Interviewインタビュー 「心連心:中国高校生長期招へい事業」第17期生 帰国前報告会とレセプションレポート【後編】
Vol.84 違いに始まり共通点へと至る交流
心連心のプログラムが始まったのは2006年。この20年の間に17期生まで合わせて472名が参加し、卒業生のうち261名が留学や就職などの形で再来日しています。7月16日の「帰国前報告会とレセプション」には、卒業生やプログラムを長年サポートしてくれている学校関係者も多く集まりました。彼らの声をお届けします。
心連心があるからこそ今の自分がいる ~卒業生の楊賛さん
2012~2013年に心連心のプログラムで日本の高校に留学した楊さん。留学後、上海の大学進学を経て日本のコンサルティング会社に就職、その後オーストラリアでMBAを取得し、現在はIT企業で働いている。「私が日本で一番衝撃を受けたのは、部活動でした。中国にいたころバドミントンが好きだったので、軽い気持ちでバドミントン部に入部したのですが、毎日の練習が大変で、かつチームで一番下手で、自分の至らなさを痛感しながら周囲についていくのに必死でした。チームで最下位、という経験はその時が初めてで、スキルのなさに落ち込み、憂鬱な時間を過ごしました。でも、今ではそんな経験がこれまでの人生で一番役に立ったと思うのです。最下位であることから恐怖心を捨てて、チャレンジする力を手に入れました。私は完璧主義者になりがちで、ミスをすることや恥をかくことを怖がり、何かにチャレンジすることを躊躇してしまいがちでした。しかし、最下位である以上、自分にはもう失うものがありません。ミスや失敗は日常茶飯事なので気にしている暇がなく、とにかくできることは全てやり、がむしゃらに頑張る力を身につけました。
そしてもう一つ、何かに集中してフルコミットすることの大切さを学びました。最初は理解できなかったみんなの部活動に対する熱い思いを自分も持つようになったり、チームメンバーでしかわからないジョークで一緒に笑えたりするようになりました。何よりも、短期間しかいない留学生ではなく、ちゃんとした仲間の1人として受け入れてもらいました。これら全てが、フルコミットしたからこそ得られたものかと思います。大変な思いをした時でも視点を変えればそれが良い経験になるし、それがあったからこそ、今の自分がいると思っています。ですから、日本での留学で培ったものは皆さんのこれからの人生に必ず役立つと思います」。
自分たちで見つける日中関係 ~三重高校の秦先生
自校と中国の成都外国語学校をZoomでつなぎ、毎年9月から2月までの間、月に約1回の頻度で「日中高校生の対話・協働プログラム」を実施している三重高校の秦先生にお話を伺った。
「中国側は日本語の授業の1時間を取って、日本側は授業後に集まって交流しています。中国の高校生たちはアニメやドラマをいろいろ見ていて、日本のことをよく知っているんですね。ところが日本人は中国での生活をほとんど知らないんですよ。
中国とのこのやり取りは非常に意味があります。高校生同士が交流すると、中国の高校生も日本の高校生も、考えていることは同じじゃないか、同じような感覚で生きているじゃないか、という会話ができるんですよね。新聞に書いてあるような日中関係以外のものが、このプログラムで見つかるという面白い場になっています。高校生ですから恋愛や大学入試の話、今日の授業はこんな風だった、という話題はやはり盛り上がります。でも一番の驚きは、『自分たちは実は一緒じゃないか』ということ。それが彼らにとって一番の衝撃だと思います。
今年、心連心で三重高校に留学に来ていた徐子涵さんは、去年この『対話・協働プログラム』に参加していた生徒なんです。うちの高校では参加希望者が多くて、生徒をセレクションする必要あるくらいなんですよ」。
心連心のこれから 人と人を結びつけることが、未来への投資になる ~国際交流基金 国際対話部長 原秀樹氏
レセプションの最後には、国際対話部長である原秀樹氏から心連心の意義、今後について語られた。原氏は「どんな形であれ続けていきたい」と語った。その理由は大きく二つあるという。
まず挙げたのは、中国と日本という隣国同士の関係だ。
「10年後の世界がどうなっているかは誰にもわかりません。しかし、一つだけ確かなことがあります。それは、10年後も中国と日本は隣同士の国であり続けるということです」だからこそ、将来に向けて今できることは何かを考えなければならないと語る。「隣にいる以上、10年後も仲良くしていたい。そのために私たちができるのは、一人ひとりの人と人とを結びつけていくことだと思っています」
もう一つの理由は、対面交流の持つ価値だ。近年はオンラインで容易に国境を越えたコミュニケーションができるようになり、「対面交流の意味は薄れたのではないか」と問われることも少なくないという。しかし原氏は、むしろ対面だからこそ得られる経験があると強調する。「オンラインの世界では、自分と価値観や興味の近い人たちとつながることができます。しかし、その環境ではなかなかマイノリティになることができません」原氏は、これからの時代を生きる人々にとって、「マイノリティになる経験」が重要だと考えているという。「自分がいかに小さな存在か、自分がいかに人と違うかを知ることから始まります。そして最後には、『なんだ、みんな同じじゃないか』というところにたどり着く。そのプロセスこそが国際交流の本質だと思うんです」国際交流は違いを認識することから始まる。しかし、最終的に人々が見いだすのは共通点だという。
「平和や愛、友情といった、人間にとって本当に大切なものは実はそれほど多くありません。違いを越えて交流することで、そのことに気づくのだと思います」そうした価値を、この事業の卒業生たちは17歳、18歳という若さで理解している。それこそが、このプログラムの最大の成果だと語る。
「若い人たちが、この年齢でそうしたことを理解し、自らの人生に生かしていく。その姿に、私は大きな希望を感じています」原氏はこう語る。
同氏によれば、本プログラムの価値は知識や体験の提供だけにとどまらない。参加者が得た気づきをその後の人生に持ち帰り、それぞれの選択や行動に反映させていく点にあるという。「だからこそ、このプログラムがそうした価値を生み出し続ける限り、何としても継続していきたいと思っています」
未来を担う若者たちへの期待と、活動を継続する揺るぎない決意。その言葉からは、プログラムにかける深い使命感が伝わってきた。
取材を終えて
緊張と不安、期待と希望の中で始まった11か月の留学生活を経て高校生が得たのは、予想を上回る大きなものであったことがひしひしと伝わってきた。卒業生の言葉や活躍からもわかるように、心連心の経験の意味は、今後年月を経るごとにその深さを増していくのだろう。この11か月の学びを、それぞれの留学生が今後どのように消化し、開花させていくのかがとても興味深く、また国際交流の在り方について考えさせられる場でもあった。
取材・文:鈴木 香織 取材日:2026年7月16日
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