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JAPAN FOUNDATION 国際交流基金[心連心]

日本と中国の若者が未来を共に創る

参加者インタビュー

日中21世紀交流事業に参加された方々に交流を振り返っていただきました

趙 一青(ちょう・いっせい)さん

写真を拡大春の入学を楽しみにする趙一青さん(早稲田キャンパス・大隈記念講堂の前で)

名前
趙  一青ちょう いっせい さん

プロフィール
  2001年、北京市生まれ。北京十一学校(中学・高校)在学中に「心連心・中国高校生長期招へい事業」第12期生として来日し、愛知県岡崎市の光ヶ丘女子高等学校に留学。帰国して高校を卒業した2019年4月、日本の大学進学を目指して再来日し、入試に備えた。2020年4月、早稲田大学文化構想学部入学予定(2月取材時点)。趣味は読書、文章を書くこと、アニメ・漫画鑑賞など。 小学4年生の時に幻想小説『幻狐秘境』(巨石文華)を、また2019年11月には心連心の日本留学体験記『16歳,我在日本:小留学生日記』(江蘇文芸出版社)をそれぞれ中国で自費出版した。

  「大学に入ったら、やりたいことがいっぱいです!」。この春、名門私立大学、早稲田大学(本部・東京都新宿区)に入学する趙一青さん(18)は、輝くばかりの笑顔を見せた。日本での進学を決意したのは、「心連心」プログラムの第12期生として高校時代に日本に留学したことが大きいという。昨年末には心連心プログラムで日本滞在中に書いた日記をもとにした留学体験記『16歳,我在日本:小留学生日記』を中国で自費出版した趙さん。心連心で学んだことや大学合格までの道のり、将来の夢などについて聞いた。

「文化を発信する」学部へ


写真を拡大大隈講堂をバックにガッツポーズ

  北風が吹き抜けて、スッキリと晴れわたった2月上旬のこの日。趙一青さんとは、早稲田大学のシンボルとして知られる大隈記念講堂の前で待ち合わせた。通称「大隈講堂」と呼ばれるそこは、同大学の創立者である大隈重信を記念して建てられた、ゴシック様式の建築が美しい国の重要文化財だ。

  約1世紀にわたる歴史の重みを感じさせる講堂をバックに、4月から同大学の文化構想学部に進学すると話してくれた趙さん。その顔は、この日の青空のように晴れやかに見えた。

  「大学生になったら、やりたいことがありすぎて。学生生活、授業、サークル、友だち作り……。初めての経験だから、今からワクワクしています!」

  大学の公式サイトによれば、2007年に新設された同学部では「新しい時代にふさわしい文化を構想」し、「日本文化を世界的な視野から学び、その成果を広く世界に向けて発信できる人材を育成する」ことなどを目指しているという。

  早速、趙さんに大学で学びたいことを聞くと「ハッキリと決めたわけではありませんが」とためらいながらも、「茶道、華道、文学、アニメ……。いろんな日本文化に興味があります。中国と日本の文化のつながりについても、もっと深く学びたい」という。

  そもそも早稲田大学は、外国人留学生が約5000人と日本の中で最も多い大学だ(2017年、日本学生支援機構)。グローバルで多様性があり、異文化に触れるチャンスにも恵まれている。「多様な文化を学びたい」という趙さんの期待に応える学習環境であることは間違いがないだろう。

心連心の経験あればこそ


写真を拡大時間があれば、街歩きをするのも好きだという(早稲田大学・戸山キャンパスそばの穴八幡宮で)

  それにしてもなぜ、日本の大学への進学を決めたのか?趙さんにとってそれは、なにも特別な選択肢ではなかったようだ。中学生のころから日本語を選択科目として学び、高校時代には心連心プログラムで約1年間、日本の高校に留学していた。

  「日本には小さいころから親近感を持っていたし、心連心の経験があったからこそ、アメリカではなく日本への留学を決めたように思う。もちろん両親が後押ししてくれたこともステップになりました」

  心連心プログラムを終え、高校を卒業した2019年4月に大学進学を目指して再来日し、東京都内の日本語学校と予備校に1年近く通いながら入試に備えた。

  「大学入試の出願に必要となる英語のテスト『TOEFL』や『日本留学試験』(EJU)を受けるための勉強が大変でした。私の場合はまず、心連心を終えた帰国後に、留年せずに高校を卒業したので、遅れていた1年分の勉強を一気に挽回しなければならなかった。それと大学入試では、英語をはじめEJUの日本語と総合科目、数学などまんべんなく勉強しなければならないのに、全然時間が足りなくて……」

  この1年の受験勉強に対しては「やり尽くせない」悔しさもあったようだが、それでも早稲田大学に合格したのは「EJUの日本語で満点を取ったからかな。早稲田では(得意な)日本語が重視されたようで、運が良かったのかもしれません」と照れながらも、冷静に自己分析する。

  大学からそう遠くない静かな住宅街で一人暮らしをしているという趙さん。

  「今、自炊を楽しんでいるんです。学校にも日本風の手作り弁当を持っていきましたよ」

  スマホの画像を見せてもらうと、パスタに鶏肉炒め、温野菜など彩り豊かな弁当には、ポットに入った味噌汁までついている。「油控えめの和食はヘルシーでおいしい」と健康管理も万全のようだ。北京の両親ともスマホのビデオ通話でよく連絡を取り合っているので、「ホームシックにかかったことはありません」と元気よく笑う。

おじいさんが愛用した辞書


写真を拡大心連心の留学時代に煎茶道を習った趙さん。中国と日本の文化のつながりについても関心を深めたという

  多くの観光客でにぎわう街、新宿にある古い喫茶店に場を移して、インタビューを続けた。

  話題はさらに過去にさかのぼるが、趙さんが「日本」と出会ったのは小学4年の夏休み。学校の先生に薦められて見た、宮崎駿監督のアニメ映画『天空の城ラピュタ』だったという。

  「もう夢中になって、夏休みだけで(DVDを)100回は見ました」。その衝撃は大きく、ラピュタの影響を受けたという幻想小説『幻狐秘境』を同年の夏休み中に書き上げて、自費出版したほどだった。

  「日本」との出会いで、忘れられない思い出がもう1つある。

  趙さんが生まれる前に亡くなった父方の祖父は建築士で、1990年代に仕事で訪日して以来なぜか日本にハマってしまい、日本語の独学を続けていた。趙さんが中学で日本語を学び始めた時、祖母から「よかったら使ってね」と祖父が亡くなるまで愛用していた日本語の辞書を贈られたのだという。

  「もうメッチャ古いし、今なら電子辞書とかスマホの辞書アプリがあるから使えないんだけど、でもうれしかった。会ったこともないおじいさんだけど、日本語を勉強するという共通点があるんだなと……」

  クラスには「歴史認識」の問題で、日本語を学ぶことを親から反対された友だちもいたが、「私の場合は家族みんなが応援してくれた。おじいさんがあれだけ日本好きだったので日本に親近感を持っていて、反対するどころか熱烈に励ましてくれたんです」。建築士を継いだ父親、臨床心理士の母親、そして家族の理解と支えがあってこそ、好きな日本語が続けられたと趙さんは感謝の思いを新たにする。

「JK言葉」に仰天したことも


写真を拡大心連心の留学時代に煎茶道を習った趙さん。中国と日本の文化のつながりについても関心を深めたという

  高校2年の時に体験した「心連心」での日本留学も、深く心に刻まれている。「可能性がたくさんあるうちに外国で挑戦したい」。大きな希望を胸に2017年9月から約1年間、愛知県岡崎市の光ヶ丘女子高等学校に留学した。

  中国では珍しいミッション系の女子校だ。期待はふくらむばかりだったが、いざ留学してみると、言葉や文化の違いからとまどうこともあったという。

  まず、教科書には載っていなかった「JK(女子高生)言葉」だ。

  「カワイイ」「ヤバイ」「マジ」「メッチャ」といった独特の流行語は、「慣れればそれだけで会話が成立するのでメッチャ便利なんですが、最初は意味がわからなくて困りました(笑)」。

  そして、日本の習慣では「人に迷惑をかけない」ことが大事だとわかっていたが、連絡ミスで約束の時間に先生をかなり待たせてしまったこともあった。「先生に連絡する勇気がなかった私は、今から思えば未熟でした。たいして叱られませんでしたが、反省しました」

  しかしそうした1つひとつの出来事が、趙さんにはかけがえのない体験となっていった。毎日のお祈りや聖歌の合唱では心を穏やかにすることができた。部活動や授業では華道や茶道(煎茶道)といった日本の伝統文化にも触れた。チアリーディングで心を一つにした体育大会、ホストファミリーの家で過ごした日本のお正月、外国人のど自慢大会で歌った大好きなアニメソング、徳川家康生誕の地である地元・岡崎市で、春に行われる「家康行列」に忍者のコスチュームで参加したこと……。

  「お正月にいただいたお屠蘇(とそ)も華道、茶道もそうですが、中国から伝来した文化が日本で独自の発展をとげて受け継がれている。その一連のプロセスに興味を抱いたのも、この留学がきっかけでした」

  趙さんの成長の記録ともいえる日記は、12期生の中でも屈指の90本余りを数えた。今も心連心のウェブサイトで公開され、読者の好評を博している。

  ◆趙一青さんの日記
https://xinlianxin.jpf.go.jp/invitation/diary/list/

「無駄なことは何一つない」


写真を拡大新著には心連心の大切な思い出が詰まっている

  昨年11月には、心連心の日記をもとにした日本留学体験記を中国で自費出版した。『16歳,我在日本:小留学生日記』だ。

  あとがきに付けたタイトルは「没有一件事情是没有意義的」(無駄なことは何一つない)。

  「最初、日本のクラスメートが部活で一生懸命になっている姿を見て、大学受験に役に立つのかと不思議でした。私も『家康行列』に参加しなければ、単語がもっと覚えられたのに、と思うことも……。でも茶道には『一期一会』という心得があって、一生に一度だけの機会をとても大切にしています。その時だけの経験が積み重なって、今の私がある。時には失敗したり、後悔したりすることもあるけど、振り返ればそれも決して無駄ではないと思うようになりました」

  そのメッセージは、中国の友人たちからも「胸に響いた」と評判になった。「これからも自分自身に言い聞かせたいし、若い読者にも伝わればいいな」と語る。

  将来の夢は、おぼろげだが「国際交流の仕事がしたい。国際的な組織に入って、日本の文化を中国に、中国の文化を日本に発信するような仕事ができれば……」。

  その夢をかなえるためにも、まずは大学の文化構想学部で「日本文化を発信する」という課題をクリアしなければならないだろう。「これからも日記を書いて発信するつもりです。動画が人気の時代なので、動画制作にもひそかにチャレンジしているんですよ(笑)」

  趙さんの「無駄なことは一つもない」輝ける日々は続く。

  【取材を終えて】
  東京の一人暮らしで自炊を楽しんでいるという趙さん。日本の家庭料理、味噌汁を作っていると聞いて驚いたが、小さいころに読んだ小説『おしん』(中国語版)に出てきて興味を持ち、心連心のホームステイ先でふるまわれて好きになったそうだ。「小さいころに受ける印象は大きい。だからできるだけ早い段階で相手の国を知ることは大事」だとも。将来は、日中を知る国際人として、さらに大きく羽ばたいてほしい。
(取材・写真・文:小林さゆり 取材日:2020年2月6日)

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