心連心事業を振り返る場をつくりたかったこと。

  3つ目は、2019年が日本と中国にとって記念の年となること。「何の年か知っていますか?」という塩澤事務局長の問いかけに、卒業生たちは首をひねり、「日中青少年交流推進年」という答えを聞いて、「あ~」と声をあげる。

  続く日中交流センターのスタッフ紹介では、「高校時代に1年、天津に留学した」という若いスタッフの挨拶に、「お~!」と沸いた。すっかり大人びてみえる卒業生たちも、ここに来ると、気持ちはどこか心連心の高校留学時代に戻るようだ。

  参加者は3期生から12期生までの30名。卒業生たちの自己紹介では、各自がそれぞれの近況を報告した。トップバッターは3期生の礼済聞さん。大阪の大学に留学し、現在は楽天株式会社で働いている。同じく3期生の皇甫丹婷さんはJT(日本たばこ産業株式会社)の医薬事業部でプロジェクトマネージャーをつとめる。

  3人目は4期生の張亜新さん。「自分の名前がどんどん名簿の上のほうにあがっていって、ちょっと悲しい」と話し、笑いを取った。去年4月にボストン・コンサルティング・グループに転職し、東京と大阪を往復するという忙しい日々を送りながらも、社会人生活を満喫しているそうだ。

  5期生の陳微さんは今年4月に東京大学大学院に進んだばかり。「鳥のさえずりに文法があるというテーマにロマンを感じて、これからの2年間はこれを研究していきます」と、なかなかユニークな自己紹介だった。

大腸菌と格闘する東大生、痩せたいオタク系「慶応ボーイ」


写真を拡大東京大学薬学部4年生となり、「日々、大腸菌とつきあっている」という7期生の劉佳妍さん。

  6期生以降はほとんどがまだ学生で、特に東京大学への進学率が高いようだ。その中で、陳さんのように研究の道を希望する卒業生も少なくない。エネルギーシステムと環境、経済をテーマに研究しているという8期生の張天鴻君、将来は量子コンピューターの研究に携わりたいと話す10期生の韓東学君などのほか、東大薬学部に進学した7期生の劉佳妍さんもその1人。

  今年4月に学部4年生となり、「日々、大腸菌とつきあっています。久しぶりにこんなに人に会えて、とてもテンションあがっています」と、ユーモラスに語る。あとで話を聞くと、所属する研究室でレセプタータンパク質の構造解析という研究を行っており、大腸菌にそのタンパク質をつくらせているそうだ。

  なぜ、薬学部かとたずねると、もともと生物と化学に興味があり、その両方ができるのが薬学部だったからだという。将来については思案中だが、博士号の取得も視野にいれつつ、最終的には中国に戻ることを考えている。

  実は中国はいま、国をあげて新薬創出を推進中だ。中国発の新薬も誕生しつつある。劉さんも、いずれその最前線で活躍することになるかもしれない。

写真を拡大今年の春から「慶応ボーイ」になった10期生の宋仕喆君。

  この春、日本の大学に進学したばかりという生徒も多かった。9期生の李婧さんは慶応義塾大学に入学して約2週間。そこで感じたことは、「慶応ボーイのイメージはウソ!」。

  その「慶応ボーイ」に、同じく4月からなったばかりの10期生の宋仕喆君は、「(大学のある)日吉から来るのが遠くて、遅刻してしまいました」と、みんなの自己紹介が終わるころ、慌ただしく会場に入ってきた。歓談タイム中に話かけると、哲学から政治まで、授業をいろいろとりすぎて、日曜日以外休みがないという。

  「痩せたい」というので理由を聞けば、大学の健康診断で血圧145を記録し、やせたほうがいいといわれたそうだ。「それに慶応ボーイっていわれても、痩せてはじめて慶応ボーイですから!」と、宋君。

  大学で「慶応ボーイの鏡」のような人を見て、「自分がなれるかどうかはともかく、やっぱりああなりたいですよ!」と、さかんに前髪に手をやる。趣味はガンプラとゲームという彼も、ヘアスタイルが気になる年ごろになったということか。

  ヘアスタイルといえば、赤茶の派手な髪で登場した8期生の藍浩君は、自己紹介のはじめに、「この髪のせいで不良とかいわれるけれど、そうじゃありません!」と告白。「2月に帰国したとき、母親の余ったヘアカラーを使ってこうなっただけです」という話に、会場は大爆笑だった。

心連心卒業後半年で日本に戻ってきた12期生たち


  とりわけ、みんなと異なる進路を進むのは、長野県のインターナショナルスクールに通う10期生の丁依寧さんだ。9月からアメリカのニューヨーク大学に進学が決まっている。

  「普通は日本か中国の大学に進学するのに、私だけ違っているので、心細かったんです。でも、今日はみんなに会えてうれしいです」

  そう話す丁さんに、会場から大きな拍手が送られた。

  さらに今年は、昨年の夏に帰国したばかりの12期生が、はやくも日本に戻ってきている。なかでも羅清麟君は、すでに早稲田大学に通っている。本来ならいまごろ、中国で高校3年生をしているはずだが、心連心の留学中から準備を進め、中国の高校を前倒しして卒業、4月に入学したばかりだという。

写真を拡大昨年夏に帰国し、早くも日本に戻ってきた12期生の江娉さん、賈雯さん、趙一青さん。

  また同じ12期生の江娉さん、賈雯さん、趙一青さんの3名も、中国の高校を半年早く卒業し、いまは東京で日本語学校に通いながら、大学進学をめざしている。

  自己紹介のあとには、日中交流センターの事業に参加した卒業生たちの発表があった。

  1番目は日本企業文化紹介セミナーに参加した3期生の礼済聞さんと皇甫丹婷さんの話。このセミナーは日中交流センターが中国各地で展開する「ふれあいの場」で、毎年夏に開催しているもので、2人はそこで、現地の大学生に自身の就職活動体験や、中国企業への就職との違いなどについて語ったそうだ。

  次に、10期生の劉氷森君がリードアジアについて発表した。これは日本と中国の大学生が東京に集まり、合宿をしながら、日本の企業を訪問するというユニークな交流プログラムで、日中学生交流連盟と国際交流基金が共催している。実行委員は学生自身がつとめ、心連心の卒業生の参加も多い。

  去年の卒業生交流会でも、実行委員の1人だった5期生の温皓恒君が活動を紹介。これがきっかけで、劉君は応募をきめた。そしてその面白さにはまり、今年は実行委員として、活動を紹介する側に立ったのだという。

  「参加してみて成長を実感できたし、国籍問わず親友もできた。興味のある方はぜひ応募を」と、熱く卒業生たちに呼び掛けた。

心連心で知った価値観の多様性の大切さ


写真を拡大卒業生代表挨拶をつとめた4期生の張亜新さん。

  最後の卒業生代表挨拶は、心連心を卒業して10年目となる4期生の張亜新さんがつとめた。冒頭の自己紹介で、「自分の名前が名簿の上になって悲しい」と冗談めかしていた張さんは、実は東京大学卒業後、(株)ミキハウスを経て、ボストン・コンサルティング・グループ勤務というなかなかすごい経歴を持つ。

  そんな彼女が、「中学、高校では、勉強はできたけれど、人間性はちょっと欠けていた」と語る。「自己中心的で、勉強ができない人たちを見るとだめだと思っていました」と、張さん。

  心連心で盛岡中央高等学校に留学し、初めて部活に参加したとき、マネージャーという、他人をサポートするだけの存在が理解できなかったそうだ。しかし剣道部に入り、2人1組の稽古で打つ側と打たれる側を経験し、それによってはじめて剣道が上達することを知った。「そこから自分も変わっていきました。価値観の多様性を大事にしたいと考えるようになったんです」と、話す。

写真を拡大今年も心連心ポーズで全員集合。

  そして、今年、話題になった上野千鶴子・東京大学名誉教授の東大学部入学式祝辞から、「恵まれた環境と恵まれた能力とを、恵まれない人々を助けるために使ってください」という言葉を引用する。

  「これまで私たちは、心連心の交流プログラムなど恵まれた環境の中で、日本や中国について理解を深めることができました。そんな私たちにしかできないことがあると信じ、その能力を、人を助けることに使っていきたいです」

  張さんはそう締めくくり、割れんばかりの拍手に包まれた。

  その後も会場ではしばらく、卒業生や日中交流センターのスタッフたちとの交流が続いた。懐かしい再会、初めましての新しい出会いに、話題は尽きそうもない。

  さらに今年夏には、令和初の卒業生26名も加わる。平成から令和へ。400名を超える卒業生たちが、心連心が紡いだ日中の交流の輪を、次の時代へと引き継いでゆく。

  【取材を終えて】
  今回、卒業生たちの自己紹介を聞いていると、学部卒業後、就職ではなく研究を希望する生徒が、以前より増えたような印象を受けた。本文に登場した劉佳妍さんをはじめ、いつか心連心の卒業生からノーベル賞受賞者が出たら、それは本当にすごいことだと、楽しい想像をしてしまった。
(取材・文:田中奈美 取材日:2019年4月20日)

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