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JAPAN FOUNDATION 国際交流基金[心連心]

日本と中国の若者が未来を共に創る

参加者インタビュー

日中21世紀交流事業に参加された方々に交流を振り返っていただきました

360名の卒業生が広げる交流の輪

  2018年7月1日に東京で、「心連心:中国高校生長期招へい事業」の卒業生交流会が開催された。1期生から10期生まで、関東圏在住の卒業生たち22名が集まった。

日本と中国で活躍する卒業生たち


  晴天の日曜日の昼下がり、気温30度を超す暑さの中、国際交流基金本部に心連心の卒業生たちが次々に集まってきた。高校留学当時はまだあどけない面持ちで、目をキラキラと輝かせていた彼らが、すっかり大人びた様子で、再会を喜んでいる。

  1~4期生はすでに社会人となった。約10年前、初々しかった少年少女たちが、いまではビジネスパーソンとして一線で活躍している。ずいぶん印象が変わり、スタッフから「一瞬、誰だかわからなかったよ!」と声をかけられている卒業生もいた。

  冒頭で開会の挨拶に立った国際交流基金日中交流センターの堀俊雄所長によると、昨年7月に卒業した11期生までの人数は360名にのぼる。このうち、大学進学や就職で日本在住中の卒業生は160名、半数近くが再び日本で暮らしている。

  さらに東京を中心とした関東地区在住は110名、大阪を中心とした関西地区在住は33名。毎年、順調に卒業生の人数は増え、日中交流センター事業とのつながりも多岐にわたるようになったと堀所長は言う。

  たとえば、後輩の心連心留学生たちの研修で自身の留学体験談を語り、留学中壁にぶつかっている後輩達にアドバイスを伝えてきた。また同センター共催事業の「リードアジア」で、実行委員をつとめた卒業生もいる。

  2017年からは、お世話になった日本の母校を訪問し、在学生を前に講演するという活動も始まった。(心連心OB・OG母校訪問企画 第1弾 あの日の僕に再会!心連心OB・OG母校訪問企画 第2弾 私たちのこころのふるさと)さらに中国国内では、中国在住の卒業生たちが、日本人高校生の訪中事業や、中国ふれあいの場のイベントなどに積極的に協力してくれている。

卒業生の自己紹介では結婚の報告も


写真を拡大卒業生代表挨拶をつとめる10期生の劉氷森君。

  卒業生代表挨拶をつとめた10期生の劉氷森(リュウ ヒョウシン)君は、現在は、東京大学に通っている。「心連心で経験したことは大切な宝。10代の同級生から70代のホストファミリーのおばあちゃんまで、いろいろな人と交流できたことで、思いがけない発想やアイデアをもらった」と、高校留学時代を振り返った。

  「後輩にアドバイスできる先輩になりたいというのは、みんなの共通の思いではないでしょうか」

  緊張気味ながら、しっかり自分の言葉で語る劉君の口ぶりからは、立派な先輩に成長している様子が伝わってきた。

写真を拡大和気あいあいと自己紹介をする卒業生たち。

  続いて卒業生の自己紹介では、それぞれが自分の近況を簡単に報告した。

  1期生の劉暁倩(リュウ ギョウセイ)さんはPwCコンサルティングやグロービス経営大学院の講師などを経て、最近、起業したと話す。2期生の張宏駿(チョウ コウシュン)君は宮崎大学農学部を卒業後、日本製紙木材株式会社で働いているそうだ。

  「それと、2年ほど前に結婚しました」

  張君の突然の結婚報告に、おもわず会場がどよめいた。初期の卒業生はすでに20代後半。張君以外にも結婚する人が出始めている。今回参加した4期生の樊雪妮(ハン セツニ)さんもその1人。お相手は大学時代に知り合った日本人男性という話に、会場はまた、「お~!」と盛り上がった。

一流企業のビジネスパーソンから獣医を目指す大学生まで


写真を拡大ソフトドリンクで乾杯、交流を深める。

  この日の参加者の就職先はPwCアドバイザリー、富士通、キヤノンマーケティングジャパン、監査法人トーマツ、博報堂、富士フイルム、ボストンコンサルティンググループなど、留学先は東京大学、一橋大学、早稲田大学など、大手企業や有名大学の名前が並んだ。

  留学したばかりのころはたどたどしかった日本語も、今は日本人と変わらないくらい流暢に駆使し、さらに外資系企業で普段は英語を使っているという卒業生もいる。改めて、彼らの優秀さを目の当たりにした。

  ビジネス系の進路が多い中、「異色」の道に進んだ卒業生もいた。東京農工大学獣医学部に進学した8期生の盧曦子(ロ ギシ)さんだ。

  「母親が看護師をしており、医学部にも興味があった」という盧さん。ただ、小さいころから大の動物好きで、最終的には獣医学部を選択した。

  しかし、中国では動物医療は発展途上で、獣医の地位はそれほど高くない。最初は親に反対されたそうだ。それでも動物が好きだという気持ちが強かった。ペットブームの中国で、今後、獣医のニーズはますます高まるという期待もあった。卒業後はしばらく日本の動物病院に勤めたあと、中国に戻って獣医になることも考えている。

  また、2016年7月に卒業した10期生の宋仕喆(ソウ シテツ)君は、現在、東京で予備校に通いながら日本の大学受験の準備をしている。取材時は早稲田大学の受験を終え、次に大阪大学を受けるところだった。

獣医をめざす8期生の盧曦子さんと大学受験準備中の10期生の宋仕喆君

  心連心では福井県の敦賀気比高校に留学した。新聞部に入部し、真面目一徹の部長とタッグを組んで活躍したり、野球部が甲子園に出場した際はみんなで応援に行ったりと充実した留学生活を送った。

  だが、そんな宋君も、中国にあまりなじみがない地方都市で、日中間の交流の少なさを実感したという。「大学進学後は文化交流に携わりたい」と話す。

中国政府にも評価された心連心の事業


  今回の交流会では、もう1つ、うれしい報告があった。

  それは中国政府が心連心の「中国高校生長期招へい事業」を高く評価し、長年にわたって留学生を受け入れてきたホストファミリーを昨年、北京と天津に招待したことだ。「ホストファミリーにお世話になった卒業生たちと、中国で再会を果たすことができました」と堀所長が話すと、卒業生たちからは歓声と拍手がおこった。

  さらに今年は第二弾として受け入れ校の校長先生を、来年は各校の受け入れ窓口の先生方を、中国政府が招待する計画もあるとのこと。「これだけの広がりを持てるようになったのは、卒業生一人一人が日中交流センターの事業に積極的にかかわってくれているおかげです」と堀所長。

  ただその裏には、事業のバトンを丁寧につないできた日中交流センターの歴代スタッフたちの努力もあった。この日も現役スタッフだけでなく、かつてのスタッフたちも駆け付け、みな一言ずつ卒業生たちにメッセージを送った。

  心連心事業の立ちあげにかかわったスタッフの1人が、「当時、ここまでの広がりは想像もしていなかったので、とてもうれしく思います」と涙ぐむシーンもあった。

生徒を支えるスタッフの思い


  「毎年、本当にいろいろな生徒がいて、中国人の子供はどんな子だと一言では言えません」

  今年7月末で日中交流センターを離れるスタッフは、感慨深げにそう語る。彼女はこの4年間、生徒たちのサポートに奔走してきた。

  「心連心の事業は、中国人留学生にとって、友達づくりサバイバルのようなものです。言葉のギャップや中国に対するネガティブな印象もある日本で、友達をつくることは簡単ではありません」

  きっかけをうまく得られない生徒には、クリスマスやバレンタインデーなどに小さなプレゼントをしてみるようアドバイスもしたそうだ。女子生徒は案外それでうまくいくことも多かったが、シャイな男子生徒の中には時間がかかる者もいた。

  生徒たちの人間関係から地震などの災害まで、トラブルのない年はなかった。仕事を通じて自分も成長したと、同スタッフ。以前は「言わなくても通じるだろう」と曖昧にしていたことも、生徒たちにはきちんとはっきり伝えなくてはならなかった。

  「大変なこともあったが、中国の子供たちのバイタリティと能力の高さはやはりすごい」と語るスタッフに、4年間の感想をたずねると、「それはもう楽しかったです!」と満面の笑顔になった。

卒業生交流会の新たな展開に向けて


写真を拡大心連心お馴染みのハートマークのポーズで全員集合

  交流会の終盤には、1、2期生が卒業の際に書いた「10年後の自分への手紙」の返還があった。すでに一部は返却済だが、今回、参加した2期生の3人には、堀所長から直接手渡された。

  「何を書いたか覚えていない」と、手紙を開いた王天一(オウ テンイツ)さん。しばらく無言で目を通していたが、そのうち涙が溢れだした。すかさず卒業生の1人がティッシュの箱を差し入れ、会場が和む。

  メッセージには「10年間、いろいろあるだろうけれど、人生を楽しんでください」という内容が書かれていたそうだ。「このメッセージに力をもらってがんばっていきたいです」と、王さんに笑顔が戻った。

  最後に、日中交流センターの塩澤雅代事務局長からもエールが贈られた。

  「日中交流センターは、みなさんの日本の実家だと思っています。いつでも遊びに戻ってきてください。また、それぞれの場でがんばってください」

  そんな暖かいメッセージに、会場は大きな拍手に包まれた。

  「今後、この交流会は毎年、卒業生主催で開催できるようにしていきたい」と、堀所長は話す。このまま、毎年約30名の高校生を受け入れて行けば、数年後、卒業生の数は500人を超える。そして世代を超えた卒業生たちの絆が深まれば、それは日中交流センターの交流事業を支える大きな「根」となるだろう。卒業生交流会の新たな展開が楽しみだ。

  【取材を終えて】
  心連心の取材では、いつも生徒たちが主役となる。しかし、今回改めて、事業の成功の裏には、スタッフたちの丁寧な仕事ぶりと熱い思いがあることを感じた。
  「10年後の自分への手紙」の返還の際には、この企画の発案者で、元スタッフの富樫史生さんからのビデオメッセージが流された。富樫さんは現在、ニュージーランド在住。「たとえ一歩一歩でもあきらめずにゴールに向かっていけば、いずれゴールにたどりつける」という力強いメッセージに、会場から感嘆の声があがった。
  すでに現場を離れたスタッフも、折に触れて卒業生たちとつながっている。そのことが、心連心の事業をより豊かにしているのではないかと感じた。
(取材・文:田中奈美 取材日:2018年7月1日)

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