参加者インタビュー
2021年12月8日、中国広東省・中山市外国語学校(小欖中学校)日本語学科の高校生が、大阪府立夕陽丘高等学校の生徒たちと、オンラインで交流した。
中山市外国語学校の日本語学科の設立は2002年、現在、日本語を学ぶ生徒は約1500人で、全校生徒の半数ほどを占めるという。このうち、高校3年生の30名が参加した。
実は両校は2021年2月に一度、オンライン交流会を開催している。ただ、当時はまだ交流方法を模索していた時期。両校の交流会は、パイロットプロジェクトとして、まず先生がテーマを決め、それをもとに日中の生徒たちが、それぞれ研究発表を行うという方式で行われた。その作業に時間を割いたこともあり、実際に交流したうえでの発表にまでには至らなかった。
次回は、生徒同士の交流に重きを置きたい……。日中双方からの希望で、今回は、中国と日本の生徒たちが、事前にそれぞれのグループごとに、メールで連絡を取り、お互いに相談しあってテーマを決めて発表しあうという、生徒主体の新たな試みが行われた。
交流会当日と、その後の中山市外国語学校の生徒たちを取材した。
一筋縄では行かないオンライン交流会
オンラインの交流会は手軽そうに見えて、実はそう簡単ではない。交流会を見学すると、そのことを実感する。
今回、会場となった大阪市と広東省中山市は、直線距離で約2500㎞。遠く離れた2都市をオンラインで結んだ交流会では、まず、開始直後、生徒たちがグループ発表のため、チームごとにブレイクアウトルーム(オンライン上の個別のトークルーム)へ移動すると、中国側の1グループがメインルームに取り残されてしまった。
何の不具合か、先生方があれこれと設定を見直していたが、うまくいかない。結局、取り残されたグループは、一度、オンラインから抜けて入りなおし、ようやく、割り当てられたトークルームへ移動した。
その後も、発表用のパワーポイントの資料がモニター画面に表示されなかったり、音声が途切れたり、画面がフリーズしたりと、大なり小なりのハプニングが起こった。さらに、まもなくグループトークの時間も終わるというところで、中国側の1グループがトークルームから消えた。通信の不具合のようだった。
このようなことは、今回に限ったことではないと、日中交流センターのスタッフは話す。オンライン交流会では、通信環境の問題もあり、多少のトラブルはつきものだそうだ。対応する先生方は少々大変そうだったが、それでも、画面の向こうからは、生徒たちの楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
中国の食文化、高校生活、日本の着物……盛況の発表会会
各グループのトークルームを訪ねると、中国の食文化を紹介する発表では、各地のおいしそうな料理の写真に、日本の生徒たちから、「こんな料理、見たことない!」と歓声が上がった。「食べたあとの骨は、骨皿というものに入れるのがマナーです。骨を犬に投げてはいけません」という話に、みな大笑い。
また、中国の高校生活を紹介する発表では、中国の高校生が寮暮らしで、早朝から夜の22時過ぎまでずっと勉強しているという話に、日本の生徒たちが「すごーい!」と驚いていた。
発表は日本語で行われ、発表後の質疑応答も、会話はすべて日本語だ。日本の生徒たちが着物文化を紹介すると、中国の生徒たちが、少したどたどしいながらもきちんと伝わる日本語で、
「七五三とは何ですか?」
「日本の着物は、どうして人気ですか?」
などと質問した。
日本の生徒たちも、
「七五三は、3歳、5歳、7歳の時、健康にその年を迎えられたことを祝う行事です」
「日本では、普段、洋服を着ているので、特別な日に、かわいくおしゃれを楽しめる着物が人気です」
と、ゆっくり、はっきりした口調で答え、中国の生徒は「なるほど」「へえ」とうなずいていた。
一方、中国の高校生活の発表では、日本の生徒から「何科目、勉強していますか?」と質問が出た。
中国の生徒が「6」と答えたものの、音声が途切れがちで、日本の生徒にうまく伝わらない。中国の生徒が指文字で「6」を示したが、親指と小指を立て、人差し指、中指、薬指を握りこむ中国式「6」は、日本の生徒にはわからない。
「え? 何? いくつ?」と言っているうちに、時間切れとなり、画面がトークルームからメインルームへ、自動的に切り替わってしまった。
そんなハプニングがありつつも、最後に全員がメインルームの画面に集合すると、みな、満面の笑顔で、交流を楽しんだ様子が伝わってきた。
文化の理解から言葉を学ぶ
後日、中山市外国語学校の阮真先生と、交流会に参加した生徒の代表5名に話を聞いた。
まず、阮真先生に、参加の背景についてうかがった。
「私たちの学校では、日本語の授業は、文法や単語だけでなく、日本文化への理解も必要だと思います」と、阮先生は話す。
「日本の文化を理解できたら、もっと自然に日本語を使えるようになりますし、異文化を理解しようという意識もはぐくむことができると思います。ですから、授業では、文法、読解、会話などのほかに、日本文化の授業もあわせて行っています」
スピーチ大会などの年間行事も、学年ごとに毎年行い、楽しく日本語を勉強できる雰囲気づくりにも力を入れているそうだ。ただ、学校には日本人教師がいない。以前はいたのだが、新型コロナウイルス感染症の影響で、生徒たちは、生の日本人と接する機会がほとんどなくなってしまった。だからこそ、今回のオンライン交流会は、日本の生徒と交流できる貴重な機会だったと、阮先生は言う。
「実際に日本の高校生と交流するのは、これが初めてでした。自分が学んできた日本語で、日本の生徒と交流をすることができたら、日本語を勉強してよかったと実感できるのはないかと思いました。そうすれば、これからも、もっとたくさん勉強したいという意欲もわくでしょう」
何より、中国とは異なる日本の文化を、肌で感じてほしかったそうだ。
「またそれだけなく、グループでパワーポイントの発表資料を作成したことも、よい経験になったと思います。すべて日本語で作成して、日本語で発表を準備したことで、日本語の表現を高めることができましたし、グループでのチームワークを高めることもできました」
事前のメール交流で発表テーマを決める
では、生徒たちは、どう感じただろうか。
日本のアニメがきっかけで、日本語を好きになったと話す宋巧文(そうこうぶん)君は、「日本人と交流できて、とても楽しかったです」と話す。
宋君のグループは、中国の食文化について、料理、マナー、食器、行事などを紹介した。「骨を犬にあげてはいけません」と言って、笑いをとったグループだ。
「今回の交流で、日本語も少しうまくなったのではないかと思います。僕は、インターネットで日本の風景をいろいろ見ているのですが、いつか、自分の目で見に行きたいです」
中国の漢服について発表した農可茵(のうかいん)さんも、「日本の友達と直接、話すことができて、本当に面白く楽しかったです」と、笑顔いっぱいで語った。
「日本の生徒のみなさんは、私たちの質問に丁寧に答えてくれて、本当にうれしかったです。私たちでも聞き取れるように、ゆっくり話をしてくれて、とても助かりました」
実際に会話をしたことで、日本語の勉強をもっとがんばりたいという思いがつのったそうだ。日本の食べ物に興味があるという農さん、日本に行く機会があれば、寿司と天ぷらとしゃぶしゃぶを食べたいと笑う。
「いい経験になったので、また機会があればぜひ参加したい」と話すのは、張志強(ちょうしきょう)君だ。「日本の生徒のみなさんは、かわいいですね!」という張君の言葉に、他の生徒たちがくすくすと笑う。少し緊張ぎみだった場が和んだ。
張君のグループは、高校生活について発表した。どうしてこのテーマに決めたのかたずねると、「ペアとなった日本側のグループと、事前にメールで相談して、お互いに興味のあるテーマを選びました」とのこと。
日本側から、中国の高校生活に興味があるというリクエストがあり、高校3年生の学校生活を紹介したそうだ。だが実は、この事前のやりとりが、少々大変だった。
「最初、日本の生徒からはLINEで交流したいと言われたのですが、僕らは、LINEが使えません。また、僕らが中国で使っているWechatというSNSは、日本のみなさんが使えないということで、結局、メールで2回くらいしかやりとりができませんでした」
それが少し残念だったという。
「それと、パソコンで、パワーポイントの資料を作るのも大変でした」と、張君。
特に今回、このパワーポイントの資料作りに、生徒たちは苦戦したそうだ。
寮生活の受験生たち、発表資料作りにも一苦労
張君と同様、高校生活を紹介した馬芷若(ましじゃく)さんも、「一つ大変だったことは、パワーポイントの作成でした。私たちはみんな寮生活で、普段、パソコンやスマホを使うことがとても不便なのです」と語る。
では、どうやって作ったのか。阮先生の話では、昼休みなどに、教員のパソコンを使って資料作りをしたそうだ。しかし、教師も仕事でパソコンを使わなければならない。パソコン作業のため、家に戻った生徒もいたが、みな受験を控えた高校3年生。朝から晩まで忙しい勉強の合間に、慣れないパワーポイントで資料を作ることは、思いのほか大変な作業となった。
「それでも、交流会に参加できて本当にうれしかったです」と、馬さん。
「私たちのグループではお互いに、中国と日本の高校生活を発表しあいました。日本の高校生の一日について、いろいろなことを知ることができましたし、いままで学んだ日本語で、中国のことを紹介できたことも、とてもうれしかったです。自分一人の力は小さいですが、中日の友好交流に、少しでも貢献できたのではないかと思います」
もし、また機会があれば、今度は発表形式だけでなく、もう少し自由に交流してみたいと、馬さんは言う。
今後の交流への抱負について、鄧茜藝(とうせんげい)さんも、「一緒にゲームをしてみたい」と話す。今回、鄧さんのグループでは、中国側が広東省の飲茶(ヤムチャ)を紹介、日本側は日本の季節や祝日などを紹介した。
「お正月の文化や端午の節句が面白かったです。お正月のおせち料理や飾りつけは、特別な感じがします。それに、日本ではお正月に着物を着るそうですが、中国のお正月では新しいきれいな服を着ます。中国とはちょっと違うと感じました」
日本のアニメが好きで、日本の文化に興味があるという鄧さん。発表後の交流では、中国でも人気の「鬼滅の刃」や、アイドルの橋本環奈の話などで盛り上がったそうだ。
「次にまた、このような交流会に参加できたら、しりとりをしたり、絵を描いてそれが何か当てるゲームなどをしてみたいです。そうしたらもっともっと交流を深められるのはないかと思いました」と話す。
リアルな会話で自信をつける
「今回、生徒たちは、初めて日本の高校生と会話をしたので、自分の日本語が伝わるか、自信を持てない生徒もいました」と、阮先生は交流会を振り返る。生徒たちは、高校1年から日本語を勉強し始めて、2年数か月。みな、日本語が上手とはいえ、普段、日本人と接する機会がほとんどないため、いざ、話をするとなると、気後れしてしまうようだ。
「そういう自信のない生徒は、今回の交流会で質問もできず、聞いてばかりになってしまいました。せっかくのグループ交流なのに、話ができる生徒が一人で話をしていて、とても大変だったと思います。それでも、実際に日本人と会話をしたことで、少しは自信をつけることもできたかなと思います」
今後はそのような生徒たちに、いかに自信をつけてもらえるか、日本語教師としても考えていかなければならないと、阮先生は感じている。
「今回はパワーポイントを使った発表形式の交流会でしたが、自由なスタイルでの交流もしていけると、生徒たちはもっとリラックスして、いろいろな話ができるようになるかもしれませんね」
さらに、交流会を通して勉強になったのは、生徒ばかりではないと阮先生。
「私たち日本語教師も、生徒の指導をしたり、事前準備をしたりして、とてもいい勉強になりました。これからも、このような機会があれば、ぜひ参加していきたいです」
次の交流の機会に向けて、さらに期待が膨らみそうだ。
取材・文:田中奈美 取材日:2021年12月10日