参加者インタビュー
東京学芸大学附属国際中等教育学校(TGUISS)と、北京市月壇中学の高校生たちとのオンライン交流会では、生徒たちが東京と北京で、お互いの行きたい場所を巡り、それを発表しあうというユニークなOne-Day Trip企画が行われた。
TGUISSは「心連心:中国高校生長期招へい事業」の長年の受け入れ校でもある。同校での最初の受け入れは2008年度の3期生。以来、2019年度の14期生までほぼ毎年、心連心の中国人留学生が同校に通った。今回の企画の発案者は、そんな彼らをずっと見守ってくださった先生方の一人、外国語科教諭の秋森久美子先生だ。今も時々、心連心の卒業生が学校に遊びに来るという。
もともと帰国生徒教育のパイオニア校である同校は、制服もない自由な校風で、さまざまなバックグラウンドの生徒が集まる。オンライン交流会に参加したメンバーも、アメリカからの帰国生やドイツ出身者、中華系インターナショナルスクールの卒業生など多彩だ。
交流タイトルは「君の街は。你的城市。One-Day Trip をプロデュース!」プロジェクト。全体テーマは「change(変化、変容)」、グループテーマは「空間」「時間」。
交流を通してどんな変化・変容があったか。今回は対面の座談会形式で、秋森先生と参加メンバー6人に話をうかがった。
さまざまなバックグラウンドの参加メンバー
――まず秋森先生から、One-Day Trip企画についてご紹介をお願いします。
秋森先生 One-Day Tripのアイデアは、高知の中学校と行った交流プロジェクトがきっかけです。両校の生徒たちが実際に現地を旅行し、オンラインで紹介しあうという企画で、これを中国との学校ともできないかと考えました。
4回の交流のうち3回は、両校の生徒が旅行プランについて話し合う場としました。日本側は北京の、中国側は東京の行ってみたい場所を挙げて話し合いました。その後、東京では東京タワーや銀座、上野、浅草などを巡り、北京では清華大学や北京大学、天安門、国家大劇場などをまわって、4回目の交流会で発表しあいました。
――では、生徒のみなさんに、自己紹介と参加のきっかけをお願いします。
一森さん 一森吾郎といいます。現在、6年生(高校3年生)です。僕はアメリカに7年半いたのですが、去年の夏、香港の人と交流したとき、アメリカと日本以外の世界を本当に知らないなと感じました。それで、中国の人たちのことも知りたいと考え参加しました。
実は、受験も近かったので、すごく迷ったんです。でも、なにか楽しそうだし、楽しいことはやっておかないと、後から絶対に後悔すると思いました。
横田さん 横田爽花(さやか)です。同じく6年生です。私は埼玉県在住で、さいたま市が運営する国際交流団体に所属しています。そこで、国際交流のオンラインイベントの企画運営に携わったのですが、オンラインでの交流も、運営自体も初めての経験で、なかなか難しくて、オンラインイベントの問題を実感しました。
それで、どうしたらよかったのだろうと思っていたとき、ちょうどこのオンライン交流会の募集があって、もっと学んでみようと考えて参加しました。
花さん 私はドイツ出身で、名前は花(はな)と言います。私も6年生です。ドイツで中国語を勉強していました。2019年にドイツからの交換留学で、中国の山東省煙台市に5カ月間、滞在しました。でも、中国語はあまり自信がなくて、今回、参加してみようと思いました。
逸見さん 逸見康太です。6年生(高校2年生)で、生徒会長をしています。第二外国語で中国語を勉強しているので、交流会に参加しようと思いました。
中国語を勉強したいと思ったきっかけは、グライダーというスポーツで知り合った中国人の先輩です。日本語がすごく上手で、たまに中国語を教えてもらったりしています。僕も中国語で話ができたらいいなと思ったのと、両親からこれからは中国語を話せるようになったほういいと勧められ、中国語を選択しました。それで、オンライン交流会の募集を見たときは、迷わず申し込みました。
児玉(龍)さん 児玉龍之介、5年生です。僕は小学校の時、橫濱中華學院というインターナショナルスクールに通っていました。だから中国語はできるのですが、実際に、中国の方と接する機会はないですし、まして、現地の高校生と関わる機会というのは全然ありません。
将来、中国の大学に進学することも考えているので、今回の交流会はいい機会だなと思いました。
児玉(虎)さん 児玉虎乃輔です。龍とは双子で、僕も中国語を話せます。僕と龍は、もともと秋森先生から中国と交流するときは参加するよう言われていました。だから、最初のきっかけといえば、秋森先生に声をかけて頂いたことが大きいかもしれません。
秋森先生 児玉龍之介君と虎乃輔君は入学試験のとき、私が監督していた教室にたまたまいた生徒でした。私のことを覚えていてくれていたのか、入学してから挨拶に来てくれたんです。また、彼らは国際交流委員会にも1年生から所属して、海外との交流会があるごとにいつも積極的に参加していました。それで、いつか中国と交流をするときはよろしくねと二人に声をかけていました。
児玉(龍)さん 僕たち頼りになるから!(笑)
秋森先生 まあ、海外との交流会に出るお菓子につられただけかもしれません(笑)。
言語が、異なる社会と文化をつなぐ
――中国の高校生と交流をして、中国に対して印象が変わったことや印象に残ったことはありますか?
一森さん それほど深い交流ができたわけではないですが、話をしたら、めちゃくちゃいじられるし、すごく楽しいし、結局、僕らはみんな同じ人間なんだということを再認識しました。
児玉(龍)さん 僕も、月壇中学はすごく優秀な学校と聞いていたから、頭良くてちょっと硬い感じかなと思っていたのですが、みなさんとても気さくで、安心しました。
児玉(虎)さん 僕たちとあまり変わらないというか……、日本語がすごく上手で、中国語を話す機会はほぼありませんでしたね。
花さん 私は日本語があまり上手ではないし、オンラインだとうまく話せないのですが、中国のみなさんの日本語を聞いて、自分も頑張ろうと思いました。
逸見さん 実は、僕は一度も海外に行ったことがないのですが、今回、地理的にも文化的にも全く異なる日本と中国で、日本語という言語を使って交流できたことに感動しました。共通の言葉を話すことで、異なる国の人が一緒に笑ったり冗談を言いあえたり、同じ時間を楽しむことができるなんて、言語というのは本当にすごいと感じます。
僕も花さんと同じように、英語や中国語を話せるようになって、いろいろな人と気持ちを共有できるようになりたいとモチベーションが上がりました。
横田さん 私も一つとても印象に残ったことがあります。それは、最初に交流したときのことです。ちょうど冬に入り始めたころで、こちらはすでに真っ暗でしたが、北京はまだ明るくて、時差は1時間だけなのに、別の場所にいながらお互いに繋がっていることに感動しました。これは、現地で直接会っていたら感じられなかった感動だと思います。
オンラインのデメリットをポジティブに変える
――オンライン交流を通して、やりにくさや大変さを感じたことはありますか?
逸見さん オンライン交流会ではフリートークの時間があまりなかったので、もっとディスカッションなどしたかったと思いました。
児玉(龍)さん 僕は第1回の交流会で司会をしたのですが、相手の話を区切ってしまったり、次の話題に移すのが大変だったりなど、オンラインで司会をすることの難しさを感じました。
一森さん オンラインであるかぎり限界はある気はします。一人ずつしか発言できませんし、隣の人とちょっと喋ったりということもできません。
僕は日本語が拙い分、ジェスチャーを使ったり、相手の目を見たり、雰囲気で話すタイプなのですが、それができなかったことが少し残念だなと思いました。
でも、なるべく相手に伝わるような工夫はしました。例えば銀座を紹介するとき、和光の時計台のところで、ゴジラの映画に出てきたという話をしたり、僕たちにはよく知っていることでも、相手にとって背景知識がないと分かりにくそうなところには、小話を入れるなどしました。興味はもってもらえたみたいでしたが、大して笑いを取れなかったのは残念でした(笑)。
横田さん オンラインにはネガティブなイメージが大きかったのですが、逆にポジティブにも使えるのではないかなとも思いました。今はなかなか直接会うことはできませんが、インターネットを繋げば、いつでも会話ができるというのは最大のメリットだと思います。
児玉(虎)さん 今回の交流でびっくりしたのですが、One-Day Tripの企画のためにインターネットで紫禁城などの写真を探すと、古めかしい写真しか見つかりませんでした。でも、月壇中学のみんなが、実際に紫禁城に行って撮ってくれた写真はすごくきれいで、そのことにも驚きました。
横田さん 動画を撮影して送ってくれたのもすごくよかったです。写真は一方向の景色しか分かりませんが、映像だと建物の周りの雰囲気も分かるし、歩いている人も映っていて、実際の建物はこのくらいの高さなんだということも伝わりました。
秋森先生 北京名物のジャージャー麺の食べ方を一生懸命説明してくれたり……。
横田さん あれ、めちゃくちゃ面白かったです!
「壁」を楽しむ、違いを気にしない
――オンライン交流会を通してどんな学びがありましたか?
花さん オンライン交流にはさまざまな課題があって、私たちはたくさんの問題に臨機応変に対応しなければなりませんでした。でもそうした経験から、交流を成功させるために、柔軟性と適応性が重要だということを学びました。
また、日本語が得意でない私にとって、オンラインで話をすることは大きな挑戦でしたが、改めてコミュニケーションの大切さも感じました。これからはもっと勇気を出して、自由に話をしてみようと思います。
逸見さん 今はインターネットで調べようと思えば何でも調べられますが、現地の人の声は、インターネットの情報だけではなかなか分かりません。そういう生の声を聞けることが、海外とのオンライン交流の醍醐味だと感じました。
児玉(虎)さん 僕は交流を通して、壁というものについて考えました。僕たちも、月壇中学のみんなも、同じ世界に住んでいながら、文化や社会は全然違っています。でもそれは、日本と中国に限ったことではなく、同じ東京の隣の学校、あるいは隣の家の人との間にも、それぞれいろいろな違いがあると思います。
こうした違いは結局、オンラインでも、リアルでも、壁になってしまうかもしれません。でも、その壁そのものが、交流の面白いところでもあるのかなと思っています。
一森さん 僕は逆に、違いをあまり意識しすぎなくてもいいのかなと感じました。今回、歴史問題や政治などの話題は避けて話すようにしましたが、あまり気にしすぎると何も話せなくなるような気がします。だから変に考えすぎないようにすることも大事かなと思いました。
横田さん オンラインでの交流は難しいことも多いですが、回数を重ねていけば、相手のことをより知ることができます。特に最後の交流ではすごく距離が縮まったと感じました。だから交流会のあとも連絡先を交換したりして、個人単位でも交流を続けていくことが国際交流ではないかと考えました。
児玉(龍)さん 交流の中でいろいろ失敗もあって、勉強になったことはたくさんあるのですが、僕の場合、同じ学校の違う学年で、様々なバックグラウンドを持ったメンバーと交流できたことは、月壇中学との交流と同じくらい有意義でした。
日本にもいろいろなバックグランドの人がいるので、これからも交流を広げていきたいと思います。
最終回でメールアドレスを交換
――最後に秋森先生は、オンライン交流会を振り返っていかがでしたか。
秋森先生 私自身、オンラインには抵抗があって、それは今も変わりません。でも、やるからには、まるごと全部、生徒たちの学びになるものにしたいと考えました。
One-Day Tripの企画でも、テーマやどこに行くかはもちろん、昼食の場所探しや予約の電話、移動手段の下調べから、当日の全行程と最後の会計報告書まで、すべて生徒たちに任せて、私は裏方に回りました。
交流の記録をまとめたパンフレットも横田さんが編集を担当し、花さんがデザインして、印刷会社とのやりとりも生徒たちが自分で行いました。そうした様々なことを体験する良い機会になったのではないでしょうか。
――オンラインを通じた中国との交流はいかがでしたか?
秋森先生 生徒たちも話していたように、オンラインということで難しさもありました。私も花さんと同じで、オンラインだとあまり話ができなくなるのです。でも、それは月壇中学のみなさんも同じだったと思います。最初はお互いに緊張してガチガチでした。でもだんだん打ち解けて、最後のほうは、司会をしていた月壇中学の生徒がすごく面白くて盛り上がりました。
また、最後に先方の先生からメールアドレスを交換しましょうと言ってくださって、本当に嬉しかったです。それまでお互い距離がある感じだったので、ようやく信頼して頂いた気がしました。
実は交流会は2022年3月でいったん終わったのですが、あと2回、延長しようという話になって、今は、児玉龍之介君と虎乃輔君が中心となって準備をしているところです。次は、中国語が分からない生徒でも楽しめる、中国語での交流会を企画しようという話をしています。
児玉(虎)さん それについてはちょっと道が見えてきた気はしています。
秋森先生 いや、まだ見えていません! いずれにしても次も、全てが生徒たちの学びに繋がるようなものにしたいですね。
取材・文:田中奈美 取材日:2022年4月21日